「オレぁ……悪魔だ」
おじさんは覚悟を決めたように、口を開いた。
ルーシェたちはそれを聞いて、やや間を空けてから二人で顔を見合わせ、それから首を傾げた。
ん?
理解して、ない?
砂漠のモンスターには、悪魔型っていうか悪魔種っていうか、とにかくそういうのはいない。
だから知らないって可能性もあるよな。
「えっと、二人とも、悪魔ってわかるか?」
「はい、それはもちろんです」
お、知ってる?
「アレでしょ。意地悪で、乱暴で、自分勝手で」
「平気で人を傷つけるような、そういう方のことですよね?」
「ん、んん?」
今度は俺とおじさんが顔を見合わせる番になった。
さっきのこともあって、なんだかお尻に力が入る。
「えっと、それは『悪魔のような人』ってヤツじゃないかな」
「そうそう。オレぁまさに悪魔なんだよ。悪魔族。つまりな、モンスターだ。ヤギじゃねえ。わかるか?」
二人はまた顔を見合わせ、傾げる。
なにこれ、もう、バカかわえぇ。
いやいや、そうじゃなくって。
「バフォおじさんは、バフォメットっていうモンスターなんだよ」
「え……ヤギ、じゃなかったのですか?」
「っていうか、どうしてユタカは知ってるのよ」
「いやまぁ……ヤギでバフォって言ったら、そりゃもうバフォメットしかいないし」
しかも人の言葉を喋る怪しいヤギとなると、もうね。
「君らはバフォメットって名前を知らないようだったからさ。あと、怯えさせたくなかったから」
「ユタカさん」
「もしものときは俺のこの手で――」
右手をわきわきする。
「バフォおじさんが悪い悪魔だったら、その時は寿命まで成長させて倒す覚悟だったからさ。だから話さなかったんだ」
『ふむ。そうか、ユタカにとってそやつは最も厄介な種族であるな』
「ん? どういうことなんだ、フレイ」
「そりゃまぁ……ユタカ、オレぁな、寿命ってもんがねぇんだ」
え?
「オレだけじゃねえ。悪魔ってのはみんなそうだ。寿命はねぇ。死にはするけどな、不老ってやつだ」
「え、えぇぇー!?」
「おじさん、老けないの?」
「おう。羨ましいだろうぉ。ンベヘヘェ」
悪魔は年を取らないってこと?
年齢はあっても、それは生きた年数を数字化しただけのもの。
寿命はない。
殺されなければ死ぬことはない。
おじさんはそう説明した。
寿命がなかったら、確かに俺の成長促進では倒せないな。
他の悪魔族もそうだっていうし、俺の天敵だな。
「それでおじさん。迷宮ではどうだったんだ?」
「お、おう。それがなぁ、ちーっとばかり厄介なことになってんなぁ。もうちょい早く、いや、できりゃあ扉開けた時にオレがいたらよかったんだが」
「どういうことよ。私たちにもわかりやすく説明して」
「あ、あぁ、そうだな。なんかさ、おじさんが言うには、ここの迷宮にドッペルゲンガーって悪魔がいるみたいなんだ」
「ドッペル? なんでしょう、そのモンスターは」
「ドッペルってのは……おじさん、教えてやってくれよ。俺の知ってるドッペルと違うとダメだし」
地球で知られてる空想上のドッペルゲンガーと、この世界のドッペルゲンガーが同じとは限らないし。
「おぅ。ドッペルゲンガーってのはな、自分の姿を持たねぇ悪魔だ」
「自分の姿を?」
「では、どんな姿をしているんですか?」
「んー、全身真っ白で、目も鼻もねぇ。唯一、口だけはあるがな」
「口? ご飯食べるためかしら」
「あぁ、その通りだ。ただし、奴が食うのは生きてるやつの脳だ」
あぁ、やっぱりだ。
俺の知ってるドッペルゲンガーとほぼ同じだな。
「ドッペルゲンガーはな、食ったヤツの姿形を完全に複製すんだ。しかも脳や人格もな。そうして成り代わるんだよ」
「ど、どうして?」
「例えばだ。町で一番偉ぇヤツを食って成り代わるとするだろ? だが姿形も記憶も、性格も同じだ。ドッペルゲンガーだと見抜ける奴は早々いねぇ。そのまんま町の偉ぇ奴のフリして、住民を苦しめるんだよ」
その苦しめ方ってのがいやらしい。
ある人にはこうだと指示をし、別の人にはあぁだと指示する。
別々の指示を受けたばかりに双方に亀裂が生じ、やがて派閥争いが起こる。
そのタイミングなら町の警備も手薄になる、難なく盗賊団を招き入れたりもできるようになるだろう。
そうなったら町は地獄絵図だ。
「人間たちの絶望ってのは、悪魔にとってはご馳走だ。ひとつの町を壊滅したら、また別の町へ移動する。昔な、国が丸ごとドッペルゲンガーに乗っ取られて滅亡してんだ」
「国が!?」
『その件は我も知っておる。この大陸ではなく、東の別の大陸であるがな。今から七百年ほど前であったな』
「そうだ、ダンナ。小国だったがな、国民の半数は死んじまってんだ」
うえぇ、マジかよ。
「んでだ。そのドッペルゲンガーがな――一匹、外に出ちまってる」
な、なんだって!?
「とりあえず魔界に繋がる扉はオレが閉めた。外に出たのは一匹だ。さっさと見つけて始末しねぇと、とんでもねぇことになるぞ」
こんなところで呑気におやつ食べてる場合じゃない!!
