「――さっそくでいいかしら。あなたは『妹』として、一人付き合ってもらう」

 シオリは机のノートパソコンを操作して、それから、少女に数枚の書類を渡した。

「これ、注意事項だから目を通しておいて。してはいけないことの一覧よ。自分からもしてはいけないし、相手にいくらお願いされても……お金を渡されても絶対にしてはいけない。いい?」
「……はい」

 こくんと頷く少女に、シオリはとりあえず満足して話を続けた。

「今からお相手してもらうお客様は常連の方でね。若いけど気が利いて優しいし、こっちの仕事のことも理解してくれている。『今日、誰かと時間が合えば』って連絡貰ってて良かったわ。今、こちらからメールしたから」
「…………」

 少女は、またこくりと頷く。その仕草は、本当に少女にしか見えない。
 迷いそうになる心を胸の中で頭を振って払いながら、シオリは少女を安心させるように微笑んだ。

「初めての子って伝えてあるから、あとはお客様が色々教えてくれるはずよ。とはいっても、私たちはお客様を癒すほう。お仕事なんだから、きちんと『妹』をしてお客様を満足させて」
「……はい」

 三度頷く少女に、シオリは少しだけ視線を鋭くすると、こう付け加えた。

「さっきも話したけど、まだ私はあなたを正式に雇ったわけじゃない。今回のこれで雇うかどうかを考えさせてもらう。いいわね」
「……はい」

 頷く……ここまで同じだと、逆に不安にもなってきた。

「質問は?」
「……特には……」
「そ」

 ……本来なら、聞かなければいけないことは山ほどあるはずだ。それを聞かないことが、この少女の仕事に対する知識の無さと、お金目的ではないことを明確に伝えていた。