今日は五年前に埋めたタイムカプセルを掘り起こす日だ。
 私は千秋とふーを迎えに行くため、車で向かった。
 初めに千秋を迎えに行った。
 中学生の時にスクールバスを待っていたバス停にいるとのことで向かうと、携帯をいじっている千秋を見つけた。

「おはよー。ごめん、待った?」
「おはよー、なっつ。大丈夫。それよりも、車出してもらっちゃってごめんね」
「ノープロブレム! 乗ってー」
「はーい。お邪魔しまーす」

 千秋を車に乗せて、ふーの実家へ向かう。
 車を出すとすぐ千秋が話し掛けてきた。

「昨日は楽しかったねー。先生達にも会えて良かったし」
「そうだねー。川村先生が茶髪から黒に髪を染めていたのは衝撃的だったけどね」
「ほんとそれー。思わず笑ってしまったわ」
「ふーは大丈夫かな?」
「大丈夫なんじゃない? 今日のタイムカプセル、楽しみにしていたようだし」

 私はふーのことを心配していたけど、千秋は私ほど心配をしていないようだ。
 そうこうしているうちに、ふーの実家に到着した。
 私と千秋は車から降りて、玄関に行きインターホンを押した。

「おはようございまーす。夏希ですー。ごめんくださーい。」

 まもなくするとドアが開いた。
 出てきたのはふーのお母さんだった。

「あら~、なっちゃん、千秋ちゃん、おはよー。ごめんねー。もうちょっとで支度終わると思うから待っててちょうだい」
「分かりました。大丈夫ですよー。ゆっくりで良いと本人にお伝え下さい」
「ほんとにごめんねー。ふー、なっちゃんと千秋ちゃん来たよー!」

 少しすると、ふーが家から出てきた。

「おっはよぉ~。ごめんね~、おそくなってぇ~」

 なんかふーの顔色がおかしい……。
そう思っていると千秋がふーに言い掛けた。

「ふー、あんたもしかして二日酔いでしょ?」
「う、う~ん……。そうでもないよぉ~。お酒飲んだ次の日はだいたいこんなもんだよぉ~。いつものことだよぉ~」
「図星だな」
「……。ちょっと待ってて! もう一回、トイレに行ってくるっ!」

 そう言ってふーは小走りでトイレに行ってしまった。

「やっぱりねー」
「千秋、よく分かったね」
「ん? お互い二十歳になったあたりに一回一緒に飲んだことがあってね。その時と同じ状況だったから、もしかしてと思って」
「そうなんだ……。ふー、大丈夫かな?」
「あともう一回、キラキラ放てば、スッキリして来ると思うけど……」

 私と千秋が話していると、ふーが再び玄関に出てきた。

「おまたせー! さぁー、行こう!」

 さっきまでの顔色の悪さと違って、清々しい顔で出てきた。

「ほらね」

 千秋が私に言ってきた。
 確かに千秋の言う通りだ。
 お見事。

「んじゃー、車に乗ってー」
「あ、なっつ。このスコップも乗せていい?」

 ふーがスコップを持って言った。
 五年前にタイムカプセルを埋めた時に使ったスコップだ。

「いいよー。じゃー、行こうか」

 そう言って私は中学校に向かって車を走らせた。
 閉校した姫乃森中学校は、小さな町役場の機能を持っているコミュニティーセンターとして使われている。
 今日は平日であるため、職員が何人か仕事をしているのが見える。

「学校の中に入れるかなー?」

 ふーが心配そうに言ってきた。

「職員さんに言えば入れてくれるんじゃないかなー? 聞いてこようか?」

 私は、センターの中に入って職員さんにアポをとった。

「すみませ~ん。教室とか見に行っても良いですか?」

 すると、コミュニティーセンターの所長が出てきた。
 中学校の卒業式の時に取材してきた人だ。

「おー、なっつー。いいよー。なんもねーけどな」
「ありがとうございまーす」

 アポを取り、千秋とふーと三人で教室へ入っていった。

「懐かしい~。ほんと、なんにも無くなっちゃってるね~」

 ふーが教室に入るとそう言った。
 確かに、何もなくて殺風景な感じがする。
 たぶん、使えるものは統合先の中学校に持って行ってしまったのだろう。

「あ、でも。これはまだ残ってるね」

 千秋が黒板の前に行って喋っていた。
 私も黒板の所に行くと、そこには卒業式の時に書いた落書きであった。
 『夏希、千秋、冬美。うちらの絆は永遠!』と書いてあった。

「ほんとだ。誰も消さないで残しておいてくれていたんだね」
「そうだねー」

 するとふーがたまたま残っていたチョークを見つけたらしく、チョークを手にして何かを書き始めた。

「見ててー。こうして……こう書いて……。よし! 完成!」

 五年前に書いた落書きの横に、ふーが新しい落書きを書き込んだ。
 そこには、『五年後二十歳になってまた会えたよ! これからもうちらの絆は永遠だ!!!』と書いてあった。

