「いっぱい実ったわね」
「ほんと、たっくさん実りましたね」
「「綿」」
ルーシェとシェリルの二人が、嬉しそうに綿を見上げて言った。
見上げるとそこには、リンゴのように枝からぶら下がった綿がある。
おかしい。俺が知ってる綿と少し違うぞ。
なによりこの綿、バレーボールほどの大きさがある。
そういやインベントリには『綿の木』って書かれてたな。
木……そういうことね。
二人の様子からすると、これが普通サイズっぽいな。
「まぁ、いっぱい生ったわねぇ」
「ユタカくんが成長させたものは、どれも立派だわぁ」
ご近所の奥様方も集まって、みんなで綿の収穫を始める。
俺の仕事はここまで。
あとは任せてオーリさんたちの方へ向かった。
「手伝いに来たよ」
「お、きたきた。こっちの準備も出来てるよ」
「いやぁ、荷物を何も持たなくていいってのは、助かるなぁ」
「いくらでもコキ使ってよ。いくら入れてもまったく重くないからさ」
集落で暮らすようになって十日。
これから岩塩を採掘しにいく。採掘場が少し山を登った所らしい。
「岩塩が採れるってことは、ここは昔、海だったってことか」
「言い伝えではね、大昔の神々の戦いの時に隆起した大地だって言われているんだ」
神々、か。
スキルがあってモンスターがいる世界なら、神様も実在するんだろうな。
ピッケルやカゴ、それから水の入った瓢箪と食料をインベントリに入れ、俺たちは出発した。
しかし、山を登るって言ってたけど……これは……。
「崖……」
「あぁ、ここを登るんだ。ほら、あそこに足場があるだろう」
「足場……あれ足場って言うの!?」
ほぼ垂直に近い崖。
その崖からサルノコシカケみたいなのが生えていた。
もちろん、デカい。
人が二、三人座れそうなサイズだ。
そのコシカケからロープが垂れ下がっている。
いやぁーな予感しかしないな。
「こいつで登るんだ」
オーリさんが笑顔でロープを掴んだ。
マジか。
「なぁに、心配しなくてもあのキノコは頑丈だ。二、三人乗ってもビクともしないし」
「え、キノコ?」
「そう、キノコだ。硬いから食用には出来ないがね」
キノコ……成長、出来るんじゃね?
「おっほ。こいつはいい」
「ははは。キノコで階段を作るとはなぁ」
足場のキノコを少し成長させ、まずは胞子を手に入れる。
文字通り、手に――だ。
手に着いた胞子を崖にこすりつけて、人が乗っても大丈夫なサイズまで成長。
成長させたら、斜め上の位置で同じように胞子をこすりつけ――を繰り返す。
キノコ階段の完成だ。
崖の高さは三〇メートルほどあるんで、さすがに少し怖い。
上まで行くと、少し開けた場所があった。
その先はまた崖。下の方に穴がある。
「あの穴?」
「そうそう。俺たちの親の代からの採掘場なんだ」
入り口は狭いけど、中は数人入っても余裕のある大きさになっている。
というか岩塩を掘ることで広くなっていったんだろうな。
ピッケルで壁を砕けば、それが岩塩だ。
ざっくざくじゃん。
大きなカゴ二つに岩塩がいっぱいになったら、またキノコ階段を下りて集落へと戻る。
普段は崖を登るのに時間が掛かるから、一日がかりの作業らしい。
それが半日ちょっとで終わってしまった。
「ただいまー。岩塩いっぱい採って来た――あれ、どうしたんだ二人とも」
帰宅すると、二人がテーブルに突っ伏していた。
「あ、おかりなさいユタカさん」
「早くない?」
「あーうん。崖に生えてたキノコを成長させて、階段を作ったんだ。それで上り下りが早くてね」
「キノコで階段? はぁ、よくそんなこと思いつくわね」
「キノコを足場になんて、普通は考えないけどな。で、そっちはどうしたんだよ」
そう聞くと、二人は大きなため息を吐いた。
「ユタカさん、すみません。せっかく綿を育てて貰ったのに」
「ま、まぁベッドの補強には使えるわよ」
「ん? どういうことだ」
「実は……綿を紡ぐための道具が……」
道具が?
