「あ、そこ。その肩甲骨のところ、もっと強く押して」
「ここ?」
 恋人の親指が肩甲骨をぐっと押し上げ、うっとりとため息がこぼれた。仕事は楽ではないし、生活にたっぷりの余裕があるというわけでもない。それでも帰る場所がある。名前を呼び合う人がいる。私の輪郭は日ごとに色濃く、形づくられている。
「アイジさあ、インタビュー動画のコメント欄なんかは見てないって前に言ってたよね?」
「うん。そういうの苦手で」
 私が保護された当時。世間ではなかなか注目を浴びていたようで、ネット上ではレズのロリコン誘拐事件だとか面白おかしく書かれていた。もちろん私はそんなこと一言だって言っていないし、みーちゃんが私にそういうことをしたことは一切ない。それでも世間はそうレッテルを貼った。自分たちが無責任に盛り上がるために。
「さっきアイジがシャワー浴びてるときさ、ちらっとコメント見たんだけど、みーちゃん、田舎に住んでるお姉さんと暮らしてるみたいだよ。まあ、ネットの情報だから事実かわからないけど。アイジ、気にしてただろ」
「……そっか」