「んじゃー、その下に……」

 私はふーが書いた文字の下に『夏希』と書いた。

「あ、うちもー」

 続いて千秋も私の名前の横に『千秋』と書いた。

「あたしも書くー!」

 ふーも千秋の名前の横に『冬美』と書いた。

「うおぉー! ギリギリセーフ! 丁度、チョーク使い切ったよー!」
「間一髪だったねー。誰か書き間違えていたらチョーク足りなかったねー」

 千秋が思わずびっくりして言った。

「よし、じゃー桜の木の所に行こうか!」
「うん!」

 私は二人に声を掛けて、タイムカプセルを掘りに向かい、思い出深い教室をあとにした。

「ねー、ここだよね? 埋めたところ」

 私はスコップを担ぎながら千秋に聞いた。

「そうそう。てか、ほんとなっつはスコップ似合うよね」
「まぁー、家でも畑仕事手伝ってるし。さ、掘ろうか」

 私はスコップでタイムカプセルを貼り起こした。
 なかなか保存状態が良さそうに見える。

「開けてみよー!」

 ふーがその場でタイムカプセルを開けた。

「手紙、配るよー」

 私はふーから手紙を受け取り、封を開けてみた。
 五年前の私が書いた手紙には、身長が百五十センチになっていると思うと書いているが、残念ながら百四十五センチから全く変わっていない。
 あと、介護福祉士の勉強頑張っているか、とも書いてあった。
 めっちゃ頑張っているし、四月からの就職先も決まっている。
 もちろん、地元の高齢者施設だ。
 私の将来の夢も専門学校卒業したら実現できるのだ。

 千秋の手紙には、漫画家になれたかと書いていたようだ。
 その通り、専門学校に通って漫画家になるために勉強を頑張っているはずだが……。

「あ、うち。担当さん付くんだー。専門学校卒業したら漫画家デビューできるんだよー」
「そうなの!? 良かったじゃん! 夢叶ったね!」

 私は思わず叫んでしまった。

「コミック発売したら絶対に買うね!」
「まだ気が早いよー」

 ふーはもう、千秋の漫画を買う気満々だ。
 ふーの手紙はというと、かの有名な猫型ロボットを開発できるために頑張っているかと書いていたらしい。

「まだまだ時間はかかるけど、システムはなんとなーく考えているよ! 高専卒業したら、大学院に進学するんだー!」

 こいつ、本気で目指しているようだ。
 頭良いやつは凄いなぁー。
 そして、入学式や卒業式などの写真も出てきた。

「ねぇ……」
「どうしたの? ふー」

 ふーの呼びかけに私は聞いた。

「これからもまた、ちょこちょこ会おうね!」
「そうだね。なんだかんだ言って、二ヶ月に一回みたいな頻度で会いそうだよね」
「なっつもそう思う? 実はうちも同じこと思ってた」
「大人になってもどんなにオバちゃんやおばあちゃんになっても友達でいよう! てか、あたしらはだたの友達じゃないよ!」
「じゃーなんだよ」

 私はふーに聞いた。

「私にとってなっつと千秋は、友達以上恋人未満!」
「はい?」
「どういうこと?」

 頭が良過ぎて難しいことを言ってくる……。
 私と千秋は、思わず聞き返してしまった。

「超がつく大親友ってこと! そんじょそこらの親友なんかメじゃないぜ!ってくらいのだよ! 幼馴染なんて言葉じゃ片付けられないくらいに、あたし達の絆は深いのだッ! それぞれ違う道を進んでいるけれど、あたしらの絆は永遠だよ!」

 私と千秋は顔を見合わせて大声を出して笑った。

「なに、笑ってるのさー!」
「ごめんごめん!」
「千秋! 笑い過ぎてて本気で謝ってるのか分かんないよー!」
「ねー、ふー」
「なっつまでバカにしてんの!?」
「違うよ。ただ、当たり前のことを演説みたいに熱弁していたからさ。ごめんね、笑っちゃって。私達三人はずっと超大親友だよ!」
「うん! あ、お母さんがお昼食べてってだってさ。家に寄っててよー」
「ありがとう! ふーのお母さんが作るご飯美味しいんだよね~」

 千秋が嬉しそうに言う。

「あ、なっつー、帰りも車に乗せてってー」
「お前、家すぐ近くじゃん。帰りくらい中学生の時みたいに歩いて帰ったら?」
「えぇー! いいじゃん! せっかくだしー。のーせーてー!」
「なっつ良いじゃん。乗せてあげなよー」
「はいはい、分かりましたよー。二人とも車に乗ってー。荷物忘れないようにね。あと、ふー。車の中で吐かないでよね。この車、新車で買ってから二年しか経ってないんだから」
「もう、吐かないし、二日酔い治ったから大丈夫だよぉ~!」

 私達は姫乃森中学校をあとにし、ふーの家に向かって車を走らせた。
 大人になった私達をあの桜の木が、姫乃森中学校が暖かく見送り、夏希、千秋、冬美の三人の永遠の絆を見守っていたのであった。

     
                                                    おしまい