「なに? シーサーペントだと」

 今から狩りに行くと夜になってしまうし、さすがに夜の海での狩りは危険かなと思っていったん引き返してきた。
 そのついでに港の候補地を伝えに冒険者ギルドに寄った。
 シーサーペントの情報も聞けるかなぁと思って。

「やっぱり大型のモンスターな――」
「野郎ども! 大物狩りの準備をしとけ!!」
「「おおぉぉぉぉぉぉー!!!」」

 ……え?

「シーサーペントかぁ。くぅー、こいつは久々にご馳走にありつけそうだぜ」
「やっぱ塩焼きだよなぁ」
「ばっか。ジャジャンボサボテンのソースで、じっくり焼いたステーキだろ」
「燻製もいいよなぁ」
「ぷるんぷるんのコラーゲンは、すっごく美容にいいのよねぇ」
「ねぇ」

 ……え?
 なんかみなさん、めちゃくちゃ狩る気満々なんだけど。

 まぁ……いいか。

 ただルーシェとシェリルは少し「こんなはずじゃなかった」顔をしている。
 本当は村に持ち帰って、みんなで食べたかったんだろうな。
 そのことをこっそりギルドマスターに伝えると、

「あっちゃー、そうだったのか。すまねぇな。いや、シーサーペントの肉は極上でよ。あの肉は内陸だと、キロ金貨三枚で取引されるぐらいなんだぜ」
「金貨三枚……あれ? この町の平均的な一カ月の生活費って、金貨二枚ぐらいだって言ってなかった?」
「おう、俺がそう教えてやったな。四人家族ぐれぇなら金貨二枚だ。どうだ。シーサーペントの肉がどれぐらい貴重かわかったか?」

 一カ月の生活に必要な金額より上……しかもたった一キログラムでだ。
 買うのは金持ちの貴族ぐらいなんだろうけど、異常な値段だな。
 けどこの様子だと、売るより食う気満々なんだけど。

「内陸に売ったりは?」
「いや、しねぇよ。肉だしな。収納魔法がねぇと運べねぇし、容量限定型だとそんなに入らねぇからな。なんせデケェからよ。だから自分たちで食うのさ。ま、ゾフトスの港に下ろすこともあるが、今はなぁ。密漁のこともあるし、あっちと仲良くする気はねぇんだ」
「シーサーペントって頻繁に狩るのか?」
「まさかっ。奴ら海の中にいるんだぜ? 陸の生き物である俺らが、そう簡単に狩れる訳ねぇだろ。ただお前らの話だと、陸に近い所にいるんだろ? それなら狩りようがある。それに」

 ギルドマスターが俺の肩に腕を回す。

「お前らには大精霊様の加護がついてんだろ? どうせ狩りやすい状況を作ってくれるんじゃねえかぁ? んん?」
「……ま、まぁ」

 クラーケンが海中でも呼吸ができるように、空気の膜を張ってくれる。
 だから明日の狩りは楽勝だろうなって思ってるけど。

「心配すんな。砂漠と渓谷の村だっけか? そっちにも回せるだけの肉は十分にあるはずだ。まぁ小せぇヤツじゃない限りはな。ま、そんときは町への分配を控えて、村優先にするさ。そっちの方が食料問題もデカいだろうからな」

 そうでもないんだけど、そういうことにしておこう。

「なら、大きいのを祈ろう」
「一応言っておくが、強ぇからな」
「了解」

 肉のことをルーシェたちに告げると、とりあえず安心してくれたようだ。
 そうなると、

「今のうちに、シーサーペントの調理方法をいろいろ聞いてみますね」
「私も矢の調整をしなきゃ。リリの風の魔法を矢に付与して貰うの」
「へぇ、エンチャントも出来るのかぁ。いいなぁ」
「あんたも手にエンチャントしてもらう?」

 手に……風を纏う拳!!!!!
 なんか厨二心をくすぶる気もするけど、やめておこう。





 そして決戦の日。

『ずいぶん大所帯じゃないかい』
「いやぁ、シーサーペントの話をしたらこうなってさぁ」
『ふぅん。まぁいいんじゃない? あいつらってば、最近調子に乗ってわたしのサンゴ礁を齧りにくるのよぉ』
「サンゴ食べるのか!? ……ん?」

 今、あいつらって言った?
 あいつら?

「うわぁぁ、本当にクラーケンだ」
「生きている間に、大精霊様のお姿を見ることができるなんて。俺、精霊使いやっててよかった」
「やぁん。大精霊様のお肌つるんつるーん」
『あら、やだよぉ。そんな風に言われたら、恥ずかしいじゃないかぁ』
「えぇー、クラーケン様、赤くなってるぅ。かわいいぃ」

 大精霊って、こんな威厳がないもんなのか?
 本当にそれでいいのか?

 いや、それよりさっきの言葉だ。
 あいつらって、まさか。

『さぁさぁ。みんな頑張っておいで』
「「おぉー!」」
「私たちも行きましょう、ユタカさん」
「遅れをとるもんですか」

 意気揚々とみんなが海に入っていく。
 ざばざばと入って行って、すぐに姿が見えなくなった。
 何人かは海の上を歩いている。水の精霊魔法なんだそうな。

 そして――

『キシエエェェーッ!!』
『ンシャアァァーッ!!』
『ギュオオオォォォンッ』

 海面にドラゴン――いや、龍のような細長いモンスターが顔を出す。
 顔だけみるとドラゴンっぽいけど、手足はなく、蛇みたいにも見える。
 そういえばシーサーペントって海蛇なんだっけ?

『ウワァ、オッキイネェ』
『ボクよりおっきいねぇ』

 サイズで言えば進化前のユユたちよりも大きい。一番大きいものだと、体長五十メートル近いんじゃなかろうか。
 小さいやつでも二十メートルはありそうだ。
 そんなのが三頭いる。

「もうユタカ! なにぼぉっと見てんのよっ」
「あー……俺、いる?」
『ボクハ?』
『ボクもいらなさそう?』

 俺とアス、そして三匹のワームたちは、海を見つめて首を傾げる。
 俺たちいらないよな。
 だって。

「うおおぉぉぉ!」
「肉うぅぅー!」
「コラーゲン! コラーゲン!!」

 もう一頭は海面に浮かんでるし、残りの二頭も瀕死だ。

 ルーシェたちがモンスター=肉だという認識だと思っていたけど、それはどうやら違ったようだ。
 砂漠で暮らす人たちが、モンスター=肉だという認識だったんだな。

 と、今この時俺は思った。