砕いた麦を、竹籠に入れて雄鶏に渡した。
籠はルーシェとシェリルの手で、リボンや花で綺麗にデコレーションされている。
その籠を嘴で咥え、二羽の雄鶏たちがそれぞれ雌鶏の下へと向かった。
どうやら二羽とも、それぞれ告白する相手は別々のようだ。取り合いにならなくてよかった。
『コココココ』
告白っていうか、お伺いを立てているみたいだなぁ。
押しが弱いのか。
竹籠の中の麦を見て、雌鶏たちは首を傾げている。
初めて見る物なんだろう。
「おいっ。安全なものだって教えるために、お前が食べるんだよ」
『コ、コケッ』
「大丈夫だて。俺たちも食べてるんだから」
実った粉のほうだけど。
雄鶏がごくりと喉を鳴らした――ように見える。
そして意を決したように、砕いた麦を啄んだ。
『コッ、コッケェー!』
ばっさばっさと羽ばたき、なんかハイテンションになった。
「うんめぇー! とよ」
「あぁ、そりゃよかった」
雄鶏がばっさばっさするのを見て、雌鶏がもう突進でやって来た。
突進してそのまま雄鶏を突き飛ばし、麦を食べ始める。
……雌鶏強すぎないか!
いや、でも俺の知ってる鶏も似たようなものか。
小学校の飼育小屋で飼われてた鶏に餌をやるとき、まっさきに走って来るのは雌鶏だったっけ。
鶏の世界は、雌の方が主導権を握っている……のか、単純に食い気なのか。
そんなことを考えていると、雄鶏がやって来た。
『ンコッココ』
「アレはまだあるか、とさ」
「麦か。あるにはあるけど、そんなにたくさんは出せないぞ。あと砕いてない」
インベントリから麦を一粒取り出して見せた。
種として、最低でも一粒は残さなきゃならない。
この一粒から小麦粉が入った実が数十個採れる。小麦の木は数カ月に一回成長させれば十分だ。
そして種になる麦も、一本の木から実と同じだけ採れる。
とはいえ、一食で一羽一粒食われてたら、数日で麦はなくなるだろう。
「今度町に行ったら、鶏の餌が売ってないかみてくるかなぁ。あっ、まだ砕いてないって言っただろっ」
雄鶏が麦を咥えて地面に落とすと、その嘴でガンガンと突き始めた。
おぉ、あっという間に砕けたな。
それから『コケ』と鳴くと、雌鶏がダッシュしてきた。そして一心不乱に麦を食べる。
なんて甲斐甲斐しいんだ。
全部食べ終わった雌鶏が羽繕いをし始める。
雄鶏がおそるおそるという感じで、雌鶏の羽根を啄んで羽繕いを手伝い始めた。
「ふふ。どうやら気持ちは伝わったようですね」
「あっちのカップルも成功したみたい。よかったじゃない」
あの様子だと、食べ物をプレゼントすれば簡単に落ちそうだな。
あとは卵を産んでくれたら、スキルでちょちょいっとね。
卵を産み落とすまでは静かに見守ろう。
さて、畑に行くかな。
一度や二度の雨では、まだまだ土に湿り気は出ない。
まぁ振った直後は湿ってるけど、ニ、三日すればすっかり乾ききってしまう。
だけどベヒモスが、地中深くに水が染みわたっているから無駄な努力ではないと言ってくれた。
その言葉を信じて、畑仕事にも精を出す。
ちょっと欲張って畑の面積を倍にしたんだけど――
「ふぅ。さすがにこの広さを耕すとなると、時間がかかるな」
「ユタカくん。ほら、アスに頼んでノームに耕してもらえないか?」
「あぁ……それが、アスは今フレイの所に行ってて」
「フレイ様のところかぁ……」
全員がはぁっと大きなため息を吐く。
「耕した後は、畝に野菜を植えていくのだろう?」
「成長すれば収穫もしなきゃならないし。これはなかなか骨が折れそうだ」
「女房にも手伝ってもらうか」
「それも難しいかな、と」
雨が降っていた間に、女性陣たちはいろいろと計画を立てていた。
麻糸を作るという計画を。
糸ができれば生地が作れる。生地があれば服やカーテン、クロスなんかも作れる。
で、雨の間に大量の麻を成長させておいたんだよなぁ。
ルーシェとシェリルが、繊維の取り方を町で教えて貰っていたようで、順調にできているらしい。
「そういやうちのかみさんが、今朝からウキウキして出て行ってたっけ」
「あぁ、うちのもだ」
「女性たちは女性たちで、いろいろお仕事を抱えているようですね。お子さんの世話もありますし」
「「はぁ……」」
またため息が漏れる。
みんなお疲れみたいだな。
畑、ちょっと欲張りすぎたか。
だけど他の集落に届ける分も成長させたいしなぁ。
「生活が潤って来ると、あれもやりたい、これもやりたいと贅沢になってくるな」
「だが俺らが頑張らなきゃ、他の集落に野菜を届けられないだろ?」
「あぁ、そうだ。俺たちだけ毎日美味い物を食っているんだ。他の奴らにも食わせてやりたいだろう」
「そうだな。あぁ、頑張ろう」
そうだ。俺も頑張ろう。
籠はルーシェとシェリルの手で、リボンや花で綺麗にデコレーションされている。
その籠を嘴で咥え、二羽の雄鶏たちがそれぞれ雌鶏の下へと向かった。
どうやら二羽とも、それぞれ告白する相手は別々のようだ。取り合いにならなくてよかった。
『コココココ』
告白っていうか、お伺いを立てているみたいだなぁ。
押しが弱いのか。
竹籠の中の麦を見て、雌鶏たちは首を傾げている。
初めて見る物なんだろう。
「おいっ。安全なものだって教えるために、お前が食べるんだよ」
『コ、コケッ』
「大丈夫だて。俺たちも食べてるんだから」
実った粉のほうだけど。
雄鶏がごくりと喉を鳴らした――ように見える。
そして意を決したように、砕いた麦を啄んだ。
『コッ、コッケェー!』
ばっさばっさと羽ばたき、なんかハイテンションになった。
「うんめぇー! とよ」
「あぁ、そりゃよかった」
雄鶏がばっさばっさするのを見て、雌鶏がもう突進でやって来た。
突進してそのまま雄鶏を突き飛ばし、麦を食べ始める。
……雌鶏強すぎないか!
