「ねぇ、沙理。あそこにいるのは、矢島さんと木原くんじゃない?」


 私が友達三人と学校帰りにカフェに向かってる途中、隣ののどかがコーヒーチェーン店に指をさしながらそう言った。
 言われた通りビルの窓の向こうを見てみると、窓際の席で矢島さんと木原くんが二人きりで楽しそうにお茶していた。
 その様子に思わず足が止まった。


「嘘……」

「矢島さんって加茂井くんと付き合い始めたばかりなのに、もう浮気してんの? サイテー」

「しかも、相手は学校一イケメンの木原くん! かわいい子って結構ずる賢いよね〜」

「……」


 二人がどうしてお茶するような関係になったのかわからない。
 同じクラスなのは知ってるけど、タイプが全然違うし。
 それに、大地との関係は上手くいってるはずなのに……。
 もしかして、浮気? 
 大地は未だに私を彼女と公言してないし、こそこそ会う関係を続けてるからそう思われてもおかしくない。

 このまま二人の監視を続けたかったけど、友達は私が大地と付き合ってることを知らないからそれは出来ない。


 ――それから、友達に連れて行かれた先は、朝陽と二人でよく来た思い出の場所のアメリカンカフェ”ZIGGY”。
 店に到着するまで行き先が伏せられていたから、まさかここに来るなんて思わなかった。
 朝陽と別れてから初めて来たから少しご無沙汰だった。店内に入ると、壁面は相変わらずチェキの写真で埋め尽くされている。


「空いてる席に座ってもいいのかな? 初めて来るからわかんない」

「ねぇねぇ、ここに座ろうよ。スロット台の隣だからここから写真撮ったら映えない?」

「いいねぇ〜! 写真をいっぱい撮ってあとでインスタに上げよ」

「……」


 私達三人が座った席は、朝陽とよく座ってた店内の一番右奥の席。
 この席は朝陽のお気に入りだった。席からの眺めが一番好きだと言ってたし、すぐ横の壁には4ヶ月記念の時の写真を貼った。それは、たしかここに――。


「なっ、ない!! 嘘……でしょ……」


 貼られている写真を一枚一枚見ても、私と朝陽が映ってる写真が見当たらない。それに驚いて思わず声を上げた。
 この店に来る度に写真をチェックしてたから今でも貼ってあると思ったのに。


「えっ、そんなに焦って何がないの?」

「えっ……、あ……なんでもない」

「変な沙理〜」

「お待たせしました〜。こちらメニューとお冷になります。良かったら写真を1枚お撮りしましょうか? 撮った写真はプレゼントしますので、そこにあるペンでメッセージを書いてもいいし、店内の壁に貼ってもいいですよ」

「え、ホントですか? 宜しくおねがいしま〜す!!」


 昔から変わらない店員はそう言うと、私達三人の写真をチェキで撮った。
 友達二人は撮ってもらった写真の話題で盛り上がってるけど、私の心境はそれどころじゃなくて一人だけ壁方向に目を向けている。
 
 でも、すぐに気づいた。私と朝陽の写真が貼られてない理由が。 
 それは、4ヶ月記念の写真が貼ってあった場所に朝陽と矢島さんの写真が貼ってあって、その下の空白の欄には”卒業記念”と書かれていたから。
 最初にその文字を見た時は、”卒業”って何の卒業かなと思ったけど、1ヶ月と7ヶ月記念の写真も剥がされていると判明した時点でその意味がわかった。


「……ごめん、気分が悪いから帰るわ」

「えっ、沙理。どうしたの?」

「大丈夫? 一人で帰れる?」

「うん。気にしてくれてありがとう。じゃあ、また明日ね。バイバイ」


 私はその写真を見た途端、吐き気がするくらい嫌気に満ちたから店を出た。

 
 ――朝陽のことなんて別にいい。
 もうとっくに別れたし、気持ちなんて残ってないし、私にはいま大地がいるから。
 ただ、ここに来る直前に見た大地と矢島さんが二人でカフェにいたことを思い返したら、体中の血液が燃えさかるくらい熱くなった。

 矢島粋……。
 大地といい、朝陽といい……。どうして私の周りをうろつくのかな。
 私を追いかけているかのように関係を持つ人に接近してくる。