「砂漠に港?」
砂漠の調査に向かわせた部下からの報告を聞き、レイナルドは腕組みをした。
砂漠の南にはゾフトス王国があり、その南西にソードレイ王国は位置する。
「最近ゾフトスが砂漠方面からの入国、出国、関税を二倍近く引き上げておりますので、その関係かと」
「税の引き上げか……」
「ゾフトスの港では、希少なサンゴの流通がありましたが、そもそもゾフトスの海域にはサンゴ礁などありませんでしたので」
「なるほど。砂漠地帯の海域を荒らしたのか。たしかあの辺りには、海の大精霊の聖域が近かったのではないかな?」
サンゴの密漁ができなくなったから、腹いせに税を引き上げたか……レイナルドは溜息を吐き、砂漠の民に同情した。
悪いことをしているのは自分たちだというのに、その自覚さえなく逆ギレとはな――と。
「レイナルド殿! おそらくそれは大地の仕業でしょう」
「シーザー殿? それはいったい、どういうことだろうか」
執務室には三バカトリオもいた。
さすがに大地豊のことが気になるのだろう。
「大地はおそらく、軍港を築こうとしているのですよ」
「軍港……なんのためにだい?」
「もちろん、戦争を仕掛けるためにです!」
「そうです殿下。奴は欲深く、支配願望の強い愚かな人間だ」
「あの男は授かったスキルを使い、世界中の植物を枯らそうとしているに違いないっ」
――と三人は申しております。
そんな三人の様子を、表情ひとつ崩さずレイナルドは聞いていた。
「彼はスキルの力で、民衆を支配しているのでしょう。おそらく、砂漠の国の国王はとっくに暗殺され、乗っ取られているはずです」
「……ほぉ」
「奴の野菜を一瞬で成長させられるってスキルがありゃ、不毛な砂漠じゃ有難がられるだろうしな。それで国王の気を引いて近づくなんて、簡単だろうぜ」
「レイナルド殿。砂漠の民たちのためにも、彼を成敗するべきです」
「しかしシーザー殿。ダイチユタカなる者のスキルが、野菜を一瞬で育てるものだというなら、砂漠の民にとっては歓迎するべきものではないか?」
「国民の支持を得るためだけにやっているにすぎない! あの男はそういう人間だっ。人の好さそうなふりをして近づき、自分より格下だとわかると豹変して力でねじ伏せる。大地豊はそういう男なのだっ」
レイナルドの表情は変わらないが、内心では呆れかえっていた。
まず、砂漠に国などない。国がないのだから国王もいない。国王がいないのだから、暗殺された者もいない。
国がないことを知らないで言っているのだとしたら、この三人はただの妄想を口にしているに過ぎない。
彼らが口にするダイチユタカという人物像も、妄想の中のことということになる。
妄想を事実かのように話す三人の言葉に、いったいどれほど信用できるというのか。
三人を客将として迎え入れて数カ月。
異世界から召喚された勇者だと自称しているが、レイナルドは三人が鍛錬を行う姿を見たことがない。
それどころか三人がここへ来た時より、肉付きがかなりよくなっている。
毎日豪華な食事を貪り、城下町へ繰り出せば高級娼館に入り浸りの豪遊三昧。
そのお金が全て王室に請求されていることも、レイナルドは知っている。
勇者――にはほど遠い三人に、最近ではどう追い出そうかとレイナルドは考えていた。
それでも未だに追い出していないのは、三人が確かに異世界人であることがわかっているからだ。
他人の都合で異世界から召喚されたことを不憫だと、少なからず思っている。
そして三人の話で、他にも召喚された若者が何人もいるということだ。
異世界から召喚された者には特別なスキルが与えられることが多い。
過去の歴史でもそうであったし、その力は戦に用いられることが多かった。
(他国がどの程度、召喚された者たちの情報を掴んでいるか……場合によっては戦に発展してしまうな)
もちろんレイナルドはこの三人を使って、他国と戦争を起こそうとは思っていない。
もし戦争を起こすという野望を持っていたとしても、この三人はその辺の兵士以下の能力しかないのはわかっている。
