その日の夜。明里は少し浮かない顔でバーの仕込みを手伝っていた。
「どうだった? と聞くまででもないかしら」
 李仁は心配した顔で見ている。
「特に嫌なことはなかったけど……ちょっとお互い緊張しすぎて」
「あら、嫌なことなかったならいいじゃない。普通に本屋デート?」
「はい、本屋巡りで終わっちゃって。帰りはカフェのコーヒーをテイクアウトしてさよならしました」
「まぁ初回のデートにしたらいい方じゃない?」
「はい……」
 でも明里は満足ではなかったらしい。

「ただ本屋で本を見るだけ。まぁ湊音さんの好きな本の系統わかったけど」
「あら、下の名前で」
 明里は頷く。互いに下の名前で呼び合うようにしたのである。
「互いに本に没頭しちゃうと会話もなくなりますね……趣味は同じだけどそれでいいのかなって」
 それを聞いて李仁は笑う。
「うぶな二人で可愛いじゃない。他には?」
「それよりも湊音さんもおしゃれになっててびっくりしました」
「あら」
「互いに容姿が変わってて。あの頃と違うねーって。それくらいかな」
 会話は少なかったのがちょっと残念だったが明里は湊音にダイエット頑張ったんだね、と褒められたことが嬉しかった。
 前の姿を覚えててくれていた、ということだろう。

「次はディナー行きましょうって」
「あら、展開早い」
「落ち着いたところでっていうからやっぱり会話少ないかも」
「でも互いに元々会話少ない二人ならちょうどいいじゃない」
「あ、そうかも……」
「ディナー……からの……もしかしたら?」
 明里は頷いた。

「もしかしたら、あり得ますよね?」
 少しドキドキするもののそこまで経験がない彼女は自信がない。
「でもまたそんな関係になって……振られたら嫌だなぁ」
 と吐露した。

「ねぇ明里ちゃん……」
 李仁が明里の目を見た。とてもねっとりした目である。
「まだあと店が開くまで時間があるわ。こっちおいで……」
「えっ、はい」

 李仁に招かれてついていく。厨房から出ると階段がある。明里はずっと気になっていた。
「ここは休憩室でね」
 階段を登るとそこにシャワールームとソファーベッドのある部屋。
「ここは……あっ!」
 明里はそのソファーベットに押し倒された。

「メソメソしすぎなのよ……」
「李仁さんっ!!」
 いつもとは違う声色の李仁。耳元で囁かれる。そして羽交締めにされ明里は身動きできない。

「でも、こういうの好物……」
 息を吹きかけられるように甘く低い声が明里の鼓膜に響く。
「……好物?!」
 じわじわ推しかかる体重と李仁が雄だとわかる感触をおしりで感じ取った時全身が一気に熱くなった。
 そう言えばと以前話している時に同性愛者でバイセクシャルだというのは知っていた。そういう思想の人は身近にはいなかったのだが……バイセクシャルは男性もそして女性である自分も性対象になる……こういうことなのか……と明里は思い出した。
 と同時に自分にも興味を持ってもらえたという高揚感。

「こんなにいい身体……自信持ちなさいよ」
 李仁が明里の身体を触る。
「ああっ……」
 
 明里は李仁に身を任せた。