岩塩を持って町へ行く日になった。
各集落からも集めるため、野菜を手土産に砂船で向かう。
「多少雨が降っても、砂漠は砂漠のままだなぁ」
畑仕事やら鶏やら、そして集落の地形が変ったことで、この一カ月は忙しく、砂漠には出ていない。
久々の砂漠は相変わらずで、ちょっと不安になる。
『雨が降るようになってまだ一カ月よ。そんな劇的に変わる訳ないじゃない』
「そうだけどさぁ」
『でも砂漠が砂漠じゃなくなったら、このお船動かなくなるんだよ』
ベヒモスの言葉を聞いてハっとなる。
そうだよ。砂地じゃなくなったら、砂船使えないじゃん。
そうなったときの移動手段、どうしたらいいんだろう。
今日は各集落を砂船で移動し、明日村に到着してからはフレイに来てもらうことにしてある。
地面が硬くなって砂船が使えなくなったら、フレイ式移動?
なんか毎回飛んでもらうのは、申し訳ない気がするなぁ。
なんてことを考えていると、一番近い集落が見えて来た。
山をぐるっと半周した先にある集落だ。
ん?
なんだか様子が……。
「土砂崩れだわっ」
「え? 土砂崩れだって!?」
目のいいシェリルが声を上げる。
じぃっと目を凝らしても、俺にはまだよくわからない。
ただ、集落のすぐ横にある岩肌が崩れているのはなんとなくだがわかった。
「まさか雨で……」
『可能性はあるわね。水はけの悪い土地だもん、行き場のない雨水が流れ込んで崩れちゃったのよ』
水害のことを考えていなかったわけじゃない。
でも……考えていたのは自分が暮らす集落のことだけだった。
他の集落のことまで、考えが及ばなかった。
雨さえ降ればみんな喜ぶだろうって、それしか考えてなかったんだ。
集落に近づくにつれ、どうしようもないほど不安にかられる。
もし……。
もし、誰か怪我でもしていたらどうしよう。
もし、誰か亡くなっていたりしたら……。
俺のせいだ。
俺の。
集落に到着して砂船を降りたが、足が凄く重く感じる。
それでも急いで駆けた。
人がいた!
「お? オーリんところの子たちじゃないか」
「おじさんっ。集落の人たちはみんな無事ですか!?」
ざっと辺りを見てみたけど、人の数が少ない気がする。
まさか……。
「あぁ、あれか。空から物凄い量の水が降って来てビックリしたよ。雨なんて親父に聞いた話ぐらいでしか知らなかったし」
「それでっ」
「はっはっは。みんな無事さ。いやな、山を少し登った所にある岩塩洞窟に、みんな避難していたんだ。それで助かったんだよ」
それを聞いてほっと胸を撫でおろす。
だけど雨が止んで集落に戻ってきたら土砂崩れで――
「家が二軒、それに畑が全部ダメになってなぁ。あと井戸も埋まっちまって、今みんなで掘り起こしている最中さ」
「井戸が!? じゃ、水はどうしてたんだ?」
「ほら、あそこを見てみなさい。山から雨水が流れて来てるだろう」
おじさんが指さす方角を見ると、崖の上から水が落ちて来ていた。
量は多くはない。以前の俺たちの集落にあった水場ぐらいだ。
人が少なかったのも、土砂の撤去作業をしている人たちがそっちにいて見えなかっただけ。
人への被害がなくて本当によかった。
けどよかったでは済まないな。
「みなさん無事でよかったです」
「なにか手伝うことはある? 私たちでできることだったら、なんでも言ってよ」
「うぅん。人手は確かに欲しいが、そっちも大変じゃないか? 渓谷は大丈夫だったのか?」
大丈夫なのかと聞かれて、俺たちは答えられなかった。
めちゃくちゃ大丈夫だ。
俺たちの所には大精霊がいて、いいようにしてくれたから。
なんか申し訳なくって、言えない。
「大変な状況なのかい?」
「いえ、その……」
「あぁ、井戸はダメだ。中に土砂や岩が入り込んで、掘り起こすのは難し……お、渓谷の集落の子たちじゃないか。どうした?」
「あ……町へ行くために寄ったんだ」
「おぉ、町か! このありさまだ、必要なものがたくさんあるんだが……でも交換用の素材がなぁ。ここ一カ月は狩りにも行けなかったし」
