「商人の話だと、荷物を奪った後、山の方へ逃げたっていってたけどなんでだろう?」
俺たちはすぐ、冒険者五人と共にゾフトスの港町に向けて出発した。
馬車を借り、それを引くのはユユたちだ。
アスが『ボクモォ』と言ったが丁寧にお断りさせてもらった。
だって絶対、馬車から投げ出されるに決まってるじゃん!
アスには「俺そっくりな奴がいないか、しっかり見ててくれよ。頼んだぞ!」と言って、そっちに集中して貰うことに。
「街道を通れば、己の存在に気付く者が出るかもしれないと思ったのだろう。君らはお香を使うようだが、修行を積んだ聖職者だと、気づける者もいるからね」
「内陸の冒険者も時々、砂漠に来ることがあるのです。その時にはたいてい、ゾフトスの港町から街道を通ってきますので」
「あぁ、その時に聖職者が同行しているパーティーとバッタリ遭遇したら……って考えたってことか」
「そういうことだ」
同行している五人は、ギルドマスターご推薦のかなり腕が立つ人たちだ。
その中には聖職者――神官よりも高位にあたる司祭の女性もいる。
彼女ならお香がなくても悪魔を感知できるそうだ。心強い。
『ネェ、ネェネェ』
「あら、どうしたんですかアスちゃん」
『アノネオ姉サン、向コウカラ人ガキテルノ』
司祭の女性はすっかりアスのことが気に入って、アスちゃんと呼んでいる。
かわいいって、ほんとお得だよなぁ。
「遠見の魔法で確認しよう」
魔術師がそう言うと立ち上がって、呪文を唱えた。
この魔法は俺もおじさんにかけてもらったことがある。
すぐに魔術師が「外套を被った十三人がこちらへ向かっている」と報告した。
「十三人? ドッペルゲンガーってことは?」
「俺の目ではなんとも言えないな。そもそも全員がフードを目深に被っているし」
「わたくしも、直接目で見なければ判断はできません」
「ま、なんにしてもだ。街道を通らずにやってくるってのは、ロクな連中じゃない可能性が大だ」
だよなぁ。わざわざ人目を避けて来てるんだから。
ドッペルゲンガーが向かったという方角から来てるんだ、無視することもできない。
道中、俺のそっくりさんと遭遇してれば話も聞けるだろう。
あらぬ誤解も生むかもしれないけど。
向こうもこっちの存在に気付いたのか、馬車を止めると真っすぐこちらに向かってやって来た。
そしてロクな連中じゃない可能性は、的中した。
「だ、大地!? 本当に貴様か?」
「……うぇ、荒木じゃん。なんでここにいるんだよ」
しかも伊勢崎と諸星までいる。まぁこいつらはいっつも三人一緒の仲良しさんだもんな。
後ろのは小林とか三田か?
「本当に貴様なのかと聞いている! 僕の質問に答えろっ」
「その言い方だと、途中で俺のそっくりさんに会ったようだな」
「はんっ。そうか。やはりあの悪魔はお前の差し金か! 貴様を粛正にきた僕らを罠にはめるための!」
想像力豊かだなぁ。
ってこいつ、今俺を粛正しに来たっていったか?
「荒木、粛正の言葉の意味わかってるか?」
「不正を厳しく取り締まり、処罰することだろう」
「不正しまくってたのお前たちじゃん。気に喰わない奴には平気で暴力を振るい、学校側にそのことを知られないよう金で口止め。それでも教師にその件を話した奴がいたら、今度は教師を金で手懐けてたよな」
「ふんっ。それがどうした? 力もなく、貧乏な奴らが悪いんだろう」
粛正されるキャラって、お前みたいな奴なんだけどなぁ。
自覚がないからほんと、困ったもんだ。
「君がダイチユタカ君だね」
三バカの後ろにいた一人がフードを外し、一歩前に出た。
おぅふ。イケメンだ。
なんか品のあるイケメンだな。
どっかの貴族のお坊ちゃんとかだろうか。まさかドッペルゲンガーに?
