ステージに上がると、逆光でオーディエンスの顔は見えなかった。その方が良かった。ここに居る人たちは皆、俺達の演奏を聴きに来たわけじゃあないのだから。
 
 ドラマーのスティックがチッチッチとクロスする。
 四人同時に紡ぎ出したメロディはアップテンポで爽快。
 この歌はノッチンが作曲したものを、オーナーが編曲した。
 歌詞を頼まれたが、こんな青春み溢れる曲に合わせる詩は思い浮かばなかった。なので四人で捻り出したフレーズをくっつけて完成させた継ぎ接ぎだらけの、『未来への』と言う歌だ。


『変わらない 毎日を
 変えるのは今日か明日か
 叶えたい 夢希望
 願うばかりでおぼつかず

 ただでさえ往く 未来に願う
 縋りついている 僕を照らす

 転んで怪我した数を数えて
 終わる頃には夜が明ける
 絡んでほどけた価値をなぞって
 終わる頃には夜が明ける
 未来への 未来への 未来への 夜が……』


 視界の端に何かを捉えた。その一瞬の違和感の答えに辿り着いた瞬間、歌声は消え、

「――明けるわけねえだろクソがぁああ!!!」

 怒号を発していた。

 メンバーにじゃあない。

「なんでてめえが居るんだ! クソおやじ!」

 カメラの隣に立っていた父親が驚いた顔でこちらを見ている。その隣にはインタビュアーらしき人間が居た。彼も驚いた顔をしている。

 演奏が止む。

 スピーカーを片足で踏んで前傾姿勢。
 カメラに向かって中指を立てる。

「撮ってんじゃねえ! ぶち殺すぞ!」

 後ろを振り返る。

「お前らの言う事聞いたじゃねえかよ! 有名になりたいだけじゃあねえのかよ! 飽き足りねえのかよ! なんでアイツがいるんだよ! 俺の存在理由を全否定した奴だぞ! 生き方を殺した奴だぞ! そんな奴を目の前にして未来への歌なんて唄えるわけねえだろ! くそがああ!」

 ギターを思い切りステージに叩き付ける。

 ――ギィィイイイン……!

 アンプが不協和音をスピーカーに送る。
 狭いライブハウスには、俺の呼吸の音ばかりが響いている。
 全員引いている。
 顔を引きつらせて驚いているのはメンバーだけじゃあないだろうな。
 自分がJazzmaster(ジャズマスター)をぶっ壊してしまった事実を遅まきに知る。

 ああ、ギターに罪は無いのにな。

 もう帰ろう。

 俺が一歩を踏み出そうとしたその時だった。