夕食と風呂を終えて、わたしは初日の行程で手に入れたパンフレットを眺めていた。体験活動や見学の時のことを付箋に書いて貼り付け、クリアファイルにしまう。その様子を見ていた抜け出し留守番組の彼女がふと口を開いた。

「柳井さんって、生真面目だよね」
「え?」
「あ、いや、悪い意味じゃなくてさ。今もそうやって、今日のことをきちんと整理してるでしょ。で、抜け出しとかリスキーなことは進んでしようとしないじゃん。きっちりしてるなあって思って。わたしはそういうの、全部めんどくさいなーってくらいの雑な気持ちで投げちゃうのに」

抜け出しを図っているふたりは洗面台で髪を整えたり、化粧をしたりしている。部屋の中に残ったわたしと彼女、その間になんとも言えない空気が流れる。

「真面目っていうか……臆病、ビビりってのが大きい気がするな、自分では。悪いほうになっちゃったらどうしようって、それを乗り越える方法も思いつかないし、なんとかなるって開き直ることもできないから。自分でできるところまでしかチャレンジはしない……ううん、できないって感じ」
「でも、学級委員も引き受けてくれたし、文化祭のときもしんどかったのに頑張ってくれたじゃん。文化祭の時はさすがに倒れちゃったのを見て焦ったけど」
「あはは、その節は迷惑かけてしまって申し訳ない……でもそのへんは、頼ってもらえて嬉しい、って気持ちが大きかったのかも。自分に任せて安心ってみんなが思ってくれているなら、それには応えたいから」
「……そっか。いつもありがとうね」

彼女はふっと優しく表情を崩して、ベッドの上で座り直した。

「わたしみたいに面倒がって他人になんでも押し付ける人って少なくないと思うからさ。やってくれる優しくて責任感のある人に負担は集中しちゃうでしょ。せめてちゃんとお礼は言っとかないとね」
「あはは、ありがとう」

建前でしかないわたしの言葉にここまで真摯に向き合ってくれる彼女のほうが、よっぽど立派だと思う。飾り気のない言葉をこうしてわざわざかけてくれる優しさは、きっと本物だ。わかっている。
その事実がつらい。クラスメイトとして心を開いてくれる彼女に対して、同じように振る舞えないことが。

洗面台で身支度を整えていたふたりが戻ってきた。消灯まではまだ少し時間がある。せっかくだからUNOをやろうと言ってカードの箱を取り出してきたので、参加することにした。高校生にもなって真剣に取り組んで悔しさに悲鳴を上げる彼女たちのように生きられたらよかったのにと、楽しさを感じているはずの心の底に黒いものが溜まる感覚があった。

渡部くんに会いたいと思った。会って、声を聞きたい。近くに彼の温度を感じたい。そう思うと同時に、こんな重い感情を引きずったまま彼に合わせる顔などないような気もする。渡部くんが向けてくれる笑顔や優しい言葉に、わたしは何も返せない。
それに何より、修学旅行の日程は忙しい。メッセージを送ろうか布団の中で逡巡しながら、わたしは眠りに落ちていった。