「本当に大丈夫なのか、ユタカ君」
「俺ら、お前さんが戦ってる姿見たことねーんだけど」
「うんうん。ほとんど二人の彼女が戦ってたでしょ?」

 と、冒険者が俺を心配する。
 ま、まぁ、水没神殿に行ったときは、同行してた冒険者がルーシェたちが張り切りすぎて、俺なんにもしてなかったけどさ。

「大丈夫です。ユタカさんは私たちより強いんですから」
「そうよ。ま、対悪魔じゃダメっぽいけど」
「最後の余計だからぁ。ま、とりあえず大丈夫です」

 普通に生きてるヤツなら負けない。
 ま、遠距離から一気にやられたら負けるけど。
 そういう意味で注意すべきは諸星だよなぁ。あいつ、魔術師みたいな恰好してるし、たぶんスキルはそっち系だろう。

 そういや、あいつらのスキルがなんなのか知らないな。

「ダイチユタカ。わたしの権限で決闘を止めさせることもできるのだよ」
「あー、お気遣いなく。ところで王子はあいつらのスキルを知っていますか?」
「あぁ、聞いてはいる。使っているのは一度も見たことがないけれど」
「どんなスキルですか?」

 遠距離じゃなければいいけど。
 王子から聞いたのは、荒木が「エクスカリバー」。
 貫通効果のある真空波を発生させるらしい。うぅん、中距離攻撃かなぁ。
 しかし、なんでそんなカッコいいのもらってるんだよ。

 伊勢崎は「豪腕鉄壁」。防御スキルだ。本人曰く、スキル効果中はぶん殴り攻撃力も上がるそうだ。
 完全に近接スタイルだな。伊勢崎らしい。

 諸星が厄介だ。「隕石召喚」。つまりメテオだな。
 けど王子が言うには、メテオって屋根のある場所では使えないらしい。
 いや、実際には使えるけど、使ったら建物も破壊するんだとか。そしてダンジョン内だと、どうやっても発動しない仕様なんだとか。
 あと、呪文が長いってさ。

 あいつが長ったらしい呪文の詠唱に入ったら、急いで黙らせないとな。

「で、やっぱりそっちは三人でくるのか?」
「当たり前だろう。正々堂々といったじゃないか」
「三対一が正々堂々なんて、バッカじゃないのあんたたち!」
「そうです! そういうのは卑怯って言うんですよ!!」
「はっはっは。なんとでもいえ。全ては強者がルールなんだ。君たちも大地が無様にやられる姿を見れば、気も変わるだろう」

 うぅん。荒木ってこんなにおつむの弱い奴だったっけ?
 日本にいた頃はもう少しまともだった気がするけど。

「ま、いいや。じゃ、始めようか」
『ガンバエェー』
『ユタカ兄ちゃん、頑張ってぇー』

 かわいい声援が飛んでくる。

「はんっ。余裕でいられるのも今の内だ。伊勢崎!」
「おぉ! むぅぅぅん――"豪腕鉄壁"!」

 カチコチになった?

「はっはっは。どうだ大地。俺様にビビってちびったか?」
「いや……スキル使ってるんだろうけど、見た目はなんも変わってないし」
「ぐっ……。おい荒木、お前のスキルも見せてやれよ!」
「ふっ。言われなくとも」

 荒木が剣を抜く。
 スキル名がやたらカッコいいエクスカリバーか。
 でも真空波ってことは直線だよな。

 足裏に力をこめ、一気に跳躍する。

「んなっ!? と、跳んだっ。大地が跳んだだと!?」
「あいつ、なんてジャンプ力を……も、もしかしてボクらも、異世界に来て身体能力が大幅に上がっているんじゃないのかい?」
「そ、そうだ。そうに決まっている! おい荒木、やっちまえ!!」

 お前ら、異世界に来て何カ月経ってると思っているんだよ。
 今まで身体能力に変化を感じてなかったんだろ? 勘違いだぞ。
 そもそも俺のは、スキルで成長させた結果だし。

