「沙理!! どうして教えてくれなかったの? 加茂井くんと別れたことを」

「えっ……。市花がどうしてそれを知ってるの?」

「今朝、加茂井くんと矢島さんがいい感じになってたから浮気をしてるんじゃないかと思って問い詰めたら、もう矢島さんと付き合ってると言ってて」

「朝陽が……、矢島さんと付き合ってる……?」


 ――つい先日、私が本棟の四階の踊り場で電話を終えてから教室に戻る途中、朝陽は髪の短い女子とキスをしていた。
 私達はまだ別れたばかりだし朝陽は未練があると思っていたから、あの時は単に嫌がらせをしているかと思っていたけど、もう別の人と付き合ってるなんて……。


「親密な感じだったよ。それよりいつ加茂井くんと別れたの? 沙理ったら全然報告してくれないんだもん」

「うっ……うん。先月ね」

「えぇ〜っ! どうして〜〜? あんなに仲が良かったのに。別れた理由は?」


 私……なんて、言いたくない。ここで本当のことを言ったらイメージが悪くなるよね。
 でも、いま貰った情報を逆手にとってもメリットはない。情報が少なすぎるし、根掘り葉掘り聞かれたら返答に行き詰まるから。
 ここは、無難な返答で締めようかな。


「うっ、うーん……。性格が合わなかったからかな」

「1年も付き合うと色々気になる所がでてくるよね。でも、びっくり。あの加茂井くんが別の人にあっさり乗り換えるなんてさ。しかも、相手はあのヘッドホン矢島だし」

「矢島さんって確か、朝陽と同じクラスの陰キャの子だよね?」

「そうそう! ヘッドホンに黒縁メガネの子! 地味子地味子!」

「…………」


 矢島さんとはクラスが違うからあまりよく知らないけど、物静かな印象の子。
 朝陽は私と付き合った直後に陰キャ女子……か。
 朝陽と1年間付き合っていても矢島さんはマーク外だったな。別れたと同時に付き合い始めたってことは、朝陽を奪うことが目的だったのかな。

 ……まぁ、私には大地がいるから関係ないか。
 学校一のイケメンが言い寄ってくるなんて、こんな幸運なことは早々ないしね。

 朝陽とは別れたから二人がどうなろうと関係ないし、これ以上都合が悪くなったら矢島さんのせいにすればいっか。