――翌日の昼休み。
私は荒い息を整えてから誰もいない校庭の中央に立ち、昨日雑貨店で購入した赤いメガホンに口を当ててすぅっと大きく息を吸ってから校舎に向けて叫んだ。
「私は2年4組の加茂井朝陽が好きだぁぁあぁあーーー!! 私以上に加茂井朝陽を好きな女なんていないぃぃぃ〜〜〜っ!! 好きだぁぁあーーー!! 好きだぁぁあーーー!! 好きだぁぁあーーー!!」
いま何故こんなことをしているかというと、彼の願いを叶える為だ。
本当は実行するかどうか一晩悩んだ。
でも、私が根性を見せることによって彼の運命が変わるのであれば、答えは一つしかなかった。
一旦叫び終えると、校舎の各教室の窓からポツポツと生徒達が顔を覗かせた。
人からこんなに注目を浴びるのは生まれて初めて。だから、生徒達と目が合った瞬間は全身に冷や汗が湧いた。
恐る恐る自分の教室に目線を向けると、少し慌ててる様子の加茂井くんの姿が映った。そこでちゃんと私の声が聞こえてると思い、もう一度大声で叫んだ。
「私は加茂井朝陽が好きだぁぁあぁあーーー!! 好きだぁぁあーーー!! 好きだぁぁあーーー!! 好きだぁぁあーーー!!」
正直、喉が死んだ。こんなに大きな声を出したのは生まれて初めてだから。
校舎から距離があるせいか雑音は聞こえない。でも、私に指を向けたり笑ってる様子から推測すると、多分校内は雑音まみれになっているだろう。
しかし、こんなに熱く気持ちを伝え続けたのに、よそ見をしているうちに彼は教室から忽然と姿を消した。
あっ、あれ……。昨日、根性がある人がある人がタイプだって言ってたから実行したのに、どこへ行っちゃったんだろう。
私はもぬけの殻のまま立ち尽くしていると、下駄箱方面から加茂井くんが全速力で走ってきた。そこで生徒達の声が「キャー」と言った音色に変わる。
加茂井くんは、息をはぁはぁ切らしながら私の前で足を止めると、勢いよくメガホンを取り上げた。
「お前っ……、何やってんだよ!! 自分のやってることがわかってんのかよ!」
「だって、昨日加茂井くんが”根性がある人がタイプだ”って言ってたから言われたとおりに実行しました」
「バカかっ! そんなの冗談に決まってんだろ」
「えっ、あれは冗談だったんですか? ちゃんとメモをしたのに」
「〜〜〜〜っっ!! その為のメモだったのかよ……。ってか、全校生徒の前で何やってんだよ。お前には羞恥心ってもんがないの?」
「酷い……。私にも羞恥心くらいありますよ……」
「なら、どうして」
「メガホンを使って校庭から愛の告白をしたら運命が変わりそうだって言ってたから……。加茂井くんが辛そうにしてるから、運命を変えてあげたいって思うのはおかしいですか? 私が加茂井くんの為に何かしてあげたいと思っちゃダメですか?」
「矢島……」
「何かをしてあげたくてもどうしたらいいかわからないし、今日まで加茂井くんに何もしてあげれなかった自分がもどかしくて……」
「もしかして、全部俺の為に…………」
私はうつむいたままコクンと頷く。
「”最初”はそう思いました。でも、思いっきり叫んでみたら想像以上に気持ちよくて、あれだけ嫌だと思っていた雑音が耳に入ってきませんでした」
以前は先生の耳に届かないくらい小さな声しか出せなくて、加茂井くんの前では緊張して声が震えてた。
自分に自信がなかったせいか、小さな雑音すら反応してしまうくらい。
でも、いま彼の希望通りに思いっきり叫んでみたら、雑音にふっきれている自分がいた。
だから、後悔してない。
「ばーか。不器用にも程があるよ」
「ごめんなさい……」
「逆にこっちまでいい刺激になったわ。……ほら、行くぞ」
彼はメガホンを私の頭にコツンと当てると、頬を赤く染めながら手を差し出してきた。
だから私は、彼の手を取って校庭を一緒に歩き出した。
生徒達からヒューヒューと冷やかす声に包まれながら、校舎へ向かう私と彼。まるでバージンロードを歩いている新郎新婦のような気分に。
派手に告白をして恥ずかしい想いをしたけど、私の気持ちが少し彼に届いたような気がした。