ルリカは青いカラス型式神である。すなわち、青ざめてもよくわからない。しかし、今日に限って言えば、ルリカは青ざめていることがよくわかった。

「参ったな……」

 そして皓矢(こうや)も頭を抱えていた。何せ、あの(やじり)は借り物で、大口叩いて詐欺まがいに言いくるめて入手したものなのだから。

「あ、あたち……腹をかっさばかれる!?」

「いや、さすがにそれはちょっと」

「じゃあ、逆さまに吊るされて吐き出すまで叩かれる!?」

「叩きはしないけど、イイ線だね」

「ひいぃいぃ!いぃやあぁぁ!」

 ルリカはパニくってその場をバッサバッサ飛び回った。動揺しているため抜け羽が激しく散る。

「ル、ルリカ落ち着いて。冗談だって!」

「ちぃぃっ!れも、れも、あたちから鏃は取り出さないといかんれしょ?」

 散々横柄な態度で皓矢を馬鹿にしまくっていたが、急に弱気になって瞳をウルウルさせている様はどうにも哀れだ。

「うーん、なんとか吐き出せないかな?」

「ちいぃ、いやだよぉ、逆さまはいやだよぉ」

「あっ!掃除機で吸いとるってどうかな?」

「正月に餅つまらせた老人ぢゃねえぞ!」

 怯えながら怒るルリカは忙しない。そして相反する感情の波に翻弄される。

「う……罪悪感とストレスで気持ち悪くなってきた」

「さすがルリカ、高次元の感情を備えてるね」

「まずい!さっき食べた草もちが出ちゃう!」

「た、大変だ!エチケット袋!」

 しかしそんなものがあるはずもない。皓矢は仕方なくルリカの嘴下に自らの両手を添えた。

「ルリカ!しっかり!」

「う、うう……コッ、コッ、コケッ!」

 鶏の真似ではない。猫とかが毛玉を吐き出す時のアレである。

「コケッ、コケッ、コケェッ!!」

 コロン、コロン

 ルリカは硬い何かを吐き出した。

「ああ!草もちが消化されきって、石みたいになっとる!」

「いや、違うよ、ルリカ」

「へ?」

「これこそ、翠破(すいは)紅破(こうは)だよ!」

 皓矢の手の中には本物の鏃が二つ戻ってきていた。

「よ、よがっだぁあ!」

 ルリカは感涙の涙を流す。
 しかし、皓矢の表情は暗かった。

「ああ……一時的とはいえ式神の体内に取り込まれたんだ。変質していないかもう一度調べないと……。まずは霊子レベルでスキャンして、それからルリカの霊力パターンを抽出して……」

「こ、こーや……?」

 ルリカが恐る恐る声をかけると、皓矢は少し白い顔で力なく笑った。

「ルリカは疲れたろう。休んでいいよ……」

 そう言って皓矢は先に部屋を出ていった。

「こーや……」

 ポツンと残されたルリカは己の過ちを悔いるのだった。



 
 十数時間後。

「ルリカ!ルリカ!!」

 皓矢が研究室に戻ってくると、ルリカはめったに入らない鳥籠の中で項垂れていた。

「ルリカ?どうしたんだい、そんなところで」

「……何も言わないでくだちゃい。あたちは反省中なんれす。あたちは所詮古いだけの式神なんれす……」

 ルリカはすっかりしょげかえって卑屈モードになっていた。

「何言ってるんだい!お手柄だよ、ルリカ!」

「ぺ?」

「ルリカが飲み込んでくれたおかげで、鏃の中のキクレー因子配列が鮮明になったんだ!」

「……つまり、どういうことれすか?」

 皓矢は興奮したまま早口で説明した。

「ルリカは鵺探知特化型式神だろう。君の中にはあらゆる配列のキクレー因子サンプルが記録されているんだ。翠破と紅破の記録ももちろんあった!経年劣化して不鮮明だった因子の配列がルリカの体を経て蘇ったんだよ!」

「ぽ?」

「すごいよ、これで鏃の能力を活性化できる!さすがルリカだね!」

 まぢで?

 まぢで、あたち、すごい?

「ああ、良かった!きっとこの鏃は(はるか)くんの役に立つだろう!」

 ぱらららーん

「ルリカ、復活!なんだよ!」

 急に元気になったルリカは鳥籠の入口を蹴破った。

「ほーっほっほ!やっぱりあたちはすごいんだよ!全部こうなるってわかってたんだから!」

 ルリカにしょんぼりは似合わない。

「こーやもあたちに感謝するといいよ!」

 調子が良くって、おだてに弱くて、憎めない。



「それがあたちなんだよ!!」



 皓矢と名探偵ルリカ 事件簿①二本の矢盗難事件 解・決!