「そうだけど」
言いつつ、司祭の女性に一歩寄る。
横目でちらっと見たが、彼女は首を振って「ここにはいません」と。
するとあちらからもうひとり、フードを外して近寄って来た人がいる。
「おぉ、ユリアではないか。ずいぶんと成長したようだ」
ん? 司祭さんと知り合い?
「あ、メルビス高司祭さま。ご無沙汰しております」
「えっと、お知り合い?」
「はい。私が神官見習いだった頃からお世話になっていた方で、師のような存在なんです」
「へぇ……」
じゃ、冒険者??
「メルビス様がいらっしゃるということは、そちらの方は」
「うむ。よろしいですか殿下?」
で、殿下!?
「メルビスの弟子がいたのなら、隠すこともできまい。はじめまして。わたしはソードレイ王国の第一王子レイナルド・ソードレイだ」
「お、王子様!?」
うわぁ、道理で品があるように見えるわけだ。
しかしなんで荒木たちと一緒にいるんだ?
あの三人、ゲルドシュタル王国にいたはずだろ?
それに――
「荒木、小林とか三田、他のクラスメイトはどうしたんだよ」
「は? どうしただと? そんなこと、僕が知るわけないし、奴らがどうなろうと僕らには関係ないだろう」
「関係ないってお前、リーダー面するならちゃんと面倒みろよ! 同じ学校のクラスメイトだろ!」
右も左もわからない異世界に放り出されたら、めちゃくちゃ不安なんだぞ。
「へぇ、大地は小林たちの心配するんだ? 大地が砂漠の飛ばされた後、誰もお前の心配なんかしてなかったんだよ。それでも大地はあいつらのこと心配するんだ?」
「心配しちゃ悪いのかよ。あいつらだって怯えていたんだろ。いつ自分がそうなるかわからなくて。ま、俺はスキルのおかげで余裕で生きてるけどな。あいつらのスキルじゃそうもいかなかっただろうし。それに、腹は立つけどそれとこれとは別だろ」
「なんだ大地よぉ、いい子ちゃんじゃねえか。気に喰わねぇ。やっぱ殺す」
おいおい、久しぶりに再会したクラスメイトを殺すって。
伊勢崎ってこんなヤバいやつだった?
普段は気に喰わない奴は下級生でも上級生でも構わずぶん殴る程度のヤツだったじゃな――あ、ヤバい奴だったわ。
「ユタカ。あいつ、ハチの巣にしていい?」
「私も、父から譲り受けたこの剣でぶん殴りたいです」
「ふ、二人ともとりあえず待ってくれ。荒木たちとはまともに話しできないから、王子様にお尋ねします」
「なんだい?」
荒木たちが怒声を浴びせようとしていたが、さっきの魔術師が三人の声を封じてくれた。
これで静かに会話ができる。
「俺とそっくりなドッペルゲンガーのことですが」
「うん。メルビスがいるからね。動きを封じてもらってから、後ろに控えているわたしの部下が首を切り落としたよ」
「そうですか。すみません、お手間をおかけして。怪我をされた方は?」
「いないよ。心配してくれて感謝する。君たちはドッペルゲンガーを追って?」
「はい。実はあの悪魔は迷宮から出て行った奴でして。あ、ダンジョンモンスターではなく、迷宮と魔界が繋がって、それで出て行ったんです」
「そうか。砂漠には国もないし、小さな町が一つあるだけだ。支配するには物足りなかったのだろうね」
「それで、その、王子様は何をしにここへ? あいつらと一緒に、俺を粛正するためですか?」
もしそうだとしたら、どう誤解を解いたものか。
「いや。興味があったんだ。あの三人がそこまで躍起になる理由はね。それと、最近砂漠の町で大規模な港の建設が始まっていると聞いてね。もし港が完成するようなことがあれば――」
「あ、あれば?」
まさか軍事拠点とか、そんな勘違いされているんじゃ!?
