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 それから毎日、猫たちに会いにベランダに出た。隣の人が猫たちをベランダに出すのはこわい音を出しているときだったり、出していないときだったりで、とくに「いつ」というわけではないようだった。気まぐれに扱われているのだろう。もしかしたら、やさしく撫でてもらえるときもあるのかもしれない。
 猫たちとの密会は、隣の人がいつベランダにやって来るのかわからない恐怖と隣合わせだった。耳を澄まして、隣の人の気配を常に探った。猫たちとの距離も手探りだった。
 はじめてみーちゃんと話したときの自分を思い出しながら、少しずつ、ゆっくりと。焦らずに近づく。急に知らない人に近づかれたら、猫たちだってきっとこわいから。息を殺して、気配を薄くして、ぺらぺらの薄紙になったつもりでそこにただ存在する。
 そうすることは、うまいはず。
 そう。きっと、誰よりも。