【書籍化】ポイ捨てされた異世界人のゆるり辺境ぐらし~【成長促進】が万能だったので、追放先でも快適です~

しばらく、王子とその一行は俺を遠巻きに見ていた。
 そこに戻って来た冒険者が何事かと聞いてくるから説明したら、なぜか王子に同情していた。

 なんか俺、悪いことしたっけ?

 その間もあの三人は、ずーっと何か叫んでいた。
 暴れるから魔法で動けなくされてるけど、そろそろ喋れるようにぐらいしてやるかな。

「あの、あいつらの沈黙魔法、解いてやってくれない?」
「いいのか? うるさいぞ」
「あぁ、まぁ……じゃ、ひとりだけ。あいつ」

 と、荒木をご指名した。
 魔術師は溜息を吐きながら、沈黙の魔法を解除。
 途端――

「ま、絶対殺す! ぎったぎたにしてぶっころ――お」

 まさかずーっとぶっ殺すって叫んでたのか?
 ボキャブラリーなさすぎだろ。

 異世界に来たからって平気で人を殺せるような人間にはなりたくないって思ってたけど、平気でぶっ殺すとか叫ぶ人間にもなりたくないな。
 王子も大変だな。たまたま自分の国で無銭飲食して捕まえた奴がこんなんで。
 しかも話の流れからして、王子が身元引受人みたいになってるっぽいし。
 こんなんじゃ、城に残してこっちに来るなんてできないよなぁ。

「貴様ら、僕らをバカにしやがった! 僕らはソードレイ王国の賓客なんだぞ! 勇者なんだぞ!!」
「はぁ……すまない。そういう扱いをしたわたしの責任だ。捕らえろ」
「「はっ」」
「な、何をする!? 僕らを捕らえるだと? そんなこと、許されるとでも思っているのか!?」

 むしろなんで許されないと思っているんだろう?
 あっという間に取り押さえられると、荒木たちには手枷が付けられた。
 って、用意してたのか、アレ。

「お前たちには王族に対し虚偽の報告をした罪、レイナルド様の個人資産を無断で使用した罪、無銭飲食の罪、他にもいろいろあるが、とりあえず今はこれらの罪で逮捕する」
「きょ、虚偽だと! 僕は嘘など言っていないっ。それにお金だって、当然の権利だろうっ。僕らは勇者だ。勇者は金も女の自由にできるのが王道ストーリーだろう!!」

 それってアレだろ。主人公を勇者パーティーから追放して、あとでざまぁされる悪役勇者。

「そんな権利、この世界には存在しないよ。それに君たちは勇者と言ってるが、なんの実績もないじゃないか。見習い兵士にまで模擬戦で敗れるような貧弱っぷりで、よく勇者などと名乗れるものだね。わたしなら恥ずかしくて、引き籠りたくなるよ」
「んなっ!? な、なにをっ。け、怪我をさせるわけにはいかないから、手加減してやっただけだっ」

 ほーん。見習い兵士にも勝てなかったのか。
 戦闘系スキルを授かったはずなのに、そんなに弱いって……。
 ソードレイ王国の兵士の質が極端にいいのか、それともこいつらが弱いだけなのか。
 ゲルドシュタル王国の兵士たちは――まぁ鎧着て砂漠にくるような連中だしなぁ。比較のしようがない。

「大地……大地ぃ、全部貴様が悪い!」
「いやいや、俺が何したって言うんだ。俺は砂漠にポイ捨てされただけで、何にもしてないだろ。仕掛けてきたのはそっち、いやあの王女だけど、とにかくお前らにはなーんにもしてないぞ」
「うるさい雑魚め! 僕らが主人公なんだ。そうでなければならない!」
「はぁ……もうさ、ここにはお前らを助けてくれる財力も親も、なーんにもないんだよ。ちゃんと前向いて真っ当に生きろ。同じ日本人として恥ずかしいぞ」
「だまれだまれだまれだまれ!!!」

 ヒステリックに叫ぶ荒木を見て、なんとなく理解した。

 こいつら、学校では好き勝手にやってた。
 頭もスポーツも、それなりにできるほうだ。
 それなりであって、凄くではない。
 あいつらより日頃《・・》のテストじゃ、上の点数取るクラスメイトも男女合わせれば十人ぐらいいた。
 けど順位が出るような成績に響くテストだと、あの三人は学年でもトップ5に入る。
 
 普段は手を抜いているだけ。
 本気だせばこんなもの。

 なーんて言ってたが、カンニング+成績上位の連中に金を渡して一、二問間違わせていただけだ。
 スポーツでもそう。やたらうまい奴を金で懐柔して、負けるようにしてたんだよな。
 だからひとりでやるようなスポーツはせず、対戦形式のヤツしかやってなかったし。

 それを告発した生徒もいたけど、どういうわけだか学校を辞めてしまった。
 あとで聞いた話だと、奴らの親から圧力を受けて辞めざるをえなくなったとか。
 子が子なら、親も親っていう典型的なヤツだ。

 だから荒木たちはこれまで、ずーっと好き勝手できていたんだ。
 けど、ここではそれができない。
 なんでも金で解決できていたあっちとは違い、あいつらの親がいないし、その親の権力もここには届かない。
 本来の自分たちの実力しかないのに、傲慢さだけは以前のまま。

 そんなんで成り上がり主人公が務まる訳ないじゃん。
 努力しないとダメなんだよ。
 ま、あいつらが一番嫌いなものが、その努力なんだろうけどさ。

「ユタカさん。やっぱり殴ってもよろしいですか?」
「弱いやつほどよく吠えるって、本当ね。うるさいから殴っちゃおう」
「女ぁ――……おい、今謝れば許してやってもいいぞ」

 こいつ。ルーシェたちが美人だからって、態度変えやがったな。

「今なら僕の女にしてやる「荒木ぃ!!」

 こいつはほんっと……性根が腐ってやがる。

「ふんっ。まさか大地、お前、この二人と付き合っているのか?」
「だったらなんだよ」

 当然のように答えると、荒木は肩を震わせ始めた。
 そして一度俯いた後、凄い形相で俺を睨んだ。

「大地の癖に、生意気なんだよ!」
「俺が彼女作っちゃいけないルールでもあったのか?」
「だまれ! 決闘だ!! 正々堂々、俺たちと決闘しろ!!」

 ん?
 今、おかしなことをいわなかったか?

 正々堂々なのに、俺たちとって……三対一の決闘をしろってこと?