やっぱり、俺のせいだ。
せめて雨を降らせるのは、他の集落に知らせてからにすればこんなことにならなかったかもしれないのに。
「なんだ? 暗い顔をして」
「あの……実は」
俺のせいなんだ。
だから隠しておくのは悪いこと。
ちゃんと話そう。
「なるほど。砂漠を緑化か」
「すみません。俺のせいで土砂崩れが起きたんですっ」
「おいおい、なんで君が謝るんだ。君は砂漠をよくしろうと思ってやったことだろう?」
「確かに事前に知っていれば少しは対策が出来たかもしれない。でもな、土砂崩れなんて、どうやったって止められないんだ」
「みんな無事だったんだから、そう頭を下げる必要はないって」
でもここだけじゃなく、他の集落だって――
「他の集落もみんな無事だ。先日スコップを借りに村へ行ったんだが、その時に聞いたんだよ。他の集落でも水害があったが、死人はでちゃいねぇ」
「ただ村長代理の案でな、村の近くにある集落の者は、村に戻ることにしたそうだ」
「え、村に戻る!?」
「あぁ。これからは水の心配もなくなるから、作物も育てられる。だからみんなで暮らそうってな」
「こ、ここの人たちは?」
話を聞いてくれた大人たちが顔を見合わせ、考え込んだ。
「村長の孫から提案はされたんだ」
「けどちょっと考えてるんだよ。百人近くが一気に増えたら、さすがに水が足りなくなるんじゃねえかって」
「いくら雨が降ったからって、ずっと続く訳じゃないだろうし。あ、お前さんの話だと、定期的に降ってくれるのか」
だけどやっぱり、いきなり村の人口が増えれば、食料問題が深刻になるという心配があるようだ。
俺が毎日野菜を届けるってのも、現実的ではない。
そりゃフレイに毎日送ってもらえばすぐだけど、こちらの集落での仕事だってあるし……。
集落……。
そうだ!
もしこれが可能だったら、こっちの問題も解決するじゃないか。
「あの、ちょっと俺、いったん集落に戻ります」
「え、ユタカさん?」
「どうしたの急に」
集落に戻って、みんなに相談しないと。
各集落からも集めるため、野菜を手土産に砂船で向かう。
「多少雨が降っても、砂漠は砂漠のままだなぁ」
畑仕事やら鶏やら、そして集落の地形が変ったことで、この一カ月は忙しく、砂漠には出ていない。
久々の砂漠は相変わらずで、ちょっと不安になる。
『雨が降るようになってまだ一カ月よ。そんな劇的に変わる訳ないじゃない』
「そうだけどさぁ」
『でも砂漠が砂漠じゃなくなったら、このお船動かなくなるんだよ』
ベヒモスの言葉を聞いてハっとなる。
そうだよ。砂地じゃなくなったら、砂船使えないじゃん。
そうなったときの移動手段、どうしたらいいんだろう。
今日は各集落を砂船で移動し、明日村に到着してからはフレイに来てもらうことにしてある。
地面が硬くなって砂船が使えなくなったら、フレイ式移動?
なんか毎回飛んでもらうのは、申し訳ない気がするなぁ。
なんてことを考えていると、一番近い集落が見えて来た。
山をぐるっと半周した先にある集落だ。
ん?
なんだか様子が……。
「土砂崩れだわっ」
「え? 土砂崩れだって!?」
目のいいシェリルが声を上げる。
じぃっと目を凝らしても、俺にはまだよくわからない。
ただ、集落のすぐ横にある岩肌が崩れているのはなんとなくだがわかった。
「まさか雨で……」
『可能性はあるわね。水はけの悪い土地だもん、行き場のない雨水が流れ込んで崩れちゃったのよ』
水害のことを考えていなかったわけじゃない。
でも……考えていたのは自分が暮らす集落のことだけだった。
他の集落のことまで、考えが及ばなかった。
雨さえ降ればみんな喜ぶだろうって、それしか考えてなかったんだ。
集落に近づくにつれ、どうしようもないほど不安にかられる。
もし……。
もし、誰か怪我でもしていたらどうしよう。
もし、誰か亡くなっていたりしたら……。
俺のせいだ。
俺の。
集落に到着して砂船を降りたが、足が凄く重く感じる。
それでも急いで駆けた。
人がいた!