戦士として、使い物にならない――ということだ。
他の異世界人がどうなのか。
三人が言う『野菜を一瞬で育てられる』スキルを持つダイチユタカのことは、大いに気になる。
(ま、港の方はたまたまのタイミングだろう。砂漠に港が完成すれば、他国との交易もしやすくなるだろうし。ゾフトスが間に入らなければ、他国から安く品を仕入れることもできる。貧しい地域だと聞いていた。港が完成すれば、我が国としても支援が可能になる)
「レイナルド殿! 港が完成する前に、砂漠へ出陣するべきだ!」
「砂漠との間にはゾフトス王国もある。兵を動かすのは、そう簡単なものではないのだよシーザー殿」
「ではこのまま大地が砂漠を支配するのを、黙って見ているおつもりか! 直に奴はゾフトスを侵略するだろう。そして次はここ、ソードレイを!」
レイナルドは心の中でため息を吐いた。
砂漠にあるのはたった一つの町。各地に小さな集落ぐらいはあるだろうが、砂漠で暮らす者の総人口は、ソードレイの王都の人口よりも圧倒的に少ない。
町を守る衛兵はいるが、あとは町を拠点にする冒険者ぐらいしか戦える者はいないが、そもそも兵士ではないので戦争には出ないだろう。金で雇われる者がいるかもしれないが。
そうしたところで、ゾフトスの港町ひとつ落とすのだって無理に決まっている。
(ほんとにこの者らは、何も知らないのだな。この世界に来て何カ月過ごしたのかわからないが、ここまで無知とは)
砂漠で暮らしているというダイチユタカはどうだろう?
過酷な環境で異世界人がどう生き抜いているのだろう?
気になる。
そしてこの三人は、どうしてダイチユタカを目の敵にしているのかということも気になる。
(行ってみるか……ついでに港が完成したあとの、交易についても町側と話をしておきたい)
未だダイチユタカのあることないことを吹聴している三人を見つめながら、レイナルドはほくそ笑む。
(こいつらも連れて行こう)
――と。
砂漠の調査に向かわせた部下からの報告を聞き、レイナルドは腕組みをした。
砂漠の南にはゾフトス王国があり、その南西にソードレイ王国は位置する。
「最近ゾフトスが砂漠方面からの入国、出国、関税を二倍近く引き上げておりますので、その関係かと」
「税の引き上げか……」
「ゾフトスの港では、希少なサンゴの流通がありましたが、そもそもゾフトスの海域にはサンゴ礁などありませんでしたので」
「なるほど。砂漠地帯の海域を荒らしたのか。たしかあの辺りには、海の大精霊の聖域が近かったのではないかな?」
サンゴの密漁ができなくなったから、腹いせに税を引き上げたか……レイナルドは溜息を吐き、砂漠の民に同情した。
悪いことをしているのは自分たちだというのに、その自覚さえなく逆ギレとはな――と。
「レイナルド殿! おそらくそれは大地の仕業でしょう」
「シーザー殿? それはいったい、どういうことだろうか」
執務室には三バカトリオもいた。
さすがに大地豊のことが気になるのだろう。
「大地はおそらく、軍港を築こうとしているのですよ」
「軍港……なんのためにだい?」
「もちろん、戦争を仕掛けるためにです!」
「そうです殿下。奴は欲深く、支配願望の強い愚かな人間だ」
「あの男は授かったスキルを使い、世界中の植物を枯らそうとしているに違いないっ」
――と三人は申しております。
そんな三人の様子を、表情ひとつ崩さずレイナルドは聞いていた。
「彼はスキルの力で、民衆を支配しているのでしょう。おそらく、砂漠の国の国王はとっくに暗殺され、乗っ取られているはずです」
「……ほぉ」
「奴の野菜を一瞬で成長させられるってスキルがありゃ、不毛な砂漠じゃ有難がられるだろうしな。それで国王の気を引いて近づくなんて、簡単だろうぜ」
「レイナルド殿。砂漠の民たちのためにも、彼を成敗するべきです」
「しかしシーザー殿。ダイチユタカなる者のスキルが、野菜を一瞬で育てるものだというなら、砂漠の民にとっては歓迎するべきものではないか?」
