「山北の集落で土砂崩れ? みんな無事だったのか?」

 集落に戻ってすぐ、事情をみんなに話した。
 ほとんどの人はその集落で暮らす人の顔を知らないが、それでも全員が心配する。
 怪我人も、亡くなった人も誰もいないことを伝えると、みんなが安堵したように笑みを浮かべた。

 そこで相談だ。

「村に近い集落の人たちは、村に移住するらしいんだ。それでここから一番近い集落の人は、まだ悩んでるようで……それでさ、ここに呼ぶのはどうかなって」
「ここに移住を勧めるのか? まぁ――広くなったしな」
「あっちは六家族だったか?」
「あぁ、二十四、いや二十五人だったかな」
「働き手が増えるわねぇ。いいことじゃない?」
「い、いいの?」

 俺の問いに、ドリュー族も含めてみんなが頷いた。

 そうと決まればさっそく出発だ。
 ただ向こうの集落の人の意見も聞かなきゃならない。
 そこでオーリが一緒に来てくれることになった。





「――というわけで、うちに移住してこないか?」
「マストんところも移住してきているのか。だが大人数が押し掛けて大丈夫なのか? 水とか、それに食料も。そりゃあ町に行けるようにはなったようだが」
「それなら心配しないで。俺がこの通り――」

 インベントリから種をひとつ取り出して、スキルで成長させてみせた。
 一瞬でカボチャの種が芽吹く。それを土に埋めてさらに成長。
 あっという間に立派なカボチャが実った。

「なっ。どうなっているんだ?」
「実はこの前持ってきた野菜、買ったものじゃなくって俺が今みたいにスキルで成長させたものなんだ」
「スキル!? そんなスキルがあったのか」
「おじさん、ユタカのはユニークスキルよ」
「今まで黙っていたのは、このスキルを使うのに魔力を消費するから、他の集落の人たちの分まで手が回らなかったからなんだ」

 今はフレイから魔力を借りることで、他の集落の分もどうにかなるようにはなった。
 でもそれじゃ問題は解決しない。

 自給自足。
 これが可能にならなきゃ、俺が寿命で死んだあと、また食料不足で悲惨なことになる。
 だから、せめてうちの集落だけでも、自然栽培――自給自足ができるようになるまでは黙っておこうということになったんだ。

 とはいえ、今後も雨は降る。
 また土砂崩れが起きては大変だし、人手不足のことだってある。
 このタイミングでスキルのことを話してもいいだろう。
 そのことで移住を決意するきっかけになるならなおのことだ。

 そのことも全部彼らに話し、そして出た結論が――

「わかった。ここを立て直すより、引っ越したほうが早そうだ」
「そうと決まれば家を畳むぞ」
「あ、いや。テントは大丈夫。集落に家《・》があるんで」
「家が? あそこもうちと同じ、天幕暮らしだったはずだが」

 テントの方がいいって家族もいるかもしれない。
 それにあって困るものでもないか。

 引っ越しの準備をする間に、俺たちは村へと移動した。
 ハクトに移住の知らせと、町へ行くのは数日待ってくれと伝えるためにだ。

「そうか。東の集落は、そっちと合流するのか。なら、村が二つになるってことだな」

 村……。そうか、ドリュー族も含めると、約百人ぐらいになるんだな。
 村と言ってもいい規模だ。

「じゃ、こっちはいつでも出発できるように準備はしておく。まぁ正直、こっちも大忙しなんだけどな」

 そう言ってハクトは辺りを見渡した。
 家の修繕作業をしている人がかなりいる。
 ハクト曰く、この村のほとんどが空き家になってて、そこを修繕しているそうな。
 修繕した家は、二つの集落から移住――ある意味里帰り? してきた人が住むことになる。

「どっちも大忙しだな」
「あぁ。だが人が増えると何かと物入りにもなる。近いうちに町へは行きたいな」
「そうだな。また欲しいものリストを作らないと」

 次に町へ行くのは落ち着いてからってことにして、ここで一泊して翌朝には山の北側にある集落へと向かった。

 昨日にはあったテントが、もうなくなっている。

「じゃ、荷物を預かるよ」
「船に乗るかい?」
「インベントリにいれるからへーきへーき。とはいえ、この人数が乗り込むと船内は狭くなるけど」
「い、いんべんとり?」

 ぽいぽいっとテントや家具をインベントリに入れていく。
 それを見て大人たちは「収納魔法のことか」と納得した。

 そして砂船に乗り込み、渓谷の集落に向かって出発した。
 住み慣れた土地を離れるのは、不安だろうなぁ。

 ――と思っていたんだけど。

「渓谷の集落って、どんな所かしらぁ」
「子供いる? ねぇいっぱいいる?」
「この前のおっきなドラゴンもいるの!?」
「家はあるって、新しい天幕?」

 うん。新天地への期待しかないようだ。