「おおぉぉぉっ」

 集落へと到着すると、まずみんなが驚いた。
 以前の集落を知る人は、渓谷がそのまま川になってしまっていることに驚き、集落に入るためにはトンネルを通らなきゃいけないことに驚き、最後は様変わりした姿に驚いた。
 以前の集落を知らない人も、湖があり巨木(ツリーハウスだけど)がありの状況にはかなり驚いていた。
 そして子供たちは――

「すっげー。木の家だ。すっげー!」
「おおぉぉぉっ」
「すごーいすごーい」
「おおぉぉぉっ」

 子供たちは凄い凄いとはしゃぎ、大人たちはおぉぉっと感嘆するので精一杯。

「じゃ、各家庭でどんな家にしたいか要望あったら言ってよ」
「よ、要望?」
「ユタカさん。実際に何軒か家の中を見てもらった方が分かりやすいと思いますよ」

 そっか。どこどこの家みたいにって言ってもらった方が、俺もわかりやすいし。
 ってことで、ツリーハウス内を見せてくれないか、住民にお願いして見学会が開かれた。

 で、全員二階建てのロフト付きがいいってことで。
 あとは子供たちが滑り台やコブ部屋が欲しいとのことで、その条件でツリーハウスを成長させていった。
 成長させたのは六本。
 フレイのおかげで一気に成長させることができる。

「あとは家具を入れれば、すぐにでも使えるよ」
「ありがたい。木の家だと、強風が来ても飛ばされることはないだろう」
「やったぁ~。木のお家だぁ」

 子供たちがさっそく突撃していく――のと、親たちが止めた。

「そのまま上がったら、砂まみれになるだろうっ」
「新しいお家なんだから、綺麗に使いなさいっ」
「「はぁい」」

 うん。前にも見たな、この光景。
 




「うわあぁぁぁっ」
『うわぁぁ。ボク悪いワームじゃないよ?』
「ワームだあぁぁぁっ」
『ご主人じゃないからボクの声、聞こえてない。わーん、ユタカお兄ちゃあぁぁん』
「はいはいはいはいっ。大丈夫ですボリスさん。こいつは俺のテイミングモンスターでユユっていうんです。あっちがルルで、こっちがリリ。あと小さいのが――」

 ボリスさんが、北の集落で最年長のまとめ役だ。
 四〇代のこの人が、実質この集落での最年長になる。

 引っ越しが完了した翌日、みんながあちこち集落内を見て回ると、ワームたちの住居で何度も悲鳴が上がった。
 その度に俺は大丈夫だと伝え、ここから離れられない。
 なんなら向こうの方では「ドラゴンだあぁぁぁ」とか悲鳴が上がっているが、フレイじゃなくアスを見てのことだ。
 フレイが来たら悲鳴どころじゃないだろうなぁ。
 まぁ一度見ているんだけど、一度見たからもう平気とはいかないだろう。

 あと、ヤギも見たことないから驚いて声を上げているようだけど、その声に驚いたヤギの悲鳴が聞こえる。
 そっちはバフォおじさんがカバーするだろう。

『ボクたちって、人間から見るとやっぱり怖いの?』
「えっと……初めて見る人は、普通のモンスターとテイミングモンスターの区別はできないもんだ。でも慣れればみんなと仲良くなれるさ。ここの集落にいた人たちとは、もう仲良しだろ?」
『うん……うん、そうだね。子供たちがね、ぼくらのためにお花を持って来てくれるの。ほら、あそこに植えてるんだよ』

 ユユはそう言って、嬉しそうに地面の一角に連れて行ってくれた。
 そこには小さな花畑があった。本当に小さな花畑だ。

 花の種を集落で撒いた記憶はない。
 だけどあちこちで花が咲いているのは見る。数は少ないけど。
 その花にも見覚えはある。

 アスのおふくろさんの墓前でだ。

 フレイが東の山から土を運んできて、あの辺一帯にばら撒いてたんだよな。
 最初はなんでだろうと思っていたけど、そのうちあちこちから芽が出ると理由がわかった。

 花の種を土ごと運んできていたんだ。

 アスのおふくろさんが大好きだったあの花畑を、墓前でも再現したかったんだろう。
 だから以前、花を咲かせるのに協力してスキルを使ったんだけども。

「アスのおふくろさんの墓前に作った花畑から、種が飛んできたんだろうな」
『こんな所まで飛んでくるんだねぇ。すごぉい』
「そうだな」

 にしても、成長が早い気がする。
 もしかして大地の木の影響なんだろうか?

『あ、あのねあのね。ボクたちもチキンホーンさんに習って、肥料作ってるの』
「肥料?」
『うん。ルルがノームを召喚してね、ボクらの……その、あのね……うん……をね、土とまぜまぜして、今発酵させてるところだよ』

 ワーム糞による肥料作り!
 でもワームの糞なら、そのままでも肥料になりそうな。

 まぁ自分たちで考えて行動してるんだ。このまま見守ろう。

「そういや、チビたちはどうだ? 最近あんまり見ないけど」
『大変だよぉ。もうあちこち遊びにいっちゃうから』
「大丈夫か? この辺りは安全とはいえ、砂漠の方に行くと……ほら、他のモンスターに襲われるとか以前に、お肌の乾燥とかさ」
『うん。でも大丈夫。お外のほうまで川ができてるから、だんだんと砂が湿ってきてるんだよ』
「本当か? 今度ゆっくり周辺の砂漠を見て回りたいな」

 町から戻ってきたらそうしてみよう。