むくりと起き上がって、リビングに向かった。ちくりと痛む胸を押さえながらベランダの窓を少しあけると、ちいさな鳴き声が聞こえた。
 いる。猫たちはベランダにいる。
 ざらつくサンダルに足をひっかけて、仕切り板の穴から隣のベランダを覗くと、やっぱり猫たちがいた。
 もしかしたらこの子たちは、飲み物も食べ物もろくに与えられていないのかもしれない。そんなことは考えたくなかったけど、そう考えない方が無理なくらい弱って見えた。
 身体が動く。余計なことはしない方がいいとわかっているのに、足が、手が、心が、ぜんぶがどうしようもなく動いてしまう。
「ほら、飲んで」
 そう囁いて、仕切り板と床のあいだの隙間から、水をいれたお皿を差し出した。
 飲んでくれるかわからないし、隣の人に見つかったらきっと怒られる。怒られたら、ベランダに出たことがみーちゃんにばれてしまうかもしれない。
 お願いだから早く飲んで。太陽にじりじり照りつけられながら、縋るように祈った。祈りすぎて、願っているのか苛立っているのか、はたまた怒っているのか、よくわからなくなった。