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それから数日間、ネザサは部屋に籠った。理由はひとえに、絵を完成させるためだった。

「大丈夫かなぁ、アイツ」

「ちう?」

その扉の前で胡坐をかいているのは、一人の少年と九官鳥の姿をした一羽の式神。彼等の傍らには家主である妹尾の奥さんから預かった食事が盆に乗せられ、置かれている。

「飯も食ってないみたいだし、寝てるのかもわからないしなぁ。つーかそもそも呼びかけても返事すらしねぇじゃんか」

「ちうちう!」

「だよなぁ。流石にこれは心配になってくるよなぁ」

マサキとちうが心配そうに扉を見つめる。彼はびくともしない扉を前に、参ったとばかりに頭を掻いた。

もう一度静かな扉に声をかけ、その場を去る。彼女の手伝いをするとは言ったものの、パトロールを疎かにするのは自分の流儀に反する。

「行こうか、ちう」

「ちゃっちゃるん!」

ちうを肩に乗せ、マサキはその場を後にする。

――ネザサが部屋から出てきたのは、それから二週間後の出来事だった。

「マサキ! できた!!」

「フガッ!?」

扉の前で寝てしまったマサキの腹に飛び込んできたネザサに、彼は心底驚き、同時に苦し気な悲鳴を上げる。正直、内臓が出なかったことが奇跡だと思うほどには、その勢いは侮れないものだった。

眠気眼の目を擦りつつ、起き上がるマサキ。そんな彼の腕を引いて、ネザサは彼を部屋に招き入れた。そして――マサキは目の前に広がる二つの世界に息を飲む。

「これは……!」

マサキの言葉に、ネザサは心底嬉しそうに笑みを浮かべた。――季節が梅雨を迎える、寸前の出来事だった。





――春が過ぎ、梅雨前線が活発となりかけているこの季節。

慰安旅行から帰って来た僕たちは、相変わらず変わらない日々を送っていた。……とはいえ、旅行の後始末や絵画の支払いの準備で慌ただしくしていたから、気が付けば季節が巡っていたといった感じなのだが。

そんな所用がいくつも重なった結果、親友の家に土産を片手にやって来た時には既に二週間が経過していた。土産の賞味期限を確認してしまったのは、ここだけの話だ。

「随分と長い旅行だったじゃあないか」

「そう茶化さないでくれ。本当に大変だったんだから」

「ほう、そりゃあ面白そうな話じゃないか。どうだい。君の持っている菓子を茶請けにして、少しお茶していかないか?」

「元からそのつもりだ」

久方ぶりに会う親友の言葉に、僕は肩を竦めて頷く。

――そして、僕は旅行先であったことを全て話した。