「こ、これをクラーケンが……」
持ち帰った大小色とりどりの真珠を、海岸の警備費用にってギルドマスターに渡した。
用意してくれたのはクラーケンだってことも、正直に伝える。
「人を雇うってことはお金が必要なことだって言ってね」
「人間の懐事情まで心配してくれるとは……かぁーっ、クラーケン様はなんてぇお方なんだ」
さっきはクラーケンって呼び捨てだったのに、今度は様がついたよ。
クラーケンの株が上がりまくりだな。
これから海岸の警備にも熱が入ることだろう。
買い物も全部終わって、集落――じゃなくって村に帰還。
砂漠の町を出て徒歩で一時間。そこからフレイを呼んで空を飛んで数十分で村だ。
距離で言えばフレイに飛んでもらっている方が圧倒的に長いんだけど、時間は徒歩以下っていうね。
砂漠の村に到着すると、ルーシェとルル、それからアスはハクトと一緒に船を降りる。
『な、なんだ童よ。お前も降りるのか?』
『ウン。ボク、ココデオ家ヲ作ルオ手伝イスルノ』
『ど、どど、どういうことだ?』
なんで焦るんだよ。
「二つの集落の人たちが村に引っ越してきたんだ。しばらく使われていなかった家の痛みが激しくて、修繕が必要でね。見ての通り、ここの住宅は岩を切り出して積み上げたものだ。重いから人の手だと一日の作業量が少ししかない」
「それで、ノームの力を借りてお手伝いすることにしたんです。ルルちゃんと、それにアスちゃんも精霊魔法が使えますので」
「アスから手伝うって言いだしたんだ。いやぁ、いい子だよなぁ。ほんっといい子だ。誰に似たんだろうなぁ」
とアスを褒めると、フレイが照れた。
なんせ自分のかわいいかわいい息子が褒められるんだ、親ばかなフレイは嬉しいに決まっている。
『よし。では我も』
「手伝うなんて言わないだろうな? そもそも火竜がどうやって手伝うっていうんだよ。そのデッカい手でさぁ」
『うっ……い、いや、小石など我が魔力で簡単に動かせるぞ』
「いいからいいから。俺たちを渓谷に連れて帰ってくれよ」
『うぅ、うううぅぅ』
肩を落とすフレイの足をぽんぽんと叩く。
「じゃルーシェ。よろしく頼むよ」
「はい」
「ルルとアスもよろしくな」
『☆♪』
『ウンッ。頑張ル!』
「それとアス。終わったらフレイを呼んで迎えに来てもらえ」
『ハーイ』
よし。
それじゃ、我が家に向けて出発!
「よいしょっと。ここでいいかな?」
「えぇ、ありがとう。新しい家具が頂けるなんて、本当に感謝しかないわ」
「いやいや、ちゃんとみんなのお金で買ったものだから」
「お金……お金のことは知っているのだけど、なんせ使ったことがなくってねぇ。買うっていうのも、いまいち実感が」
そうだよねぇ。今までは物々交換だったけど、それだって村の方に委託していたようなものだし。
今度交代で町に連れて行くのもいいかもしれない。
町で買ってきたものを各家庭に届けて、ようやくお仕事完了っと。
「そういえば、ルーシェさんは?」
「あ、ルーシェは村に残ったんだ。あっちの住居の傷みが激しくて、その修繕に精霊魔法が使えるルルとアスが手伝うって言ってくれてね」
「そうなのね。じゃ……食事はどうするの?」
「ん……んんん~」
実は、シェリルは料理が苦手だった。
ヘタなんじゃない。苦手なんだ。
普段はルーシェがアレをどうして、これをそうしてと指示を出してくれているから、その通りにしているだけ。
うぅん、大丈夫かなぁ。
俺も手伝うか。
その夜――
「大丈夫よ!」
「い、いや、俺も手伝うって」
「私ひとりでちゃんとやれるんだからっ」
俺が厨房に立つことを、シェリルが許してくれない。
っていうかね、夕飯の支度は自分ひとりでやると言ってからもう二時間経ってるんだよ!
