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 10円だった。それがみーちゃんとのはじまりだった。

 ――いくら足りないんですか? ああ、10円ですか。じゃあ、これで。

 スーパーのレジの店員から「あと10円足りないです」と告げられ、ボンッと熱くなった頭でお財布やポケットをぐちゃぐちゃ漁っていたとき、後ろに並んでいたみーちゃんが10円玉を差し出した。

 ――ごめんなさいごめんなさい! 家に帰ってお金とってくるので、ここで待っててくれませんか?

 スーパーを出て、すぐに頭を下げた。10円くらい家のなかをひっくり返せばあるような気がしたけど、内心では「もしなかったらどうしよう」とびくびくしていた。
 みーちゃんはくすっと笑って
「私もツナマヨおにぎりって大好き。おいしいよね」
 と答えになっていない返事をした。色彩を失くした冬のなか、みーちゃんだけがきらきらと鮮やかな輪郭を描いて、私をあたためた。
 ぽおっと見惚れていると、みーちゃんは「じゃあね」と手を振ってかろやかに去ってしまった。その日のツナマヨおにぎりはこれまで食べたツナマヨおにぎりのなかで一番おいしかった。