「国民の支持を得るためだけにやっているにすぎない! あの男はそういう人間だっ。人の好さそうなふりをして近づき、自分より格下だとわかると豹変して力でねじ伏せる。大地豊はそういう男なのだっ」
レイナルドの表情は変わらないが、内心では呆れかえっていた。
まず、砂漠に国などない。国がないのだから国王もいない。国王がいないのだから、暗殺された者もいない。
国がないことを知らないで言っているのだとしたら、この三人はただの妄想を口にしているに過ぎない。
彼らが口にするダイチユタカという人物像も、妄想の中のことということになる。
妄想を事実かのように話す三人の言葉に、いったいどれほど信用できるというのか。
三人を客将として迎え入れて数カ月。
異世界から召喚された勇者だと自称しているが、レイナルドは三人が鍛錬を行う姿を見たことがない。
それどころか三人がここへ来た時より、肉付きがかなりよくなっている。
毎日豪華な食事を貪り、城下町へ繰り出せば高級娼館に入り浸りの豪遊三昧。
そのお金が全て王室に請求されていることも、レイナルドは知っている。
勇者――にはほど遠い三人に、最近ではどう追い出そうかとレイナルドは考えていた。
それでも未だに追い出していないのは、三人が確かに異世界人であることがわかっているからだ。
他人の都合で異世界から召喚されたことを不憫だと、少なからず思っている。
そして三人の話で、他にも召喚された若者が何人もいるということだ。
異世界から召喚された者には特別なスキルが与えられることが多い。
過去の歴史でもそうであったし、その力は戦に用いられることが多かった。
(他国がどの程度、召喚された者たちの情報を掴んでいるか……場合によっては戦に発展してしまうな)
もちろんレイナルドはこの三人を使って、他国と戦争を起こそうとは思っていない。
もし戦争を起こすという野望を持っていたとしても、この三人はその辺の兵士以下の能力しかないのはわかっている。
戦士として、使い物にならない――ということだ。
他の異世界人がどうなのか。
三人が言う『野菜を一瞬で育てられる』スキルを持つダイチユタカのことは、大いに気になる。
(ま、港の方はたまたまのタイミングだろう。砂漠に港が完成すれば、他国との交易もしやすくなるだろうし。ゾフトスが間に入らなければ、他国から安く品を仕入れることもできる。貧しい地域だと聞いていた。港が完成すれば、我が国としても支援が可能になる)
「レイナルド殿! 港が完成する前に、砂漠へ出陣するべきだ!」
「砂漠との間にはゾフトス王国もある。兵を動かすのは、そう簡単なものではないのだよシーザー殿」
「ではこのまま大地が砂漠を支配するのを、黙って見ているおつもりか! 直に奴はゾフトスを侵略するだろう。そして次はここ、ソードレイを!」
レイナルドは心の中でため息を吐いた。
砂漠にあるのはたった一つの町。各地に小さな集落ぐらいはあるだろうが、砂漠で暮らす者の総人口は、ソードレイの王都の人口よりも圧倒的に少ない。
町を守る衛兵はいるが、あとは町を拠点にする冒険者ぐらいしか戦える者はいないが、そもそも兵士ではないので戦争には出ないだろう。金で雇われる者がいるかもしれないが。
そうしたところで、ゾフトスの港町ひとつ落とすのだって無理に決まっている。
(ほんとにこの者らは、何も知らないのだな。この世界に来て何カ月過ごしたのかわからないが、ここまで無知とは)
砂漠で暮らしているというダイチユタカはどうだろう?
過酷な環境で異世界人がどう生き抜いているのだろう?
気になる。
そしてこの三人は、どうしてダイチユタカを目の敵にしているのかということも気になる。
(行ってみるか……ついでに港が完成したあとの、交易についても町側と話をしておきたい)
未だダイチユタカのあることないことを吹聴している三人を見つめながら、レイナルドはほくそ笑む。
(こいつらも連れて行こう)
――と。



