今夜はブルーな気持ちをひっくり返すような夕飯をつくろう。なにがいいだろう。みーちゃんはチーズが好きだからグラタン? それともがんばって玉子をうすーく焼いて、オムライス? うきうきしながら冷蔵庫をひらくと、ドン! と身体を大きく揺さぶられた。
 ドンドンドン! 叫ぶような音が続く。隣の人だ。
 さっきまでの気持ちが、すうっと引いていく。すぐさまキッチンを出て、ベッドに身体を投げた。マットレスが跳ねる。耳を塞ぐ。目をつむる。
 なにか楽しいことを考えようとしても、浮かんでくるのは猫たちの姿。いまにも壊れてしまいそうな鳴き声が、耳によみがえる。
 あの子たちは部屋のなかか、それともベランダか。チクタクチクタク。壁時計の秒針が気持ちを逸らせる。
 みーちゃんとの約束は、ぜったいに守らなきゃいけない。
 だけどなにも言わなければ、ばれない。ばれないなら、約束を破ったことにはならない。
 それならきっと。きっと、問題はない――。