汗がすとんと冷えて、身体からひゅるひゅる力が抜けた。さっきまで小刻みに震えていた足に鋭い痛みがはしる。足の裏を見ると、なにかの尖った破片が皮膚にめり込んでいた。裸足のまま外に飛び出していたなんて、どれだけ動転していたんだろう。
 顔を上げれば蝉の鳴き声がいっせいに降り注いできた。全身がびりびり痺れて、夏の真んなかに立たされる。こんなふうに季節を感じるのはひさしぶりで、網膜を焦がす勢いの日差しも、肌にまとわりつくぬっとりした風も、すべてを全身で味わって、すべてを愛おしいと思った。葉の匂いが青々と濃い。
「あら。あなたも火事だと思ったの?」
 とつぜん女の人に話しかけられ、ひやりとした。うまくやらなきゃ。おどおどしていたら変な子だと思われる。うまく「ふつう」をやらなきゃ。両手をぐっと握りしめる。
「はい。そうなんです」
「お母さんから点検のこと聞いてなかったの?」
「聞いて、ないです……」
「あらあら、やあねえ。困ったお母さんたちねえ。あらっ! あなた裸足じゃないの!」
 女の人はころころ笑い、おばあさんはまだ顔をしかめていた。
 慣れない会話に頬が引きつる。学校がはじまるまでに人と話すことに慣れなきゃ、と痛感した。
 夏が終われば、新しい生活がはじまる。そう、真新しい生活が。