「すみません、船の中で」
「いや、日陰があるだけありがたい」
荒木たちを砂漠の町に入れさせたくない。
特に理由はないけど、嫌だってだけだ。
それに一国の王子を突然砂漠に連れて行くわけにもいかない。
外交とか、なんかあるだろうし。
けど暑い中で話すのも嫌だから、砂船をインベントリから出した。
傾きそうになる砂船は、アスとルルの地属性魔法で固定してもらっている。
「ところで、三頭のワームともう一頭のアレは……」
「え、アスですか? アスがどうしましたか」
『ボク呼ンダ?』
呼ばれて嬉しそうにアスがとことことやっていくる。
騎士がアスの行く手を遮るように、王子との間に割って入った。
アスが王子に危害を加えたりしないか、心配なんだろう。
アスはいい子だ。
でもアスを知らない人間は、モンスターか否かでしか判断しない。
それが間違っているとは思わないし、アスも気にしたりはしない。
しかも相手は王子で、そして王子を命に代えても守る騎士だ。
当たり前の反応だと言える。
けど、王子は騎士の行動を手で制し、アスの傍へとやって来た。
「君はなんという種族だろうか。聞いてもいいかな?」
『ンット、教エテイイノ?』
普段は俺にわざわざ聞いたりしないで、直ぐ教えてるのに。
わざわざ尋ねられたから、アスも慎重になったのかな?
うぅぅぅっ、アス、お前成長したなぁ。
「いいよ、話て」
『ウン。アノネ、ボクネ、アースドラゴンナノ』
「ほぉ、アースドラゴンか――」
王子の表情が固まった。
口元を引きつらせ、ゆっくりとこちらを見る。
だから俺は頷いた。
「ド、ドラゴン!?」
「や、やっぱりか。まさかとは思ったが……」
「なぜ上位種のアースドラゴンの仔が人間と一緒にいるんだ!?」
騎士たちは驚きを隠せず、騒ぎだしてしまった。
それで俺はアスと出会った経緯をかいつまんで説明。
「母親を失って子竜だけだったから、保護した……か。普通、子竜を保護しようなどと思わないだろうな」
「そうですか? ルーシェやシェリルだって同じ意見だったし、集落の人たちも快く受け入れてくれましたよ。な、アス」
『ウンッ。ミーンナ優シイノ。ボク大好キ』
「ところで、こちらからも質問していいですか?」
「あぁ、わたしに答えられることなら」
「では……なんで王子が荒木たちと?」
この王子はなんとなくだけど、いい人のように感じる。
人としても、王族としてもだ。
そんな人物が、なんで荒木たちを一緒なんだろう。
俺に興味があったっていうが、荒木たちと同行している理由は?
「そうだね。まずは――」
王子は辺りを見渡し、こっそり聞こえるように小声で話す。
「君たちを召喚したゲルドシュタル王国の王女アリアンヌ嬢は、国外追放処分になった」
「え……あの傲慢そうな王女が?」
レイナルド王子が頷く。
さり気なく騎士のひとりが冒険者を連れて船室から出て行った。
異世界から召喚された人間ってのを、他の人に知られないようにするため配慮してくれたんだろう。
それから王女がどうなったのか、そして荒木たちとどう知り合ったのかを聞いた。
こいつら無銭飲食して捕まったのか……ダセェ。
その三人は、未だ声が出ない様子。めちゃくちゃ強力な魔法だったんだな。
「三人を連れて来たのは、わたしが君の顔を知らないからというのもある。だけど一番の理由は、国に残してくると何をしでかすか分からないからなんだ」
「あぁ……納得しました」
荒木たちが凄い形相でこっちを睨んでるけど、気にしない。
「しかしどうして港の建設を?」
「あー、それはまぁ、砂漠だと手に入らないものがたくさんありますから。でもゾフトス経由で仕入れると、めちゃくちゃ高額になるし」
「そうだね。だけど港を建設するのにも、相当なお金が必要なはずだよ」
「お金……いや、実はまったく払ってないです」
人件費はクラーケンから貰った海のお宝や、偽の神官どもが蓄えていた住民からの寄付金なんかで全部賄っている。
木材は俺が成長させて用意しているから、その点もタダだ。
町長だってお金を出してないんだ。出さなくてもちゃんと労働者にはお金を払えてるし、問題はない。
木を成長させているっていう部分を、ずーっと東の山から伐採して持って来ているという内容にすり替え、全部王子に話した。
「ク、クラーケン!? それはその、海の大精霊の? ま、まさか?」
「えぇ、そのクラーケンです。本人は『クラちゃんって呼んでね』とか言ってますけど」
「ク、クラちゃん!? いや、君、え、知り合い?」
「まぁ、知り合いっていうか友達っていうか?」
「とも!? え?」
そんなに驚くこと?