「その時にはぜひ、我が国との交易をお願いしたくてね」
レイナルド王子はそう言ってニッコリと笑った。
俺たちはすぐ、冒険者五人と共にゾフトスの港町に向けて出発した。
馬車を借り、それを引くのはユユたちだ。
アスが『ボクモォ』と言ったが丁寧にお断りさせてもらった。
だって絶対、馬車から投げ出されるに決まってるじゃん!
アスには「俺そっくりな奴がいないか、しっかり見ててくれよ。頼んだぞ!」と言って、そっちに集中して貰うことに。
「街道を通れば、己の存在に気付く者が出るかもしれないと思ったのだろう。君らはお香を使うようだが、修行を積んだ聖職者だと、気づける者もいるからね」
「内陸の冒険者も時々、砂漠に来ることがあるのです。その時にはたいてい、ゾフトスの港町から街道を通ってきますので」
「あぁ、その時に聖職者が同行しているパーティーとバッタリ遭遇したら……って考えたってことか」
「そういうことだ」
同行している五人は、ギルドマスターご推薦のかなり腕が立つ人たちだ。
その中には聖職者――神官よりも高位にあたる司祭の女性もいる。
彼女ならお香がなくても悪魔を感知できるそうだ。心強い。
『ネェ、ネェネェ』
「あら、どうしたんですかアスちゃん」
『アノネオ姉サン、向コウカラ人ガキテルノ』
司祭の女性はすっかりアスのことが気に入って、アスちゃんと呼んでいる。
かわいいって、ほんとお得だよなぁ。
「遠見の魔法で確認しよう」
魔術師がそう言うと立ち上がって、呪文を唱えた。
この魔法は俺もおじさんにかけてもらったことがある。
すぐに魔術師が「外套を被った十三人がこちらへ向かっている」と報告した。
「十三人? ドッペルゲンガーってことは?」
「俺の目ではなんとも言えないな。そもそも全員がフードを目深に被っているし」
「わたくしも、直接目で見なければ判断はできません」
「ま、なんにしてもだ。街道を通らずにやってくるってのは、ロクな連中じゃない可能性が大だ」
だよなぁ。わざわざ人目を避けて来てるんだから。
ドッペルゲンガーが向かったという方角から来てるんだ、無視することもできない。
道中、俺のそっくりさんと遭遇してれば話も聞けるだろう。
あらぬ誤解も生むかもしれないけど。
向こうもこっちの存在に気付いたのか、馬車を止めると真っすぐこちらに向かってやって来た。
そしてロクな連中じゃない可能性は、的中した。
「だ、大地!? 本当に貴様か?」
「……うぇ、荒木じゃん。なんでここにいるんだよ」
しかも伊勢崎と諸星までいる。まぁこいつらはいっつも三人一緒の仲良しさんだもんな。
後ろのは小林とか三田か?
「本当に貴様なのかと聞いている! 僕の質問に答えろっ」
「その言い方だと、途中で俺のそっくりさんに会ったようだな」
「はんっ。そうか。やはりあの悪魔はお前の差し金か! 貴様を粛正にきた僕らを罠にはめるための!」
想像力豊かだなぁ。
ってこいつ、今俺を粛正しに来たっていったか?
「荒木、粛正の言葉の意味わかってるか?」
「不正を厳しく取り締まり、処罰することだろう」
「不正しまくってたのお前たちじゃん。気に喰わない奴には平気で暴力を振るい、学校側にそのことを知られないよう金で口止め。それでも教師にその件を話した奴がいたら、今度は教師を金で手懐けてたよな」
「ふんっ。それがどうした? 力もなく、貧乏な奴らが悪いんだろう」
粛正されるキャラって、お前みたいな奴なんだけどなぁ。
自覚がないからほんと、困ったもんだ。
「君がダイチユタカ君だね」
三バカの後ろにいた一人がフードを外し、一歩前に出た。
おぅふ。イケメンだ。
なんか品のあるイケメンだな。
どっかの貴族のお坊ちゃんとかだろうか。まさかドッペルゲンガーに?
