* * *

「――っていうことがあったんだよね」
 昼間に起きた火災ベルの話をして、ちゅるちゅると素麵をすすった。麵つゆがぽつぽつTシャツに跳ねる。白いTシャツを着たのは間違いだったかもしれない。
「みーちゃん、どうしたの? あ、素麺ちょっと茹ですぎちゃった?」
 さっきまで素麺や天ぷらをつついていたみーちゃんのピンクの箸が、ぴたりと止まっている。どんどん表情をなくしていく顔に、不安を抱く。
「……いまの話って、つまり、あーちゃんが外に出たってこと?」
 みーちゃんは機械みたいに口だけを動かして言った。
「あ、うん……。だって、ほんとうの火事だと思ったから……。あの、えっと」
 考えなしにしゃべってしまった。だけど火災ベルの点検なんて知らなかったし、もしこれがほんとうの火事だったら? ざわざわしはじめる心臓をぎゅっと抑えて、みーちゃんにかけるべき言葉を、とるべき態度を探る。
「外に出て、誰かと話したりした?」
「ううん。誰とも話してないよ」
 首を左右に軽く振った。大袈裟に否定しても怪しいし、素っ気なく答えても嘘っぽい。加減を調節する。