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葬儀が執り行われたのは、それから一週間後のことだった。

顔を合わせてすぐだったが、関りのあった人間として線香を上げに向かった僕は、そこで二人を見つけた。ネザサは茫然と座っているだけだったが、マサキの言葉には辛うじて反応しているようで安心する。

マサキはそんな彼女を心配そうに見つめている。そんな彼の肩に薄っすらと見えた鳥に、僕は目を擦った。再び見つめてみるが、鳥の姿なんてどこにもなく。

(気のせいか……)

僕は肩を落とすと、線香をあげに来た人たちを見る。

今にも倒れそうなよぼよぼのおじいさん、足が悪いのか足を引きずりながら歩くおばあさん……。大半が杖を突いて歩く中、真っ直ぐ背筋を伸ばして歩いているのは自分たちくらいなものだった。――否。自分たちよりもうんと若い彼女たちの方が、よっぽど目立っていた。

身を寄せ合うマサキたちを見て、僕は親友とのやり取りを思い出した。

『桜は死だ。吹き上げた風が悪戯にその命を刈り取っていく。それを死と表さずなんと表す』

『へぇ、なら始まりはなんだい? 蕾か何かかい?』

『いや、始まりは新緑だろうな。大きな瑞々しい葉を揺らし、自分の限界まで羽根を広げる。そこから酸いも甘いも嚙み分けていくのさ』

『君は相変わらず面白いことを思いつくなぁ』

『ははは。光栄だね』

にこりと笑う親友に、あの時の僕は意味が分からないと首を傾げていたが――嗚呼、確かにそうなのかもしれない。

ひらひらと散っていく桜の花弁を思い出し、僕は苦笑いをこぼす。桜の樹の下には死体が埋まっている、なんて話も聞くことだし、もしかしたら人の一生なんざ桜の花のように淡く散っていくのが常なのかもしれない。

一歩、一歩と前に進んでいく。僕と妻の番になり、僕達は手順にそって儀式を終える。その際、会長の顔を見たが、僕達は涙を零すことはなく、その場を後にした。



「ふぅ……」

「お疲れですね」

「ははは。そう見えるかい?」

「ええ。とは言っても、気づけるのは私くらいでしょうけど」

「こりゃあ参ったな」

ははは、と笑い、僕は大きな家の庭から見える空を見つめた。

青い空が広がり、視界の端を桃色の花が横切る。その花弁を目線で追いかけていれば、ふと喧騒のようなものが聞こえた。

妻に視線で問いかければ、「私はいいですから。行ってください」と言われる。その言葉にお礼を告げて、僕は喧騒の方へと足を向けた。