 今度は地面を蹴って、ダッシュする。
 慌てる荒木の正面まで走ると、ピタっと止まって――奴の頭に手を乗せた。

「なっ、なんだ!?」
「うん。"成長促進"」

 荒木のある部分だけを成長させた。
 毛――毛根だ。

 荒木の毛、二度と生えてこなくなるまでぜぇーんぶ成長しろぉ~~~ってね。

 その瞬間、サラサラと舞い落ちる荒木の髪。
 こいつ、異世界に来てからも髪の手入れは怠っていなかったようだな。
 腹が立つほどサラッサラだ。

 そのサラサラヘアーが全部抜け落ち、奴の頭は砂漠を照り付ける太陽の日差しを反射した。

 しー……んっと静まり返る。

「ぷっ……ぷくく」
「ふふ、ふふふふ……くふふふふふふふ」
「ぶわぁーっはっはっは。なんだありゃ。いきなり禿げてるじゃねえか」
「ど、どういう術を使ったんだ彼は。ひひ、ふひひひひひひひ」

 ふふ。みんな笑ってくれてよかった。
 なんか空気が重くなってたんだよなぁ。

 荒木はというと、何が起きたのか状況が呑み込めていないようだ。
 だから俺は奴の足元を指さした。
 釣られて荒木が足元を見る。
 そこには奴自慢のサラサラヘアーが落ちていた。
 いっぱい。

「へ?」
「あ、荒木……」
「お、おい大地。お前、荒木になにをしたんだよ!」
「スキルを使って成長させただけさ。二度と生えなくなるまで全部成長しろってね」
「ぜ、全部だと!?」

 そう、髪の毛ぜーんぶだ。
 だが荒木は何を思ったのか、袖を捲って腕を出した。

 ん?

 毛が、ない。いや、袖を捲った時になんか落ちてる。
 あ、あれ?

 伊勢崎が荒木のズボンの裾を脹脛まで捲った。
 す、すね毛が……抜けてる。

 あ、あれ?
 あ……。

「悪い荒木。髪の毛だけのつもりだったんだけどさ、ぜーんぶって考えたもんだから、もしかして体毛全部……あそこの毛もなくなってるかも」
「ひっ」

 荒木がくるりと回れ右して、なんかズボンの中を確認しているようだ。
 そして、

「うぎゃああぁぁぁぁぁぁっ」

 悲鳴が上がった。

 ほんと、ごめんって。

「い、伊勢崎、そいつを殺せ!」
「お、おう!」
「残念、もう遅い」

 すぐ隣にいたんだ。触れない訳がないだろ。
 もうこうなったら三人ともお揃いにしてやろう。

「ぐあああぁぁぁぁぁぁっ」
「や、止めろっ。ボクの方に来るな。いや来ないでくださいお願いします」
「仲良し三人組だろ?」
「いやだああぁぁぁぁぁぁぁぎえええぇぇぇぇぇ」

 伊勢崎、諸星にも触れて、これで禿げ三連星の完成だ。
 三人とも地面に手を付き、落ちた自身の毛を見つめている。
 毛根殺してるから、もう二歩と生えてこないよ。
 最後の別れを惜しんで、しっかり見てなさい。

「戦意喪失ってことで、俺の勝ちでいいよな?」
「あったりまえじゃない!」
「ふふ。ユタカさんは優しいんですね。毛程度で許してあげるなんて」

 嫌な奴らだけど、それでも同じ日本から来たクラスメイトだからな。
 さすがに殺すだのなんだの、そういうのは嫌だし。
 さて、こいつらこれからどうしようかな。

 腕組みをした瞬間、ぶわぁっと風が舞った。
 その風で荒木たちの毛も、全部飛んで行ってしまった。
 
『見つけたぞ。我に何も言わず、うろちょろされては心配するだろう』
「悪い悪い」
『何か問題発生か?』
「いや、終わった――「ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」――よ」

 物凄い絶叫を上げたのは荒木たちだ。
 あ、気絶してら。

 王子と騎士たちは武器を構えようとして、逆に捨てた。

「ダ、ダイチユタカ殿?」
「ど、どの? えっと、普通に読んでくださいよ。ユタカでいいですから」
「ユ、ユタカ殿。あの、もしかして火竜、なのだろうか?」
「あ、そうです。火竜のフレイ。友達ですよ」
『ふ、ふん。ま、まぁ、どうしてもというから友になってやっただけだ』

 ツンデレめぇ。
 前脚の鱗を肘で突いて弄る。でも地味に俺の肘が痛いんだよな。やめよう。

 そんな様子の俺たちを、レイナルド王子は引き攣った笑みで見ていた。