「はい、じゃあ、あたちの言うとおりに書くように!」

「了解です、名探偵」

 皓矢(こうや)をホワイトボードの脇に立たせてルリカはふんぞり返った。

「佐藤斗羽理(とばり)。年齢不詳。ここに来たのはいつだって?」

 ルリカの問いに答えるため、皓矢はデスクのパソコンに戻り画面を確認する。

「えーっと、父が死んだ年の翌年だね。新人研究員として採用されている。当時22歳とあるね」

「ちゅーことは今から23年前か。はあ?あの女、45ォ!?」

 佐藤斗羽理(とばり)の推定年齢は、先日R君が27、8歳との見解を示している。

「そうだね。そんな年齢には見えない。改めて考えると本当に怪しいねえ」

「お前は、バ、カ、か!なんでもっと早く怪しまないんだよ!?」

 ルリカはずずいと皓矢に攻め寄って言う。

「そうだねえ。今になってよく考えたらおかしいな。全然年をとらないのも誰も言わなかったからね」

「何それ、集団催眠でもかかってたんじゃないのぉ!?」

 ルリカは昨日テレビで見た催眠術番組のせいでそんな事を言ったのだが、皓矢は突如真剣な顔をした。

「そうか、そういうことか!」

「えっ、え、何!?」

「それだよ、ルリカ。僕達は佐藤に一種の催眠をずっとかけられていたんだ。彼女の外見が変わらなくても疑問に思わない、というような!」

「ハァ!?この研究所には人が何十人いると思ってんの!?敷地だって広いんだよ!」

 ルリカの反論にも皓矢は譲らずに答えた。

「いや、あの時、誰にも悟られずお祖父様を攻撃した実力があれば可能かもしれない……」

「ふーん。まあ、ここには陰陽師って呼べるのはこーやしかいないからねえ。後は普通の人間だもんねえ」

「いやあ、少し疑問が晴れたよ。さすが名探偵ルリカだね!」

 皓矢がおだてたのに気をよくしたルリカは更にふんぞり返った。

「まあねえ!あたちはヒラメキの天才だからねえ!──ん?まって、じゃあ、あたちもあの女の催眠にかかってたってことになるけど!?」

「あーははは……そうだねえ」

「ムキー!!なんたること!なんたる屈辱!こーや!あんたが悪いよ!主のあんたが不甲斐ないからこんなことになったんだよ!」

 急転直下、怒り狂うルリカは皓矢の顔の前でバッサバッサ羽ばたいた。これが意外とうっとおしくて、痛い。

「ル、ルリカ、落ち着いて!」

「これが落ち着いていられるかぁああぁ!!」

「まま、これでも食べて──ね?」

 皓矢が白衣のポケットから取り出したのは、コンビニのレジ前でよく見るやつである。

「くさもち!」

 その鮮やかな蓬色を認めた瞬間、ルリカは一心不乱に草餅を食べ始めた。皓矢はほっと胸を撫で下ろす。

「うまうま……うまうま……はあー、おいちかった!」

「とりあえずこんなとこでいいかな?」

 ルリカが草餅を堪能している間に皓矢はホワイトボードで情報をまとめていた。

 容疑者 佐藤斗羽理(とばり) 45歳?  協力な術を使う、得体の知れない女性
 お祖父様を刺した。研究所内を催眠にかけていた。翠破・紅破を盗んだ?

「うーん。ハテナいらんな。あと、女性じゃなくてババァって書いとけ!」

「口が悪いなあ……」

 頭に糖分がまわり、お腹が満たされたおかげで、ルリカのおめめはいっそうパッチリしていた。



「次はあの女のいた部屋を捜索するんだよ!」