『理想の妹が、お兄ちゃん(あなた)を待っています』

 ――なんて馬鹿なキャッチコピーだと思う。怪しいことこの上ない。アダルト関係のものと誰もが思うだろうし、事実、自分でもそうとしか見えなかった。
 見るたびにもっと上手い言葉はなかったのかと――嫌悪感とともに――自問自答するのだが、どう考えたところで単純で分かりやすいほうが印象に残ることに気付き、結局いつもそのままになっていた。

(――それに)

 実際、どう言い繕おうとも怪しいことには変わりはないのだ。だったら、まだ分かりやすいほうがいい……と自分を無理やりに納得させる。

『レンタル妹』

 キャッチコピーの下に少し大きく書かれたその文字。さらに、その下に書かれたサイトのアドレスと、会社の住所。そして、裏に書かれている従業員の名前――源氏名と電話番号とメールアドレス。「また会いにきてねっ」とハートマークつきで書かれたメッセージ。
 お客様用に従業員に渡しているその名刺を持って現れた少女を見つめて、責任者である梨(なし)シオリは胸の内でそっと溜息を――嫌悪感とともに――吐き出した。

「――ここで、働かせてください」

 少女がシオリにそういったのが三十分前。なにが少女にあったのかなんて聞きたくもない。どうせろくでもないことだろう。長い時間泣いていたことが分かるくらいに真っ赤になった目を見ればそんなことはすぐに分かる。
 泣いて泣いて泣いて……それで選んだ場所が『レンタル妹』なんて、ろくでもない理由に決まっている。
 親と喧嘩して家出か、彼氏と喧嘩か。いじめを受けている、勉強が上手くいっていない等々。人生が上手くいっていないことに対しての――というより、人生が上手くいっている人なんてこの世にいないだろうが――自暴自棄か、または、誰かへのあてつけか。それとも、その両方か。

(…………)

 シオリは胸の内でもう一度溜息をつく。本当にろくでもない――こういう子がシオリは一番嫌いだった。

「悪いけど、うちは未成年の子を雇ってないの」
「……未成年じゃないです」
「じゃあ、いくつ?」
「二十歳です」

 嘘だとシオリはすぐに気付いた。二十歳を過ぎていても幼く見える子は確かにいる。だけれど、目の前の少女は明らかに幼かった。小学生にはさすがに見えないが、中学生には見える。

(まさかほんとうに中学生とか……)

 そんなことを思って、シオリは心の中で首を振った。その想像は、あまりにぞっとしない。

「……はぁ」

 三度目の溜息。今度は、口に出てしまっていた。