「他にもいますけど。王子の足元とかに」
「え? え……ウリ坊ぉぉぉぉぉぉぉ!?」
『や』
ベヒモスの姿がすぅっと濃くなったから、王子にも見えるようになったんだろう。
右前足を上げて、ベヒモスが挨拶をした。
それと同時にアクアディーネとジンも姿が濃くなる。
『ふふ。はじめまして、ソードレイ王国の王子』
『我らの姿を拝めること、光栄に思うがいい』
なんでアクアディーネはお姉さんの姿なんだ?
「まさ、まさか……水の大精霊様、風の大精霊様、イノシシのだ、大地の大精霊様!?」
『ねぇちょっと今、ボクのことイノシシの大精霊って言おうとしたよね』
「ぶはっ。イノ、イノシシの大精霊。ひーっひっひ。ふひひ、ふひゃひゃひゃ」
『ユタカ笑いすぎぃ』
『まったく……我らの威厳を見せつけられぬではないか!』
威厳なんかあったっけ?
俺たちのそんなやりとりを、王子は呆然と立ち尽くしてみていた。
「いや、日陰があるだけありがたい」
荒木たちを砂漠の町に入れさせたくない。
特に理由はないけど、嫌だってだけだ。
それに一国の王子を突然砂漠に連れて行くわけにもいかない。
外交とか、なんかあるだろうし。
けど暑い中で話すのも嫌だから、砂船をインベントリから出した。
傾きそうになる砂船は、アスとルルの地属性魔法で固定してもらっている。
「ところで、三頭のワームともう一頭のアレは……」
「え、アスですか? アスがどうしましたか」
『ボク呼ンダ?』
呼ばれて嬉しそうにアスがとことことやっていくる。
騎士がアスの行く手を遮るように、王子との間に割って入った。
アスが王子に危害を加えたりしないか、心配なんだろう。
アスはいい子だ。
でもアスを知らない人間は、モンスターか否かでしか判断しない。
それが間違っているとは思わないし、アスも気にしたりはしない。
しかも相手は王子で、そして王子を命に代えても守る騎士だ。
当たり前の反応だと言える。
けど、王子は騎士の行動を手で制し、アスの傍へとやって来た。
「君はなんという種族だろうか。聞いてもいいかな?」
『ンット、教エテイイノ?』
普段は俺にわざわざ聞いたりしないで、直ぐ教えてるのに。
わざわざ尋ねられたから、アスも慎重になったのかな?
