「えーっとぉ、まず被害にあったブツの情報を整理つるわよ」
 
「はあ……」
 
 ルリカはどこから持ち出したのか、小さなメモ帳とボールペンを器用に持っていた。
 
「行方がわからなくなったのは、翠破(すいは)紅破(こうは)っちゅー矢だったモンのやじりらね?」
 
「そうだねえ」

 息抜きの休憩のつもりで皓矢(こうや)はこの茶番に付き合うことにした。だから返事は自然と気の抜けた感じになる。
 
「こいつはあれでしょ?(ぬえ)の亡骸から出てきたんだったね」
 
「翠破はね。紅破の方は鵺化した蕾生(らいお)くんが吐き出したんだ」

 皓矢が説明すると、ルリカはまたペッと唾を吐く真似をしながら言った。
 
「あー、あのクソガキね。いっちょ前に金色の鵺なんかになりおっていまいまちい」
 
「あれは凄かったよねえ」
 
「その事でこーやにおはなちがあります」
 
「うん?」

 ルリカは急に真面目な顔になったと思ったら、次の瞬間には湯沸かし器のように興奮してまくしたてた。
 
「あのね!あのクソガキが金色でも、あたちは勝ったから!それを勝手に降参なんかちて!」
 
「いやあ、どうかなあ……?」

 皓矢が目を泳がせながら言うと、ルリカはずいと顔を近づけてヤンキーのように睨む。
 
「はあん!?金色だろうがうんこ色だろうが、よゆーだったから!」
 
「ルリカ、レディがそんな言葉を口にしてはいけないよ」
 
「あら、おほほ、いけない。あたちとしたことが──ってあたちに性別なんかないから!式神だから、鳥なんだから!」

 ノリツッコミができる式神は全国探してもルリカだけだろう。そのことは誇らしいと皓矢は思っている。
 
「鳥扱いすると怒るくせにぃ」
 
「式神扱いすればいいんだろーが!刺してねじるよ!?」
 
「それは痛そうだ」

 終始のんびりにこにこしている皓矢にルリカは毒気を抜かれた。
 
「……まあ、いいわ。あたちは過去は振り返らない女なの」
 
「自分から振り返ったよね?性別ないんじゃなかった?」
 
「慣用句でしょうが!揚げ足とってんじゃないよ!こーやのくせに!」
 
「はーい」

 皓矢はすっかりセルフエンタメとして楽しんでいる。
 
「ったく、これだから人間の相手は疲れるわ」
 
「それで?どこから調べるんです?名探偵さん」
 
「そうらね、まずはげんばけんしょーとしょーげんを集めるわ!」
 
「おお、本格的」

 皓矢が拍手でもって称賛すると、ルリカもまんざらでもなく胸を張った。
 
「昨日、再放送の刑事ドラマでやってた!おじさん二人のやつ」
 
「ああ、なるほど」
 
「そんで、こーや。翠破と紅破を最後に見たのはいつ?」
 
「えっ?……そうだなあ、えーっと」

 皓矢が迷っていると、ルリカはキラリと視線を光らせてカッコつけた。
 
「めーかくに答えないと重要参考人でしょっぴくからね」
 
「僕は被害者では?」
 
「最初の被害者とか、第一発見者とかが一番犯人の可能性があるんだよ!」
 
「よく見てるんだねえ、サスペンス」

 皓矢が感心していると、ルリカは更にのけぞらんばかりで得意になっていた。
 
「ふふん、あたちのヒマな一日を舐めてもらっちゃ困る。その気になればチャンネルを駆使して再放送が一日中見れるから!」
 
「マイブームなんだねえ」
 
「さあ、最後に見たのはいつ!?」

 ルリカがずい、と迫ると、皓矢は天井を見つめながら懸命に思い出そうとした。
 
「ええっと、昨夜かなあ?遅くまで調べものしててここで寝落ちしたろう?目が覚めてからは見た記憶がないかも……?」
 
「なるほどぉ、敵はゆうべ、こーやが寝静まったのを見計らって犯行に及んだのか……」
 
「いや、侵入者がいたらさすがの僕も気づくけどね?」

 皓矢のつっこみはルリカには聞こえていない。


 
「よーし!次は現場ひゃっぺんなんだよ!」