「来たけど帰った!?」
「ど、どういうことだ、町長さんよぉ」
ギルドにいた腕の立つ冒険者も一緒に、町長宅へとやってきた。
俺《・》は来たらしい。
だけどしばらく話をしたあと、帰って行ったそうだ。
その時、町長宅にあった家具をぶっ壊し、ちょっと高価そうなものを平然と持ち去ったとか。
「つまり、あのユタカ殿は本物ではなかった……と?」
「そうなんです。水没神殿の奥にある迷宮から出てきたそうなんですよ」
「ダンジョンモンスターが!?」
「あ、いえ。そいつはダンジョンモンスターじゃなくって、悪魔が生息する魔界っていう所から。迷宮と魔界ってのが繋がりやすいそうなんです。大精霊様が言ってました」
『エッヘン』
ってことにしてある。
ギルドマスターも町長も、大精霊がって言うと疑わない。
「けどなんで町長を襲わなかったんだろうな、俺。いや俺じゃないか」
「落ち着いてユタカ。ドッペルゲンガーって言えばいいだけでしょ」
そうなんだけど、ドッペルゲンガーって長くて言いにくいんだよ。
「町長が襲われなかった理由か……なんだろうな」
腕の立つ冒険者でもわからないようだ。
と思ったら、足元でベヒモスが俺の足を突く。
「なんだ?」
『あのね、あのね。ここの町長さん、腰がすっごく低いよね』
「んぁ、そう……だな」
『だからさ、町で一番偉い人だって気づかなかったんだよ』
そんなことあり得る?
『だってほら、ユタカ君にペコペコ頭下げてるじゃん』
それはフレイや大精霊がバックにいるから、怒らせたらダメな奴って思われているからだと思う。
『ふむ。ユタカの方が立場が上……そう判断した可能性は高いだろうな』
『そしたら次は、ユタカが狙われる番かしらぁ』
「ちょ。俺が食われるってこと!?」
『可能性はあるってことよ』
……ここにいつ連中の中に、ドッペルゲンガーいないだろうな!
「アス、お香っ」
『ハァイ。ンンンンー』
アスが気合と共に、香炉を持ち上げる。
あ、そうか。ずーっとお香焚いたままだった。
ってことはここは安全っと。
これからどうするか――
「ってことで、ユタカをおと――護衛することになった」
「ギルマス、今囮って言おうとした!」
「気のせいだ。がーっはっはっは」
笑ってごまかすなっ。
「ユタカさん、大丈夫です。ドッペルゲンガーがユタカさんを襲ってきても、私たちが返り討ちにしますから」
「そうよ」
『ぼくもユタカお兄ちゃん守る!』
『ボクモォ』
『♪♪』『☆♪』
頼りになるのは身内だけじゃん。ぐすん。
俺たちは町外れの空き家に缶詰めされることになった。
そして「港の建設のため、出資者のひとりユタカが町外れの一軒家に滞在している」という噂を流す。
「これでドッペルゲンガーの野郎は、君を襲うためここにくる」
「来たところを、我々が全力で倒す」
「まぁ任せろ。こっちには神官が三人もいるからな」
「は、はい……」
その神官。何故かみんなマッチョです。
はい。神官戦士だね。
それから十日間。
俺たちはずっとドッペルゲンガーが現れるのを待った。
さすがに長期戦になりそうだと思って、フレイには村に戻って事情を説明してもらっている。
お香も減っていくし、村で追加を作ってもらって、それを翌日持ってきてもらった。
更に一週間が過ぎても、奴は現れない。
「まさかと思いたくないけど、他の犠牲者がもう出てるんじゃ……」
「でもそうなったら、探すのは大変よ」
「フレイ様にまた村まで戻ってもらって、お香の追加を頼んではどうでしょう?」
「そうね。町のあちこちでお香を焚いて、炙りだすしかないわね」
それしかないよな。
冒険者やギルドマスターもその件には賛成。
念のため俺の護衛は残しつつ、ドッペルゲンガーではないと判明している人たちでお香を持ってあちこち歩き回ってもらった。
港の建設現場にもお香は持っていかれ、全員が白と判明。
その結果――
「町にドッペルゲンガーらしき奴は見つからねぇ」
「じゃあ、いったいどこに!?」
『んー。もっと人が多い、大きな町かなぁ』
『そうねぇ。砂漠で唯一の町とは言え、人口だってそう多くはないもん』
『より大きな混乱を生むなら、大きな町の方がより多くの負の感情を得られるからな』
大きな町って、どこだよ。
砂漠には他に町なんか……まさか!?
「村に行ったんじゃ!?」
「そんなっ」
「ユタカさんの姿で近づけば、誰も不振に思う人はいないですよ。大変だわ」
『ない』
『ないわね』
『ないな』
……ないよなぁ。二つの村を合わせたって、人口二百人ぐらいだしさ。
じゃ、どこに?
「大変です!」
突然俺たちの仮宿に駆けこんできたのは、ゼブラさんだ。
「大変です! さきほど我が家に到着した知人の商人が、ゾフトスの港町からこちらに向かう途中で、荷物を平然と盗もうとした若い男にあったとかで」
へ、平然と……なんだ、この既視感。
「その男の人相が、ユタカさんとソックリなんです!!」
「な、なんだって!?」
ゾフトス王国の港町からこっちに来る途中って……まさか国境を超えようとしている!?
