泣きながら歩いている女の人を見たことがある。その時は、「どうしたんだろう」とか「かわいそう」とか……どこかで「みっともないな」とも思っていて。
 でもきっと、今の自分もそう見られているに違いない。でも、訝しげに見てくる視線を『やっと気付く』ようになっても、涙を止めることも、涙を拭うことも、死人のように歩くことも止めることはしなかった。

 どうしたらいいんだろう、どうすればいいんだろう、わたしは――

 足がもつれ、倒れそうになる身体に逆らわず、わたしは膝をつきその場に座りこんだ。

 わたしはもう――

 駄目だと、そう思った。帰る場所もない、かといって行く場所もない。このまま立ち上がることもできない。

 ――それは、神様からの贈り物か、それとも、悪魔の悪戯か。

 俯き、涙が落ちるその先にあった一枚の名刺。

「…………」

 わたしはそれを手に取り、そして、立ち上がった。

 ――涙は止まっている。『壊れ』に行くのだとどこかで気付いていても、不思議と嫌に感じない。
 きっと、それで救われると信じているから。