俺のぽんぽんは背中とくっついちゃいますよ!
にしても……見ていたら本当に迷走しているのがよく分かる。
何を作ろうとしているのか分からないけれど、ニンジンの皮剥きをしたあと固まった。
皮は普通に剥いていたんだけどなぁ。
たぶん、作る料理も考えていないのかもしれない。
それで、乱切りにするのか輪切りにするのか、切り方すら決められないんだろうな。
はぁ、仕方ない。
「あー、俺、野菜炒め食べたいなぁー。たっぷりの野菜と香ばしい肉をパンに挟んで食べたら美味しいだろうなぁ」
うぅん、ちょっと棒読み過ぎるかな?
「野菜炒めね! わかったわっ」
今、まな板の上にはいろんな形に切られた野菜が数種類ある。
あれ全部を投入できる料理っていったら、野菜炒めしか思いつかない。
あれに肉をぶち込んで塩胡椒、あとソースとかで味付けすれば美味くなるはず。
パンはお隣から貰ってきて――
「え? まだ夕飯食べてなかったのか?」
「いやぁ、はは、ははは」
心なしか、オーリの表情が同情しているように見える。
パンをもらって帰って来ると、野菜炒めは完成していた。
早く、ない?
さっきは野菜を切り終えるのに二時間もかかっていたのに、ほんの数分で炒め終わってる?
ん、んん。
こりゃたぶん、根菜の方に火が通ってないな。
「そ、そうだシェリル。バフォおじさんの所に行って、ヤギの乳をもらってきてくれないかな? 明日の朝飲めるようにさ」
「あ、そうね。町に行くときに残ってたミルクを全部使っちゃったものね。待ってて、貰って来るわ」
シェリルが張り切って出て行ったのを確認してから、急いで鍋を火にかける。
乳を搾って戻って来るのに十数分はかかるはず。
その間に炒めきるぞ!
・
・
・
「ただいま~」
「おかえり。そろそろだろうと思って、野菜炒めを温めておいたよ」
「ほんと? ありがとう~」
温めたんじゃなくって、炒めたんだけどな。
持ち帰った大小色とりどりの真珠を、海岸の警備費用にってギルドマスターに渡した。
用意してくれたのはクラーケンだってことも、正直に伝える。
「人を雇うってことはお金が必要なことだって言ってね」
「人間の懐事情まで心配してくれるとは……かぁーっ、クラーケン様はなんてぇお方なんだ」
さっきはクラーケンって呼び捨てだったのに、今度は様がついたよ。
クラーケンの株が上がりまくりだな。
これから海岸の警備にも熱が入ることだろう。
買い物も全部終わって、集落――じゃなくって村に帰還。
砂漠の町を出て徒歩で一時間。そこからフレイを呼んで空を飛んで数十分で村だ。
距離で言えばフレイに飛んでもらっている方が圧倒的に長いんだけど、時間は徒歩以下っていうね。
砂漠の村に到着すると、ルーシェとルル、それからアスはハクトと一緒に船を降りる。
『な、なんだ童よ。お前も降りるのか?』
『ウン。ボク、ココデオ家ヲ作ルオ手伝イスルノ』
『ど、どど、どういうことだ?』
なんで焦るんだよ。
「二つの集落の人たちが村に引っ越してきたんだ。しばらく使われていなかった家の痛みが激しくて、修繕が必要でね。見ての通り、ここの住宅は岩を切り出して積み上げたものだ。重いから人の手だと一日の作業量が少ししかない」
「それで、ノームの力を借りてお手伝いすることにしたんです。ルルちゃんと、それにアスちゃんも精霊魔法が使えますので」
「アスから手伝うって言いだしたんだ。いやぁ、いい子だよなぁ。ほんっといい子だ。誰に似たんだろうなぁ」
とアスを褒めると、フレイが照れた。
なんせ自分のかわいいかわいい息子が褒められるんだ、親ばかなフレイは嬉しいに決まっている。
『よし。では我も』
「手伝うなんて言わないだろうな? そもそも火竜がどうやって手伝うっていうんだよ。そのデッカい手でさぁ」
『うっ……い、いや、小石など我が魔力で簡単に動かせるぞ』
「いいからいいから。俺たちを渓谷に連れて帰ってくれよ」
『うぅ、うううぅぅ』
肩を落とすフレイの足をぽんぽんと叩く。
「じゃルーシェ。よろしく頼むよ」
「はい」
「ルルとアスもよろしくな」
『☆♪』
『ウンッ。頑張ル!』
「それとアス。終わったらフレイを呼んで迎えに来てもらえ」
『ハーイ』
よし。
それじゃ、我が家に向けて出発!