おじさんは覚悟を決めたように、口を開いた。
ルーシェたちはそれを聞いて、やや間を空けてから二人で顔を見合わせ、それから首を傾げた。
ん?
理解して、ない?
砂漠のモンスターには、悪魔型っていうか悪魔種っていうか、とにかくそういうのはいない。
だから知らないって可能性もあるよな。
「えっと、二人とも、悪魔ってわかるか?」
「はい、それはもちろんです」
お、知ってる?
「アレでしょ。意地悪で、乱暴で、自分勝手で」
「平気で人を傷つけるような、そういう方のことですよね?」
「ん、んん?」
今度は俺とおじさんが顔を見合わせる番になった。
さっきのこともあって、なんだかお尻に力が入る。
「えっと、それは『悪魔のような人』ってヤツじゃないかな」
「そうそう。オレぁまさに悪魔なんだよ。悪魔族。つまりな、モンスターだ。ヤギじゃねえ。わかるか?」
二人はまた顔を見合わせ、傾げる。
なにこれ、もう、バカかわえぇ。
いやいや、そうじゃなくって。
「バフォおじさんは、バフォメットっていうモンスターなんだよ」
「え……ヤギ、じゃなかったのですか?」
「っていうか、どうしてユタカは知ってるのよ」
「いやまぁ……ヤギでバフォって言ったら、そりゃもうバフォメットしかいないし」
しかも人の言葉を喋る怪しいヤギとなると、もうね。
「君らはバフォメットって名前を知らないようだったからさ。あと、怯えさせたくなかったから」
「ユタカさん」
「もしものときは俺のこの手で――」
右手をわきわきする。
「バフォおじさんが悪い悪魔だったら、その時は寿命まで成長させて倒す覚悟だったからさ。だから話さなかったんだ」
『ふむ。そうか、ユタカにとってそやつは最も厄介な種族であるな』
「ん? どういうことなんだ、フレイ」
「そりゃまぁ……ユタカ、オレぁな、寿命ってもんがねぇんだ」
え?
「オレだけじゃねえ。悪魔ってのはみんなそうだ。寿命はねぇ。死にはするけどな、不老ってやつだ」
「え、えぇぇー!?」
「おじさん、老けないの?」
「おう。羨ましいだろうぉ。ンベヘヘェ」
悪魔は年を取らないってこと?
年齢はあっても、それは生きた年数を数字化しただけのもの。
寿命はない。
殺されなければ死ぬことはない。
おじさんはそう説明した。
寿命がなかったら、確かに俺の成長促進では倒せないな。
他の悪魔族もそうだっていうし、俺の天敵だな。
「それでおじさん。迷宮ではどうだったんだ?」
「お、おう。それがなぁ、ちーっとばかり厄介なことになってんなぁ。もうちょい早く、いや、できりゃあ扉開けた時にオレがいたらよかったんだが」
「どういうことよ。私たちにもわかりやすく説明して」
「あ、あぁ、そうだな。なんかさ、おじさんが言うには、ここの迷宮にドッペルゲンガーって悪魔がいるみたいなんだ」
「ドッペル? なんでしょう、そのモンスターは」
「ドッペルってのは……おじさん、教えてやってくれよ。俺の知ってるドッペルと違うとダメだし」
地球で知られてる空想上のドッペルゲンガーと、この世界のドッペルゲンガーが同じとは限らないし。
「おぅ。ドッペルゲンガーってのはな、自分の姿を持たねぇ悪魔だ」
「自分の姿を?」
「では、どんな姿をしているんですか?」
「んー、全身真っ白で、目も鼻もねぇ。唯一、口だけはあるがな」
「口? ご飯食べるためかしら」
「あぁ、その通りだ。ただし、奴が食うのは生きてるやつの脳だ」
あぁ、やっぱりだ。
俺の知ってるドッペルゲンガーとほぼ同じだな。
「ドッペルゲンガーはな、食ったヤツの姿形を完全に複製すんだ。しかも脳や人格もな。そうして成り代わるんだよ」
「ど、どうして?」
「例えばだ。町で一番偉ぇヤツを食って成り代わるとするだろ? だが姿形も記憶も、性格も同じだ。ドッペルゲンガーだと見抜ける奴は早々いねぇ。そのまんま町の偉ぇ奴のフリして、住民を苦しめるんだよ」
その苦しめ方ってのがいやらしい。
ある人にはこうだと指示をし、別の人にはあぁだと指示する。
別々の指示を受けたばかりに双方に亀裂が生じ、やがて派閥争いが起こる。
そのタイミングなら町の警備も手薄になる、難なく盗賊団を招き入れたりもできるようになるだろう。
そうなったら町は地獄絵図だ。
「人間たちの絶望ってのは、悪魔にとってはご馳走だ。ひとつの町を壊滅したら、また別の町へ移動する。昔な、国が丸ごとドッペルゲンガーに乗っ取られて滅亡してんだ」
「国が!?」
『その件は我も知っておる。この大陸ではなく、東の別の大陸であるがな。今から七百年ほど前であったな』
「そうだ、ダンナ。小国だったがな、国民の半数は死んじまってんだ」
うえぇ、マジかよ。
「んでだ。そのドッペルゲンガーがな――一匹、外に出ちまってる」
な、なんだって!?
「とりあえず魔界に繋がる扉はオレが閉めた。外に出たのは一匹だ。さっさと見つけて始末しねぇと、とんでもねぇことになるぞ」
こんなところで呑気におやつ食べてる場合じゃない!!


