みーちゃんのしたことは、正しいことじゃない。それでも私はみーちゃんの不幸を願ってはいない。0か100か、白か黒か。ふたつにひとつを選べるほど単純明快なことじゃない。
 みーちゃんの丸いおでこも、はじめてのキスの味も、私はきっと永遠に手放さない。
「あとさ、よくわからないコメントがあったんだよね」
「よくわからないって?」
「“痛いの痛いの、飛んでった?”って、疑問形なんだよね。痛いの痛いの飛んでけ、じゃなくて」
 インタビューを受けたとき、心のどこかで淡い期待を抱いていた。隣のあの子が見てくれないか、と。
 どれだけ存在を認められず、どれだけ手をあげられようと、幼いころの私はお母さんをずっと求めていた。失踪されても、心の底から完璧に憎みきることはできなかった。それはあの子も同じだったかもしれない。
 それなのに私は、あの子とあの子の母親を引き離した。
 保護された警察で震えながら「ママ……」とちいさくつぶやかれたときから、ずっと自分に問いかけていた。
 これでよかったの? ほんとうに?
 あの子のことも、みーちゃんのことも、どうすることが正しいのかわからなかった。みんなが平等に傷つかずにいられる道が、どこにあるのかわからなかった。ぜんぶ私が勝手につくってしまった道だった。
 でも、それでも――。
「え、どうしたのアイジ。もしかして、泣いてるの? ごめん、余計なこと言った? あ、それともマッサージ痛かった? アイス食べる? 食べたらきっと元気になるから。それともなんか、別のものがいい?」
 背中のうえで右往左往する恋人を感じながら、そのぬくもりとその感触に、私はまた泣いた。
 夏がくる。今年もまた、夏がくる。
 あの子の夏も、みーちゃんの夏も、私の夏も。
 それぞれの場所で、それぞれの輪郭を描きながら。



 ―― 了 ――