「ど、どういうことだ、町長さんよぉ」
ギルドにいた腕の立つ冒険者も一緒に、町長宅へとやってきた。
俺《・》は来たらしい。
だけどしばらく話をしたあと、帰って行ったそうだ。
その時、町長宅にあった家具をぶっ壊し、ちょっと高価そうなものを平然と持ち去ったとか。
「つまり、あのユタカ殿は本物ではなかった……と?」
「そうなんです。水没神殿の奥にある迷宮から出てきたそうなんですよ」
「ダンジョンモンスターが!?」
「あ、いえ。そいつはダンジョンモンスターじゃなくって、悪魔が生息する魔界っていう所から。迷宮と魔界ってのが繋がりやすいそうなんです。大精霊様が言ってました」
『エッヘン』
ってことにしてある。
ギルドマスターも町長も、大精霊がって言うと疑わない。
「けどなんで町長を襲わなかったんだろうな、俺。いや俺じゃないか」
「落ち着いてユタカ。ドッペルゲンガーって言えばいいだけでしょ」
そうなんだけど、ドッペルゲンガーって長くて言いにくいんだよ。
「町長が襲われなかった理由か……なんだろうな」
腕の立つ冒険者でもわからないようだ。
と思ったら、足元でベヒモスが俺の足を突く。
「なんだ?」
『あのね、あのね。ここの町長さん、腰がすっごく低いよね』
「んぁ、そう……だな」
『だからさ、町で一番偉い人だって気づかなかったんだよ』
そんなことあり得る?
『だってほら、ユタカ君にペコペコ頭下げてるじゃん』
それはフレイや大精霊がバックにいるから、怒らせたらダメな奴って思われているからだと思う。
『ふむ。ユタカの方が立場が上……そう判断した可能性は高いだろうな』
『そしたら次は、ユタカが狙われる番かしらぁ』
「ちょ。俺が食われるってこと!?」
『可能性はあるってことよ』
……ここにいつ連中の中に、ドッペルゲンガーいないだろうな!
「アス、お香っ」
『ハァイ。ンンンンー』
アスが気合と共に、香炉を持ち上げる。
あ、そうか。ずーっとお香焚いたままだった。
ってことはここは安全っと。
これからどうするか――
「ってことで、ユタカをおと――護衛することになった」
「ギルマス、今囮って言おうとした!」
「気のせいだ。がーっはっはっは」
笑ってごまかすなっ。
「ユタカさん、大丈夫です。ドッペルゲンガーがユタカさんを襲ってきても、私たちが返り討ちにしますから」
「そうよ」
『ぼくもユタカお兄ちゃん守る!』
『ボクモォ』
『♪♪』『☆♪』
頼りになるのは身内だけじゃん。ぐすん。
俺たちは町外れの空き家に缶詰めされることになった。
そして「港の建設のため、出資者のひとりユタカが町外れの一軒家に滞在している」という噂を流す。
「これでドッペルゲンガーの野郎は、君を襲うためここにくる」
「来たところを、我々が全力で倒す」
「まぁ任せろ。こっちには神官が三人もいるからな」
「は、はい……」
その神官。何故かみんなマッチョです。
はい。神官戦士だね。
それから十日間。
俺たちはずっとドッペルゲンガーが現れるのを待った。
さすがに長期戦になりそうだと思って、フレイには村に戻って事情を説明してもらっている。
お香も減っていくし、村で追加を作ってもらって、それを翌日持ってきてもらった。
更に一週間が過ぎても、奴は現れない。
「まさかと思いたくないけど、他の犠牲者がもう出てるんじゃ……」
「でもそうなったら、探すのは大変よ」
「フレイ様にまた村まで戻ってもらって、お香の追加を頼んではどうでしょう?」
「そうね。町のあちこちでお香を焚いて、炙りだすしかないわね」
それしかないよな。
冒険者やギルドマスターもその件には賛成。
念のため俺の護衛は残しつつ、ドッペルゲンガーではないと判明している人たちでお香を持ってあちこち歩き回ってもらった。
港の建設現場にもお香は持っていかれ、全員が白と判明。
その結果――
「町にドッペルゲンガーらしき奴は見つからねぇ」
「じゃあ、いったいどこに!?」
『んー。もっと人が多い、大きな町かなぁ』
『そうねぇ。砂漠で唯一の町とは言え、人口だってそう多くはないもん』
『より大きな混乱を生むなら、大きな町の方がより多くの負の感情を得られるからな』
大きな町って、どこだよ。
砂漠には他に町なんか……まさか!?
「村に行ったんじゃ!?」
「そんなっ」
「ユタカさんの姿で近づけば、誰も不振に思う人はいないですよ。大変だわ」
『ない』
『ないわね』
『ないな』
……ないよなぁ。二つの村を合わせたって、人口二百人ぐらいだしさ。
じゃ、どこに?
「大変です!」
突然俺たちの仮宿に駆けこんできたのは、ゼブラさんだ。
「大変です! さきほど我が家に到着した知人の商人が、ゾフトスの港町からこちらに向かう途中で、荷物を平然と盗もうとした若い男にあったとかで」
へ、平然と……なんだ、この既視感。
「その男の人相が、ユタカさんとソックリなんです!!」
「な、なんだって!?」
ゾフトス王国の港町からこっちに来る途中って……まさか国境を超えようとしている!?