「よいしょっと。ここでいいかな?」
「えぇ、ありがとう。新しい家具が頂けるなんて、本当に感謝しかないわ」
「いやいや、ちゃんとみんなのお金で買ったものだから」
「お金……お金のことは知っているのだけど、なんせ使ったことがなくってねぇ。買うっていうのも、いまいち実感が」
そうだよねぇ。今までは物々交換だったけど、それだって村の方に委託していたようなものだし。
今度交代で町に連れて行くのもいいかもしれない。
町で買ってきたものを各家庭に届けて、ようやくお仕事完了っと。
「そういえば、ルーシェさんは?」
「あ、ルーシェは村に残ったんだ。あっちの住居の傷みが激しくて、その修繕に精霊魔法が使えるルルとアスが手伝うって言ってくれてね」
「そうなのね。じゃ……食事はどうするの?」
「ん……んんん~」
実は、シェリルは料理が苦手だった。
ヘタなんじゃない。苦手なんだ。
普段はルーシェがアレをどうして、これをそうしてと指示を出してくれているから、その通りにしているだけ。
うぅん、大丈夫かなぁ。
俺も手伝うか。
その夜――
「大丈夫よ!」
「い、いや、俺も手伝うって」
「私ひとりでちゃんとやれるんだからっ」
俺が厨房に立つことを、シェリルが許してくれない。
っていうかね、夕飯の支度は自分ひとりでやると言ってからもう二時間経ってるんだよ!
俺のぽんぽんは背中とくっついちゃいますよ!
にしても……見ていたら本当に迷走しているのがよく分かる。
何を作ろうとしているのか分からないけれど、ニンジンの皮剥きをしたあと固まった。
皮は普通に剥いていたんだけどなぁ。
たぶん、作る料理も考えていないのかもしれない。
それで、乱切りにするのか輪切りにするのか、切り方すら決められないんだろうな。
はぁ、仕方ない。
「あー、俺、野菜炒め食べたいなぁー。たっぷりの野菜と香ばしい肉をパンに挟んで食べたら美味しいだろうなぁ」
うぅん、ちょっと棒読み過ぎるかな?
「野菜炒めね! わかったわっ」
今、まな板の上にはいろんな形に切られた野菜が数種類ある。
あれ全部を投入できる料理っていったら、野菜炒めしか思いつかない。
あれに肉をぶち込んで塩胡椒、あとソースとかで味付けすれば美味くなるはず。
パンはお隣から貰ってきて――
「え? まだ夕飯食べてなかったのか?」
「いやぁ、はは、ははは」
心なしか、オーリの表情が同情しているように見える。
パンをもらって帰って来ると、野菜炒めは完成していた。
早く、ない?
さっきは野菜を切り終えるのに二時間もかかっていたのに、ほんの数分で炒め終わってる?
ん、んん。
こりゃたぶん、根菜の方に火が通ってないな。
「そ、そうだシェリル。バフォおじさんの所に行って、ヤギの乳をもらってきてくれないかな? 明日の朝飲めるようにさ」
「あ、そうね。町に行くときに残ってたミルクを全部使っちゃったものね。待ってて、貰って来るわ」
シェリルが張り切って出て行ったのを確認してから、急いで鍋を火にかける。
乳を搾って戻って来るのに十数分はかかるはず。
その間に炒めきるぞ!
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「ただいま~」
「おかえり。そろそろだろうと思って、野菜炒めを温めておいたよ」
「ほんと? ありがとう~」
温めたんじゃなくって、炒めたんだけどな。