「そっちはもう落ち着いたのか」
「あぁ。ワームやアスたちにも慣れて、子供たちはいつも遊んでくれてるよ。な、ユユ」
『うん。ボクたちの子供と仲良しなの』

 半月後、ようやく町へと出発した。
 砂船ごとフレイに抱えられて移動する道中、ハクトとお互いの状況を報告し合う。
 村の方はまだ、空き家の修繕が終わらずテント暮らしの住民も多いらしい。

 村にある家は、切り出した岩を積み上げた作りになっている。
 テレビでもよく見た、四角い構造のやつ。
 元々風化していたうえに、二十年ぐらい誰も住んでいなかったから損傷が激しい家もあるそうだ。

「新しく切り出す必要があるんだが、なんせ重いからなぁ」

 村の傍には小さな岩山がある。
 標高は百メートルもないような、本当に小さな山だ。
 岩はそこから切り出してくるという。
 
 普通の煉瓦サイズなら、何個かまとめて運べるかもしれない。
 けど既存の家に使っている岩ブロックは、煉瓦十個分ぐらいあった。
 馬もラクダもいないから、運ぶのは人力。
 切り出すのにも時間がかかるし、運ぶのにも時間がかかるしでなかなか引っ越しは完了しないようだ。

 それを聞いていたルーシェが――正確にはルルが「お手伝いできるかもです」と。

「ルルが精霊ノームの力を借りて、岩を伐り出したり運んだりできると思うと言っています」
「ワームが魔法を? そうか、進化して凄いワームになったんだったな」

 ハクトもすっかりワームたちに慣れてしまっている。
 海に行った時に数日一緒にいただけでも、ワームたちのいい子具合を知って撫でてくれたりもしていた。

 ハクトはルーシェたちと同じで、砂漠の戦士だ。
 モンスターを狩って食料調達を担っているらしい。
 だからワームに対して恐怖心ってのは、最初からなかった気がする。

「精霊の力が借りれるなら、確かに作業は早く終わりそうだ」
『エ、ノームノ力イルノ? ボクモオ手伝いスル!』
「はっはっは。アースドラゴンも手伝ってくれるのか。けどアス。そうなると村に何日も泊まることになるぞ」
『オ泊マリ!』
「ユタカと何日も離れることになるんだぞ? 泣いたりしないか?」
『大丈夫ダモン。ダッテユタカオ兄チャンガボクヲ置イテ町ニ行ッタ時モ、ボク泣カナカッタモン』

 地味に根に持ってるなぁ。
 けどなアス、あんときお前泣いてただろ……。

「ハクトさん、私とルルもいますし、大丈夫ですよ」
「まぁそうか。ユタカ、いいか?」
「いいよ。ルルとアスが手伝いたいって言ってるんだし、その言葉に甘えてやってくれよ」
「わかった。ありがとう二匹とも。じゃ、お願いするよ」

 ハクトは両手を伸ばして、ルルとアスの頭を撫でてやった。
 体の大きさでいえば、ルルもアスもハクトより大きい。
 でも子供だ。

 ま、まぁルルはベビーを産んでるし、実際は子供じゃないのかもしれないけど。





『では我はこの辺りをぶらぶらしてくる。帰る時にはまた呼ぶがいい』

 フレイが飛んでいく姿を見ながら、あちこちで阿鼻叫喚地獄絵図が繰り広げられるのかと心配になった。
 まぁこの辺りには町が一つあるだけだから大丈夫か。

 徒歩で町へ向かい、門の所で衛兵から「お、来たな」と声をかけられる。

「一時間ぐらい前に東の方から火竜様が飛んできたのが見えたからな。そろそろ来るだろうと思っていたとこさ」
「あ、見えるんですね」
「火竜様なぁ……すこーしだけ町に近づくんだよ」

 と、衛兵がため息交じりに言う。
 俺たちを下ろした後、しれーっと町に近づいてんのか。
 わざとだな。

 今日は素材の買取をしてもらうために来たんじゃない。
 前回、用意が間に合わなかった注文品の受け取りと、あとはマリウス宛ての手紙が届いてないかの確認だ。
 それプラス、引っ越しがあったからいろいろ入用になったんで買い物だ。

 ギルドに行くと、いつものようにマスターが対応してくれた。

「おう、手紙、届いてるぞ。ちょうどよかったな。三日前に届いたばかりだ」
「一カ月半もかかるんだ」
「そりゃお前、船で南に運んで、港町で仕分けされたら次は馬車だ。往復するってんだから、一カ月半でも早いぐらいだぞ」

 まぁそうか。地球とは違うもんな。
 意外と俺もまだ、地球で暮らしていた頃の感覚が残ってるんだな。

 手紙を受け取ってから町に繰り出し、タンス、ベッド、シーツに食器、調理器具。いろいろ買いあさる。
 モンスター素材を売ったお金は、集落にいる間使うことがない。
 ここで使いまくらなきゃ、ただのメダルでしかないんだよな。

 出し惜しみせず買いまくるから、商店の人からも俺たちは歓迎される。

「いい染料が手に入ったよ。見て行かないかい?」
「今日は何を探しているんだい? なんでも用意するよぉ」

 ルーシェとシェリルは染料、それから調理器具なんかを見に。
 俺とハクトで他を見に行く。

 一軒では数が足りず、数軒跨いで必要なものを買いまくる。
 夕方に集合して、宿で一泊したら翌朝は海へ。

「おーい、クラー……ちゃーん」

 たぶん、クラちゃんって呼ばないと出てこない気がした。

『はっあぁ~~い。久しぶりじゃないかい。どう? 雨ちゃんと降ってる?』
「あぁ、降ってるよ。すっげぇ助かってる」
『んっふっふ。そりゃよかったよぉ』

 体を揺らして喜ぶ姿は、人のいいおばさんそのものだ。

「そっちはどう? サンゴを狙う奴らはいないか?」
『大丈夫だよ。脅しが効いてるようだし、それにねぇ、見回りの人間が来るようになったんだよ』
「へぇ、そりゃよかった。ギルドマスターが、町長と相談して海岸の警備を考えないとって言ってたから。それかも」
『そうかい。海のことを考えてくれるってのは、嬉しいことだよ。何かお礼をしないとねぇ。海岸を巡回してくれてる人間たちも、雇われているんだろうし。雇われるってことは、お金を貰ってるはずだろう?』

 まぁそうだろうね。

『その雇い賃は、誰かが負担してるはず。守ってもらってるのは海なんだし、こっちも負担してやらなきゃねぇ』

 そう言ってクラーケンがとぷんと海に潜ると、しばらくして腕にたくさん何かを持って戻って来た。
 なんだろう。貝、か?
 クラーケン基準だと小さな貝だけど、当然、人間サイズだと巨大貝だ。直径五十センチ以上ありそうだし、厚みも二十センチはあるだろうな。

 その貝をクラーケンが腕の先端をコツコツと叩くと、パカっと口が開いた。
 中に合ったのは……

「真珠……」

 一つの貝の中に、ビー玉からゴルフボールサイズの真珠らしき丸い珠が十数個入っていた。
 しかも乳白色のものだけでなく、黒やピンク、ほんのり緑がかったものまで!

「わぁ、綺麗ですねぇ」
「ほんと。ころころしててかわいい」
『気に入ったのなら、二人にもあげるわよ』
「いいんですか!?」

 これ、めっちゃ高級品だろ!?