いや、でも俺の知ってる鶏も似たようなものか。
小学校の飼育小屋で飼われてた鶏に餌をやるとき、まっさきに走って来るのは雌鶏だったっけ。
鶏の世界は、雌の方が主導権を握っている……のか、単純に食い気なのか。
そんなことを考えていると、雄鶏がやって来た。
『ンコッココ』
「アレはまだあるか、とさ」
「麦か。あるにはあるけど、そんなにたくさんは出せないぞ。あと砕いてない」
インベントリから麦を一粒取り出して見せた。
種として、最低でも一粒は残さなきゃならない。
この一粒から小麦粉が入った実が数十個採れる。小麦の木は数カ月に一回成長させれば十分だ。
そして種になる麦も、一本の木から実と同じだけ採れる。
とはいえ、一食で一羽一粒食われてたら、数日で麦はなくなるだろう。
「今度町に行ったら、鶏の餌が売ってないかみてくるかなぁ。あっ、まだ砕いてないって言っただろっ」
雄鶏が麦を咥えて地面に落とすと、その嘴でガンガンと突き始めた。
おぉ、あっという間に砕けたな。
それから『コケ』と鳴くと、雌鶏がダッシュしてきた。そして一心不乱に麦を食べる。
なんて甲斐甲斐しいんだ。
全部食べ終わった雌鶏が羽繕いをし始める。
雄鶏がおそるおそるという感じで、雌鶏の羽根を啄んで羽繕いを手伝い始めた。
「ふふ。どうやら気持ちは伝わったようですね」
「あっちのカップルも成功したみたい。よかったじゃない」
あの様子だと、食べ物をプレゼントすれば簡単に落ちそうだな。
あとは卵を産んでくれたら、スキルでちょちょいっとね。
卵を産み落とすまでは静かに見守ろう。
さて、畑に行くかな。
一度や二度の雨では、まだまだ土に湿り気は出ない。
まぁ振った直後は湿ってるけど、ニ、三日すればすっかり乾ききってしまう。
だけどベヒモスが、地中深くに水が染みわたっているから無駄な努力ではないと言ってくれた。
その言葉を信じて、畑仕事にも精を出す。
ちょっと欲張って畑の面積を倍にしたんだけど――
「ふぅ。さすがにこの広さを耕すとなると、時間がかかるな」
「ユタカくん。ほら、アスに頼んでノームに耕してもらえないか?」
「あぁ……それが、アスは今フレイの所に行ってて」
「フレイ様のところかぁ……」
全員がはぁっと大きなため息を吐く。
「耕した後は、畝に野菜を植えていくのだろう?」
「成長すれば収穫もしなきゃならないし。これはなかなか骨が折れそうだ」
「女房にも手伝ってもらうか」
「それも難しいかな、と」
雨が降っていた間に、女性陣たちはいろいろと計画を立てていた。
麻糸を作るという計画を。
糸ができれば生地が作れる。生地があれば服やカーテン、クロスなんかも作れる。
で、雨の間に大量の麻を成長させておいたんだよなぁ。
ルーシェとシェリルが、繊維の取り方を町で教えて貰っていたようで、順調にできているらしい。
「そういやうちのかみさんが、今朝からウキウキして出て行ってたっけ」
「あぁ、うちのもだ」
「女性たちは女性たちで、いろいろお仕事を抱えているようですね。お子さんの世話もありますし」
「「はぁ……」」
またため息が漏れる。
みんなお疲れみたいだな。
畑、ちょっと欲張りすぎたか。
だけど他の集落に届ける分も成長させたいしなぁ。
「生活が潤って来ると、あれもやりたい、これもやりたいと贅沢になってくるな」
「だが俺らが頑張らなきゃ、他の集落に野菜を届けられないだろ?」
「あぁ、そうだ。俺たちだけ毎日美味い物を食っているんだ。他の奴らにも食わせてやりたいだろう」
「そうだな。あぁ、頑張ろう」
そうだ。俺も頑張ろう。