「こちらが港の建設にご協力くださる職人さんです」

 町に到着してすぐ、ゼブラ氏の自宅を訪ねた。
 そう、この人、家を持ったんだ。
 というか町長から直々に家を贈呈されている。
 屋敷というほどじゃないが、夫婦二人暮らしにしてはデカすぎる家だ。
 母屋の他に離れもある。
 まぁ商いが軌道に乗れば従業員をたくさん雇うだろうし、これぐらいでもいいのかな?
 実際、既に何人か住み込みで雇っているそうだし。

「結構大勢でやるんだね」
「これでも少ない方ですよ。来ていただいたのは専門の方だけなので、あとはこちらの町で人を募集するつもりです」

 大工職人は二十人ほど。実際に港や大きな倉庫の建設経験のある人ばかりを集めたそうだ。

「それで、木材のほうは?」
「あぁ、大丈夫。ただ数がどうかなぁと思って。さすがに専門家じゃないから、どのくらい必要かさっぱりわからなくてさ」
「そうですか。オゼさん、わかりますかね?」
「んぁ、そうだなぁ。どのくれぇ必要かってのは、さすがに具体的にはわからねえな。まぁ必要最小限の施設を建てて、足りなければまた仕入れてもらうしかないか」
「だそうです」

 そっかぁ。一応樫の丸太を一万五千本、松の方は一万八千本まで用意はしたんだけど。
 ま、足りなくなったらまた成長させればいいか。

「丸太、さっそく出す? どこに置けばいいかな」
「町外れに作業場をお借りしました。いったんここで丸太の加工をして、海岸の方に作業用の小屋と寝泊まりする家を建てますので」
「了解」

 大工さんと一緒に作業場へと移動して、樫と松の丸太を一本ずつ出した。

「この二種類の木を集めたんだけど、いいかな? 防水効果が高そうな木だったしさ」
「おぉ、立派じゃねえか。これで問題ねぇ」
「よかった。じゃ、邪魔にならない程度に出していくよ」

 丸太をカットして板材とかにするんだろう。
 ギコギコと切るスペースもいるし、とりあえず五十本ぐらいにしとこっと。

「丸太はまだまだあるんで」
「ありがとよ。とりあえずこんぐらいありゃ、あっちに作業場作って、寝床も建てられるさ」

 けど板にカットするのに、結構時間がかかるだろうなぁ。
 そういうの考えると、機械って偉大だよ。

「私もお手伝いできればいいのですが、さすがに均一なサイズに切るのは難しいですし」
「……いやいやルーシェさんや。普通、木は剣で斬る物じゃないですよ」
「え? そ、そうなんですか?」

 そうなんですよ。

 ここで見ていても仕方ないな。
 木材の加工だけで何日かかるか……。
 港の完成まで数年はかかるだ……ん?

 お、おかしい。
 丸太の向こう側に積まれて行ってるのは、板?
 え?

「やっぱり専門の職人は違うわねぇ。凄い勢いで丸太が切られていくわよ」
「え?」
「まぁ本当ですね」
「え?」

 丸太の前に立つ職人の手には、鎌のようなものが握られている。
 鎌と違うのは、刃の両端に持ち手があるってこと。
 なんかテレビで見たことある気はするけど、その刃を丸太に当てて横に移動するだけで、なぜか皮がぜーんぶペロっと捲れている。
 いやなんで?
 刃を当てた部分の皮が剥げるだけならわかる。
 なんぜぐるっと一周、360度の皮が剥けるんだよ!

 丸太をカットしている大工の手には、ノコギリが握られて――いや待って。あのノコギリ、刃がギザギザじゃない。包丁とか、むしろ剣じゃね?
 その刃を丸太に当てて、これまたすぅーっと横移動するだけでスパっと……え?

「はっはっは。驚いてるようだな。ありゃ魔導具さ。作業効率をよくするためのな。風の魔法が付与されてんだよ」
「へ、へぇ。凄いですね」

 こっちの世界じゃ、魔法が偉大……だった。
 これなら思ったより早く港も完成しそうだ。





『船が停泊できる海岸ねぇ』

 アスたちが神殿見学に飽きて戻ってきたところで、海へと移動した。
 港をどこに作るか、実はまだ決めていないという。
 というのも、クラーケンがいるからだ。
 クラーケンの許可なしに、勝手に作る訳にはいかない――と町長も言って、でもクラーケンに話しをするのはちょっと怖い。
 だから俺たちに仲介役を頼んだってわけ。

「サンゴ礁は傷つけたくないし、そもそもこの辺りは浅瀬も多いだろ? 船が座礁するといけないしさ」
『あら、サンゴ礁のこと、気にかけてくれてるんだね。嬉しいじゃないのさぁ』

 だってサンゴを傷つけたら、クラーケンの怒りを買って船が沈没させられるじゃん。

「町から近い方がいいけど、ちょっとぐらいなら離れたっていいんだ。この辺りの土は堅いし、馬車も走らせられるしさ」
『そうだねぇ、少し北に行くけどいい場所があるよ。海岸からすぐの所から深くなってるし、座礁もしにくいと思うね。けどその辺りにシーサーペントが出るから、気を付けなきゃねぇ』

 シーサーペントって、海竜みたいなモンスターだっけ?

「クラちゃんさま、そのシーサーペントというのは、退治してもよろしいのですか?」
『ただのモンスターだし、別にいいわよ』
「ではユタカさん。退治しましょう!」
「食べられるのかしら?」
「海のお魚みたいな味だといいですねぇ」

 君らそんなにモンスター肉が食べたいんですか!?