「お? オーリんところの子たちじゃないか」
「おじさんっ。集落の人たちはみんな無事ですか!?」
ざっと辺りを見てみたけど、人の数が少ない気がする。
まさか……。
「あぁ、あれか。空から物凄い量の水が降って来てビックリしたよ。雨なんて親父に聞いた話ぐらいでしか知らなかったし」
「それでっ」
「はっはっは。みんな無事さ。いやな、山を少し登った所にある岩塩洞窟に、みんな避難していたんだ。それで助かったんだよ」
それを聞いてほっと胸を撫でおろす。
だけど雨が止んで集落に戻ってきたら土砂崩れで――
「家が二軒、それに畑が全部ダメになってなぁ。あと井戸も埋まっちまって、今みんなで掘り起こしている最中さ」
「井戸が!? じゃ、水はどうしてたんだ?」
「ほら、あそこを見てみなさい。山から雨水が流れて来てるだろう」
おじさんが指さす方角を見ると、崖の上から水が落ちて来ていた。
量は多くはない。以前の俺たちの集落にあった水場ぐらいだ。
人が少なかったのも、土砂の撤去作業をしている人たちがそっちにいて見えなかっただけ。
人への被害がなくて本当によかった。
けどよかったでは済まないな。
「みなさん無事でよかったです」
「なにか手伝うことはある? 私たちでできることだったら、なんでも言ってよ」
「うぅん。人手は確かに欲しいが、そっちも大変じゃないか? 渓谷は大丈夫だったのか?」
大丈夫なのかと聞かれて、俺たちは答えられなかった。
めちゃくちゃ大丈夫だ。
俺たちの所には大精霊がいて、いいようにしてくれたから。
なんか申し訳なくって、言えない。
「大変な状況なのかい?」
「いえ、その……」
「あぁ、井戸はダメだ。中に土砂や岩が入り込んで、掘り起こすのは難し……お、渓谷の集落の子たちじゃないか。どうした?」
「あ……町へ行くために寄ったんだ」
「おぉ、町か! このありさまだ、必要なものがたくさんあるんだが……でも交換用の素材がなぁ。ここ一カ月は狩りにも行けなかったし」
やっぱり、俺のせいだ。
せめて雨を降らせるのは、他の集落に知らせてからにすればこんなことにならなかったかもしれないのに。
「なんだ? 暗い顔をして」
「あの……実は」
俺のせいなんだ。
だから隠しておくのは悪いこと。
ちゃんと話そう。
「なるほど。砂漠を緑化か」
「すみません。俺のせいで土砂崩れが起きたんですっ」
「おいおい、なんで君が謝るんだ。君は砂漠をよくしろうと思ってやったことだろう?」
「確かに事前に知っていれば少しは対策が出来たかもしれない。でもな、土砂崩れなんて、どうやったって止められないんだ」
「みんな無事だったんだから、そう頭を下げる必要はないって」
でもここだけじゃなく、他の集落だって――
「他の集落もみんな無事だ。先日スコップを借りに村へ行ったんだが、その時に聞いたんだよ。他の集落でも水害があったが、死人はでちゃいねぇ」
「ただ村長代理の案でな、村の近くにある集落の者は、村に戻ることにしたそうだ」
「え、村に戻る!?」
「あぁ。これからは水の心配もなくなるから、作物も育てられる。だからみんなで暮らそうってな」
「こ、ここの人たちは?」
話を聞いてくれた大人たちが顔を見合わせ、考え込んだ。
「村長の孫から提案はされたんだ」
「けどちょっと考えてるんだよ。百人近くが一気に増えたら、さすがに水が足りなくなるんじゃねえかって」
「いくら雨が降ったからって、ずっと続く訳じゃないだろうし。あ、お前さんの話だと、定期的に降ってくれるのか」
だけどやっぱり、いきなり村の人口が増えれば、食料問題が深刻になるという心配があるようだ。
俺が毎日野菜を届けるってのも、現実的ではない。
そりゃフレイに毎日送ってもらえばすぐだけど、こちらの集落での仕事だってあるし……。
集落……。
そうだ!
もしこれが可能だったら、こっちの問題も解決するじゃないか。
「あの、ちょっと俺、いったん集落に戻ります」
「え、ユタカさん?」
「どうしたの急に」
集落に戻って、みんなに相談しないと。