『こんな感じ?』
「そうそう、こんな感じ」
『えっへん。撫でていいよ』

 それは撫でろって意味だろ、ベヒモスよ。

 ドリュー族の一家が七家族増えた。
 そして北から引っ越してきた例のガキ大将ダンダが、さっそく新しくやってきたドリュー族の子供たちをコキ使おうとしはじめた。
「新参者なんだから俺のいうよこを聞け」――と。
 おいおい、お前も新参者だろ。

 ダンダの父親も体が大きく、ちょっと横暴なところがある人物だという。
 強い自分こそが集落の長に相応しいって、最年長のボリスによくケンカを吹っかけていたそうだ。
 ただ脳筋タイプってのもあって、年の功&経験の差でボリスには勝てず。
 それでも「わざと負けてやったんだよ」と開き直って傍若無人な態度は改める様子はないってことだ。

 その息子ダンダも、父親に似た。
 母親が唯一まともな人のようで、何かあるたびに頭を下げに来ているようだ。
 大変だなぁ。

『でもこれ、何に使うの?』
「うん。俺が生まれ育った世界の方にな、相撲って国技があってさ」
『すーも?』

 それ違う生き物だから。

「一対一でガチンコ勝負するスポーツさ」

 ベヒモスに作ってもらったのは土俵だ。なかなかよく出来ている。

 子供たちには真剣勝負でぶつかり合いをさせようと思っている。
 ダンダが勝って今以上に傍若無人になるかもしれない――って不安は――ない。
 ただ父親の開き直りぐあいもあるし、改善されるかどうかは分からないけど。
 ま、そこはそこ。考えはある。





「ダレルさん」
「ん? なんだお前」
「挨拶がまだでしたよね。俺はユタカです」
「ユタカ。おぉ、お前が食い物を作っている奴だな。おい、俺んところにもっと食い物を寄越せ」

 いきなりかよ。今でも十分な食料を渡してるはずだろ。
 このダレルってのがダンダの父親だ。確かに体が大きい。
 ヘビー級のボクサーとか、アメフト選手みたいな、胸板が分厚く身長も高い、そんな体格だ。

「野菜はスキルでなんとかなるのですが、実は肉に関しては狩りに頼ってまして。ダレルさんはとっても強くて狩りの腕も超一流だと聞きました」
「がーっはっはっは。そうとも、俺は強い!」

 わっかりやすい脳筋だなぁ。

「そこで、狩りに一緒に来てほしいんです。ダレルさんがいれば安心ですし」
「よし、任せておけ!」
「本当ですか! いやぁ、助かります。無事に狩りが終わったら、ダレルさんには新しく手に入れた野菜が果物を全部差し上げますね」
「おぉ、そうかそうか。お前はなかなかわかる奴のようだ。がーっはっはっは。俺に任せてけ!」

 ってことで、狩場に向かうことになった。
 ただの獲物では面白みがない。だから彼に頼んでこの辺りでは見かけない、そして大型且つ強いモンスターがいる場所に連れて行って貰うことになった。
 同行するのはルーシェとシェリル、そしてワームたちとアスだ。

「お、おい? こ、こいつらは??」
「あ、ワームたちは俺たちとテイミング契約をした子たちです。アスは見ての通り、アースドラゴンですよ」

 ってか今まで気づかなかったのか。
 まぁアルとルルに関しては、砂漠の村の方にいってたけど。

『待たせたの。北西の端の方に行くか。大型の獲物もおるからの』
「お、頼むよフレイ」

 地面に巨大な影ができ、頭上から声が聞こえた。
 無料タクシー、火竜フレイだ。

「は、ひ?」
「ダレルさん。フレイとは初めてじゃないですよね?」
「ユタカさん。北の集落へ行ったときは、フレイ様に送り迎えしていただいていませんから」
「砂船で迎えに行ったでしょ?」
「おっと、そうだったか。じゃ、紹介しますね。この砂漠の守護者、火竜のフレイです」