うぅぅぅっ、アス、お前成長したなぁ。
「いいよ、話て」
『ウン。アノネ、ボクネ、アースドラゴンナノ』
「ほぉ、アースドラゴンか――」
王子の表情が固まった。
口元を引きつらせ、ゆっくりとこちらを見る。
だから俺は頷いた。
「ド、ドラゴン!?」
「や、やっぱりか。まさかとは思ったが……」
「なぜ上位種のアースドラゴンの仔が人間と一緒にいるんだ!?」
騎士たちは驚きを隠せず、騒ぎだしてしまった。
それで俺はアスと出会った経緯をかいつまんで説明。
「母親を失って子竜だけだったから、保護した……か。普通、子竜を保護しようなどと思わないだろうな」
「そうですか? ルーシェやシェリルだって同じ意見だったし、集落の人たちも快く受け入れてくれましたよ。な、アス」
『ウンッ。ミーンナ優シイノ。ボク大好キ』
「ところで、こちらからも質問していいですか?」
「あぁ、わたしに答えられることなら」
「では……なんで王子が荒木たちと?」
この王子はなんとなくだけど、いい人のように感じる。
人としても、王族としてもだ。
そんな人物が、なんで荒木たちを一緒なんだろう。
俺に興味があったっていうが、荒木たちと同行している理由は?
「そうだね。まずは――」
王子は辺りを見渡し、こっそり聞こえるように小声で話す。
「君たちを召喚したゲルドシュタル王国の王女アリアンヌ嬢は、国外追放処分になった」
「え……あの傲慢そうな王女が?」
レイナルド王子が頷く。
さり気なく騎士のひとりが冒険者を連れて船室から出て行った。
異世界から召喚された人間ってのを、他の人に知られないようにするため配慮してくれたんだろう。
それから王女がどうなったのか、そして荒木たちとどう知り合ったのかを聞いた。
こいつら無銭飲食して捕まったのか……ダセェ。
その三人は、未だ声が出ない様子。めちゃくちゃ強力な魔法だったんだな。
「三人を連れて来たのは、わたしが君の顔を知らないからというのもある。だけど一番の理由は、国に残してくると何をしでかすか分からないからなんだ」
「あぁ……納得しました」
荒木たちが凄い形相でこっちを睨んでるけど、気にしない。
「しかしどうして港の建設を?」
「あー、それはまぁ、砂漠だと手に入らないものがたくさんありますから。でもゾフトス経由で仕入れると、めちゃくちゃ高額になるし」
「そうだね。だけど港を建設するのにも、相当なお金が必要なはずだよ」
「お金……いや、実はまったく払ってないです」
人件費はクラーケンから貰った海のお宝や、偽の神官どもが蓄えていた住民からの寄付金なんかで全部賄っている。
木材は俺が成長させて用意しているから、その点もタダだ。
町長だってお金を出してないんだ。出さなくてもちゃんと労働者にはお金を払えてるし、問題はない。
木を成長させているっていう部分を、ずーっと東の山から伐採して持って来ているという内容にすり替え、全部王子に話した。
「ク、クラーケン!? それはその、海の大精霊の? ま、まさか?」
「えぇ、そのクラーケンです。本人は『クラちゃんって呼んでね』とか言ってますけど」
「ク、クラちゃん!? いや、君、え、知り合い?」
「まぁ、知り合いっていうか友達っていうか?」
「とも!? え?」
そんなに驚くこと?
「他にもいますけど。王子の足元とかに」
「え? え……ウリ坊ぉぉぉぉぉぉぉ!?」
『や』
ベヒモスの姿がすぅっと濃くなったから、王子にも見えるようになったんだろう。
右前足を上げて、ベヒモスが挨拶をした。
それと同時にアクアディーネとジンも姿が濃くなる。
『ふふ。はじめまして、ソードレイ王国の王子』
『我らの姿を拝めること、光栄に思うがいい』
なんでアクアディーネはお姉さんの姿なんだ?
「まさ、まさか……水の大精霊様、風の大精霊様、イノシシのだ、大地の大精霊様!?」
『ねぇちょっと今、ボクのことイノシシの大精霊って言おうとしたよね』
「ぶはっ。イノ、イノシシの大精霊。ひーっひっひ。ふひひ、ふひゃひゃひゃ」
『ユタカ笑いすぎぃ』
『まったく……我らの威厳を見せつけられぬではないか!』
威厳なんかあったっけ?
俺たちのそんなやりとりを、王子は呆然と立ち尽くしてみていた。