「もう何十年も使ってたヤツなのよ」
「あぁ、もしかして壊れてたとか?」
二人が同時に頷く。
「集落に一つしかなくて」
「手作業でも出来るけど、凄く時間がかかるのよ」
「ダッツおじさんに修理出来るかどうか見て貰ってから、どうするか考えようってことになりました」
「でも修理出来るかな、あれ」
「うぅん、無理っぽいですねぇ」
二人の様子から、かなり酷く壊れてたみたいだな。
「でも新しく作れるほどの木材もないし」
「そういや、ここで使ってる木製のものって、どうやって手に入れたんだい?」
「あ、それは行商人さんとの物々交換です」
「でも故郷の村にしかこないのよ。各集落を回ってたら、それだけで数カ月かかっちゃうから」
しかもいつ来るか分からない行商人相手だから、事前に村の方へ物々交換出来る物を渡しておかなきゃならないらしい。
なるほど。外から仕入れていたのか。
「木材、あればいいんだよな?」
それならお安い御用だ。
翌日、樫の木を数本成長させた。
ガタついてる椅子やテーブルもあるし、どうせなら新品にしたい。
「よぉし、それじゃあ作るか。みんなも手伝ってくれ」
ダッツさんの号令に、みんなが元気よく返事をした。
まずは、糸紡ぎ機だ。
「ほんと、たっくさん実りましたね」
「「綿」」
ルーシェとシェリルの二人が、嬉しそうに綿を見上げて言った。
見上げるとそこには、リンゴのように枝からぶら下がった綿がある。
おかしい。俺が知ってる綿と少し違うぞ。
なによりこの綿、バレーボールほどの大きさがある。
そういやインベントリには『綿の木』って書かれてたな。
木……そういうことね。
二人の様子からすると、これが普通サイズっぽいな。
「まぁ、いっぱい生ったわねぇ」
「ユタカくんが成長させたものは、どれも立派だわぁ」
ご近所の奥様方も集まって、みんなで綿の収穫を始める。
俺の仕事はここまで。
あとは任せてオーリさんたちの方へ向かった。
「手伝いに来たよ」
「お、きたきた。こっちの準備も出来てるよ」
「いやぁ、荷物を何も持たなくていいってのは、助かるなぁ」
「いくらでもコキ使ってよ。いくら入れてもまったく重くないからさ」
集落で暮らすようになって十日。
これから岩塩を採掘しにいく。採掘場が少し山を登った所らしい。
「岩塩が採れるってことは、ここは昔、海だったってことか」
「言い伝えではね、大昔の神々の戦いの時に隆起した大地だって言われているんだ」
神々、か。
スキルがあってモンスターがいる世界なら、神様も実在するんだろうな。
ピッケルやカゴ、それから水の入った瓢箪と食料をインベントリに入れ、俺たちは出発した。
しかし、山を登るって言ってたけど……これは……。
「崖……」
「あぁ、ここを登るんだ。ほら、あそこに足場があるだろう」
「足場……あれ足場って言うの!?」
ほぼ垂直に近い崖。
その崖からサルノコシカケみたいなのが生えていた。
もちろん、デカい。
人が二、三人座れそうなサイズだ。
そのコシカケからロープが垂れ下がっている。
いやぁーな予感しかしないな。
「こいつで登るんだ」
オーリさんが笑顔でロープを掴んだ。
マジか。
「なぁに、心配しなくてもあのキノコは頑丈だ。二、三人乗ってもビクともしないし」
「え、キノコ?」
「そう、キノコだ。硬いから食用には出来ないがね」
キノコ……成長、出来るんじゃね?
「おっほ。こいつはいい」
「ははは。キノコで階段を作るとはなぁ」
足場のキノコを少し成長させ、まずは胞子を手に入れる。
文字通り、手に――だ。
手に着いた胞子を崖にこすりつけて、人が乗っても大丈夫なサイズまで成長。
成長させたら、斜め上の位置で同じように胞子をこすりつけ――を繰り返す。
キノコ階段の完成だ。
崖の高さは三〇メートルほどあるんで、さすがに少し怖い。
上まで行くと、少し開けた場所があった。
その先はまた崖。下の方に穴がある。
「あの穴?」
「そうそう。俺たちの親の代からの採掘場なんだ」
入り口は狭いけど、中は数人入っても余裕のある大きさになっている。
というか岩塩を掘ることで広くなっていったんだろうな。
ピッケルで壁を砕けば、それが岩塩だ。
ざっくざくじゃん。
大きなカゴ二つに岩塩がいっぱいになったら、またキノコ階段を下りて集落へと戻る。
普段は崖を登るのに時間が掛かるから、一日がかりの作業らしい。
それが半日ちょっとで終わってしまった。
「ただいまー。岩塩いっぱい採って来た――あれ、どうしたんだ二人とも」
帰宅すると、二人がテーブルに突っ伏していた。
「あ、おかりなさいユタカさん」
「早くない?」
「あーうん。崖に生えてたキノコを成長させて、階段を作ったんだ。それで上り下りが早くてね」
「キノコで階段? はぁ、よくそんなこと思いつくわね」
「キノコを足場になんて、普通は考えないけどな。で、そっちはどうしたんだよ」
そう聞くと、二人は大きなため息を吐いた。
「ユタカさん、すみません。せっかく綿を育てて貰ったのに」
「ま、まぁベッドの補強には使えるわよ」
「ん? どういうことだ」
「実は……綿を紡ぐための道具が……」
道具が?
「もう何十年も使ってたヤツなのよ」
「あぁ、もしかして壊れてたとか?」
二人が同時に頷く。
「集落に一つしかなくて」
「手作業でも出来るけど、凄く時間がかかるのよ」
「ダッツおじさんに修理出来るかどうか見て貰ってから、どうするか考えようってことになりました」
「でも修理出来るかな、あれ」
「うぅん、無理っぽいですねぇ」
二人の様子から、かなり酷く壊れてたみたいだな。
「でも新しく作れるほどの木材もないし」
「そういや、ここで使ってる木製のものって、どうやって手に入れたんだい?」
「あ、それは行商人さんとの物々交換です」
「でも故郷の村にしかこないのよ。各集落を回ってたら、それだけで数カ月かかっちゃうから」
しかもいつ来るか分からない行商人相手だから、事前に村の方へ物々交換出来る物を渡しておかなきゃならないらしい。
なるほど。外から仕入れていたのか。
「木材、あればいいんだよな?」
それならお安い御用だ。
翌日、樫の木を数本成長させた。
ガタついてる椅子やテーブルもあるし、どうせなら新品にしたい。
「よぉし、それじゃあ作るか。みんなも手伝ってくれ」
ダッツさんの号令に、みんなが元気よく返事をした。
まずは、糸紡ぎ機だ。