 ちょっと仰々しく紹介してみた。
 守護者と言われたフレイは、鼻を鳴らしてまんざらでもなさそうだ。

「ド、ドド、ド、ドラ、ドラドラ、ドラ」
「ドラゴンです」

 俺がにっこり笑うと、真っ青な顔をしてダレルが腰を抜かした。

「どうしましたか? 大丈夫ですよ、フレイと俺たちは盟友ですから。ちなみに以前からここで暮らしていた人たちも、だーれもフレイを恐れたりしていませんよ?」
「さ、フレイ様を待たせてはいけませんし、狩りに行きましょう」
「そうね。いっぱい獲物を狩るわよぉ」
「「おー!」」

 腰を抜かしているダレルを引っ張って、砂船に乗船。
 フレイが持ち上げて、わざと急上昇してみせる。
 一瞬ビックリはしたけど、まだ空を飛ぶのにはもう慣れた俺たちだ。すぐに踏ん張って、平気な顔をしてみせる。
 ダレルは悲鳴を上げているようだけど、フレイがいちもより早く跳んでるから風の音でかき消えてしまっている。

『お、さっそく獲物がいたようだぞ』
「おぉー、どれどれ?」

 甲板の縁から下を覗く。
 あー、うん……予想以上にデカい。フレイより気持ち小さい程度じゃん。
 デカいの頼むって言ったけど、これは……。
 
 見た目は熊に似ている。顔が少し長いので、シロクマっぽいのかな。
 ただ足は六本で、サソリのような尾があった。毒持ちかな?

「狩り甲斐がありそうですね、ダレルさん」
「ダレルさんの実力、見せて欲しいわぁ」
「「うふふ」」

 双子が挑発してる。してるけど、それにすら気づける余裕がダレルにはないようだ。

「さぁ、狩りましょう」
「狩ろう狩ろう」

 ルーシェは剣を構え、シェリルは弓に矢を番える。

「ま、待てお前ら。あ、あんなモンスター、狩れる訳――そうか、お前たちはこ、このドラ……ドラ、ドラゴンに」
『あぁ?』
「ひっ。ド、ドド、ドド、ド、ドラゴン様に、か、狩っていただくつもりなのだろう」
『ふん。我は送り届けるだけだ。貴様らの狩りに付き合う義理はない。聞けばそうとう強いのだろう、貴様。我と力比べをしてみるか?』
「ひぃぃぃーっ」

 それは『死』を意味するってことを、ダレルも分かっているようだ。
 ひれふし、全身を震わせて恐怖している。

「はぁ、だらしない。なぁにが集落一の力持ちよ」
「力があるだけで強いと勘違いなさっているだけですね」
「そうね。ただの筋肉おじさんってことよね」
「な、なんだとこのアマァ」

 フレイには頭が上がらないのに、ルーシェたちには強気に出るんだな。

「行きましょう、シェリルちゃん。フレイ様、下ろしてください」
『うむ。あれの肉は美味い。我も馳走されたいものだ』
「お任せください」

 え、二人とも行くの?

「さ、行くわよユタカ」
「あ、俺も行くわけね」
「あたりまえじゃない! ミイラにしないでよ」
「はぁーい」

 俺たちの存在に気付いた巨大モンスターが突進してくる。
 シェリルの放った矢が熊の目に命中し、悲鳴を上げて立ち上がった。
 うわぁ、デケェ。
 
 そこへシェリルが大剣を薙ぎ払い、後ろ脚の腱を切った。

 どうっと倒れる熊モドキモンスター。

「ユタカさんっ」
「ユタカ!」
「オッケー。じゃ、"成長促進"」

 心臓、それから脳を同時に寿命を迎えるまで成長してもらう。
 熊は一瞬ビクんっと体を大きく震わせて、それから動かなくなった。

「よし、肉ゲェーット」
『我が血抜きをしてやろう』
「助かるよフレイ」
「このサイズだと血抜きも大変ですしね」
「ダレルさんは見ていただけねぇ。あ、この程度の獲物じゃ、物足りなかったのかしら?」
『ではやはりここは、我が相手をしてやらねばなるまいて』
「申し訳ありませんっ。もう偉そうな態度はとりませんっ。お許しください! どうか、お許しをっ」

 なんだ。自分が偉そうなこと言ってるって自覚はあったんだ。
 これに懲りて、親子ともども大人しくなってくれるといいな。