「倉原!」
「!」

かけられた声にハッと我に返る。
灰島くんがこちらに駆け寄ってきていた。
平太くんが泣いている妹の側に来て、なかないでと手を繋ぐ。
それで妹も泣くのをやめて、涙に濡れた顔をこすった。

「灰島くん…」

「どうかしたか」

「…ううん、大丈夫。ちょっと…」

「……。平太、今日は雪ちゃんたちと一緒に帰るか」

「え」

灰島くんの突然の提案に、平太くんが嬉しそうにうなずく。

「うん、いいよ!ゆきちゃん、かえろう」
「…うん」

平太くんに手を引かれ、妹はゆっくりとうなずき歩き出した。
それで周りの視線も元に戻っていく。

「は、灰島くん…ごめん」

「気にすんな。ああいうの、うちもよくあるから。大変だよな、勘弁してくれって感じ」

灰島くんが少しおどけたように言って笑った。
それで私もつられて笑う。
その拍子に涙がこぼれそうになったけど、灰島くんは見ないふりをしてくれた。