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「え、つまり通報してほしいってこと?」
 目を丸くしたみーちゃんに、ちいさく頷く。みーちゃんになにかお願いごとをするのは、これがはじめてだった。緊張した身体が汗ばむ。
「たしかに隣の人、前にも増してうるさいけど……」
 さっきまで茄子のグラタンを「熱い熱い」とうれしそうに頬張っていたみーちゃんの顔が、急にこわばった。銀色のフォークの先が、皿に焦げついたチーズをがしがし削っていく。
 こんな反応が返ってくると思っていなかった。「わかった。たしかにうるさいよね」と言ってくれると思っていた。
 言わない方がよかったのかもしれない。
 でも今日の昼間、隣の人がこわい音を出していたとき、猫たちはひどく脅えてちいさくちいさく縮こまっていた。みーちゃんだって、きっとあの猫たちを見たら通報したくなるはずだ。だって、みーちゃんはやさしいから。