放課後独特の校内の空気を肌に受けながら委員会が行われる教室へ向かうと、顔馴染みになった数人が既に着席していた。やっほー、と気安い挨拶に笑顔で答えながら、わたしは空いている席に座った。今日は全クラスの学級委員が集まって、球技大会についての話し合いをすることになっている。わたしは2年2組の学級委員だった。

4月、誰からともなく柳井さんがいいと思いますと推薦され、断る間もなくあてがわれた役割。
たいして面倒ではないし、みんなが支持してくれるならなんだっていいと、ほとんど惰性で受け入れた。

「ねえ香帆、2組は化学の小テスト、あった?」
「え? 今日は授業なかったし、やってないよ。何も予告されてないけど、3組でやったの?」
「うん。しかも抜き打ちで。明日授業あるなら、その時かも」
「うわあ、嫌だな。情報ありがと、助かる」

1年生の時に同じクラスだった美優と話をしているうちに全員集まり、学年主任の滝沢先生も入ってきた。プリントを配りながらさっさと話を始めるのは、せっかちな彼の標準仕様だ。

「競技ごとの分担は先週決めたが、今日はそれぞれで必要な準備や当日の仕事について詳しく話すからなー。まずはグラウンドでやるソフトボールからいくぞ」

ソフトテニス、バレー、バスケ、卓球と説明が続く。競技によって用意しなければならない道具は様々だが、わたしが担当することになったバスケはさほど忙しくなさそうだ。
説明が一通り終わり、開会式と閉会式の役割分担をしたところで委員会は解散になった。荷物を持って立ち上がると、美優が話しかけてきた。

「ね、このあと華恵と理沙と遊びに行くの。一緒に行かない? 新作のクレープ食べようって話してて」
「いいね。せっかくだし行こうかな」

同じく去年のクラスメイトだった2人の名前が出てきたので、わたしは笑って頷いた。駅前まで向かうと、目当てのクレープ屋の看板の横で2人が待っていた。
それぞれに注文して、店の前にあるベンチに腰掛ける。梅雨の時期だが、今日は久しぶりに曇り空で持ち堪えてくれているようだ。限定メニューのガトーショコラクレープを4人並んで頬張りながら、とりとめのない話をあれこれと続けた。

「そういえば聞いてよ。この間、先輩に片想いしてるって話したでしょ? 彼女いないって話だったのに、実際は6組の子と付き合ってるんだってさ」
「えー、何それ。嘘つかれたってこと?」
「わかんない。でも、教えてくれた子も6組だったから、知っててわざとそう言ったのかも」

理沙の愚痴に、美優も華恵もひどいねと同情を見せる。2人に合わせてわたしも残念そうな声を作った。
本心は違う。どうして安易に他人を信じることができるのだろうという疑問でいっぱいだ。

自分かわいさに、他人を嘲笑うために、傷つけるために、虚栄心のために、嘘をつく。
それが人間だ。

今、理沙を慰めているふたりだって、本当はどうでもいいと思っているかもしれない。それでもこの“仲良し4人組”を続けるために、そんなことはおくびにも出さずに耳触りのいい言葉を選んだという可能性も、ゼロではないのだ。

心の中なんて見えない。
だから、今日も“柳井香帆”の仮面を被って笑う。

「慰めに、わたしのクレープひと口食べていいよ」
「同じ味じゃん」

笑える冗談で、オチをつけて。
失恋に落ち込む理沙のためじゃない。自分のためだ。自分の心を満たすために、近くにいる誰かを利用して徳を積むのだ。