「そうだけど」
言いつつ、司祭の女性に一歩寄る。
横目でちらっと見たが、彼女は首を振って「ここにはいません」と。
するとあちらからもうひとり、フードを外して近寄って来た人がいる。
「おぉ、ユリアではないか。ずいぶんと成長したようだ」
ん? 司祭さんと知り合い?
「あ、メルビス高司祭さま。ご無沙汰しております」
「えっと、お知り合い?」
「はい。私が神官見習いだった頃からお世話になっていた方で、師のような存在なんです」
「へぇ……」
じゃ、冒険者??
「メルビス様がいらっしゃるということは、そちらの方は」
「うむ。よろしいですか殿下?」
で、殿下!?
「メルビスの弟子がいたのなら、隠すこともできまい。はじめまして。わたしはソードレイ王国の第一王子レイナルド・ソードレイだ」
「お、王子様!?」
うわぁ、道理で品があるように見えるわけだ。
しかしなんで荒木たちと一緒にいるんだ?
あの三人、ゲルドシュタル王国にいたはずだろ?
それに――
「荒木、小林とか三田、他のクラスメイトはどうしたんだよ」
「は? どうしただと? そんなこと、僕が知るわけないし、奴らがどうなろうと僕らには関係ないだろう」
「関係ないってお前、リーダー面するならちゃんと面倒みろよ! 同じ学校のクラスメイトだろ!」
右も左もわからない異世界に放り出されたら、めちゃくちゃ不安なんだぞ。
「へぇ、大地は小林たちの心配するんだ? 大地が砂漠の飛ばされた後、誰もお前の心配なんかしてなかったんだよ。それでも大地はあいつらのこと心配するんだ?」
「心配しちゃ悪いのかよ。あいつらだって怯えていたんだろ。いつ自分がそうなるかわからなくて。ま、俺はスキルのおかげで余裕で生きてるけどな。あいつらのスキルじゃそうもいかなかっただろうし。それに、腹は立つけどそれとこれとは別だろ」
「なんだ大地よぉ、いい子ちゃんじゃねえか。気に喰わねぇ。やっぱ殺す」
おいおい、久しぶりに再会したクラスメイトを殺すって。
伊勢崎ってこんなヤバいやつだった?
普段は気に喰わない奴は下級生でも上級生でも構わずぶん殴る程度のヤツだったじゃな――あ、ヤバい奴だったわ。
「ユタカ。あいつ、ハチの巣にしていい?」
「私も、父から譲り受けたこの剣でぶん殴りたいです」
「ふ、二人ともとりあえず待ってくれ。荒木たちとはまともに話しできないから、王子様にお尋ねします」
「なんだい?」
荒木たちが怒声を浴びせようとしていたが、さっきの魔術師が三人の声を封じてくれた。
これで静かに会話ができる。
「俺とそっくりなドッペルゲンガーのことですが」
「うん。メルビスがいるからね。動きを封じてもらってから、後ろに控えているわたしの部下が首を切り落としたよ」
「そうですか。すみません、お手間をおかけして。怪我をされた方は?」
「いないよ。心配してくれて感謝する。君たちはドッペルゲンガーを追って?」
「はい。実はあの悪魔は迷宮から出て行った奴でして。あ、ダンジョンモンスターではなく、迷宮と魔界が繋がって、それで出て行ったんです」
「そうか。砂漠には国もないし、小さな町が一つあるだけだ。支配するには物足りなかったのだろうね」
「それで、その、王子様は何をしにここへ? あいつらと一緒に、俺を粛正するためですか?」
もしそうだとしたら、どう誤解を解いたものか。
「いや。興味があったんだ。あの三人がそこまで躍起になる理由はね。それと、最近砂漠の町で大規模な港の建設が始まっていると聞いてね。もし港が完成するようなことがあれば――」
「あ、あれば?」
まさか軍事拠点とか、そんな勘違いされているんじゃ!?
「その時にはぜひ、我が国との交易をお願いしたくてね」
レイナルド王子はそう言ってニッコリと笑った。



