八月に入り、まだ暑い日が続く。
お盆に入る前には、毎年親子レクの行事がある。
今年は閉校の年ということもあり、思い出づくりとして学校でキャンプをすることになった。
親世代もほとんどの母校が姫乃森中学校だから、思い出に浸れることであろう。
集合は夕方の四時、メインとなるのは夜の時間だ。
集合して早速、テントを張る作業だ。
校庭に割り当てられた場所に、親子で協力してテントを張った。
その後は、バーベキューの準備だ。
ほとんど、親達が準備をしてくれた。
私たちは、お皿の準備や、テーブル、椅子を並べるくらいであった。
親たちの手早い準備のお陰で、十八時前にはバーベキューを始めることが出来た。
お腹いっぱい食べた後は片付けをし、その後が本番であった。
「さぁー、片付けも終わったし、夏の定番やりますかー!」
明日香のお父さんが、みんなに呼びかけた。
娘のほうは、またかというような顔をしている。
「みんなー、集まってー」
中学校の中庭に椅子を並べて座った。
「これから肝試しをしまーす!」
張り切っている……。
それもそう。
明日香のお父さんは、ヨットハーバーの職員を長年やってきた人である。
古い建物なので、心霊現象がやたらと多いらしい。
その恐怖体験は、昔から何度も聞いてきた。
「えぇー!」
そういったのは、きらりとふーであった。
靖朗と淳は楽しそうにしていた。
明日香は何度も聞かされているせいか、他人事のような顔をしている。
私は霊感があるから、毎日が肝試しみたいなものだ。
そのせいか、人なのか霊なのか分からない時がある。
ちなみに千秋も少し霊感がある。
小さい頃から私と一緒にいるせいか、霊感が移ってしまったのかもしれない。
私が人なのか霊なのか分からない時は、いつも教えてくれる。
「まず、準備運動でオレの心霊体験話から……」
そういって、懐中電灯を消し、ろうそくに火を灯して地面に置いた。
一本のろうそくだけの灯りは、なかなか雰囲気が怖くなる。
「俺がヨットハーバーで勤務していた時の話をしよう」
そう言って、明日香のお父さんが語り始めた。
「一人で夜勤をやっていたんだけどね。見回りをしていたら、誰もいじっていない水道から、水の雫が落ちる音が聞こえたんだよ。しばらく使っていないのになんでかな? 水道壊れたのかな? って思って蛇口を締めて水を止めたんだ。その水道の前に鏡があるんだけど、水道止めた後にふとその鏡を見たら、髪の長い女の人が! 俺を見ていたんだよ!」
「ギャー!」
「もう、いいよー!」
たまらず、きらりとふーが叫んだ。
私と千秋がなだめていると、明日香のお父さんが私達の方を指差して、
「そこに人がッ!」
と、言ってまた驚かせてきた。
なだめているのに、更に恐怖を与えるの、やめてくれませんか?
明日香のお父さん……。
私と千秋は心の中でツッコんだ。
「ごめんごめん」
明日香のお父さんは怯える二人に謝りながら、続きを語り始めた。
「オレもびっくりして逃げてさー。事務所に戻って気持ちを落ち着かせるためにテレビをつけたのね。そしたら……」
妙に溜めてきている。
そう思った瞬間。
「つけた番組で心霊写真コーナーやってたんだよーッ!!!」
「ギャーーー!!!」
きらりとふーに加えて、靖郎と淳、明日香も騒ぎ始めた。
私と千秋は冷静だった。
というか呆れていた。
なんだ、このオチは……。
「……という笑い話でしたー。ウォーミングアップできたかなー?」
ウォーミングアップというか、みんな血圧と脈の変動がおかしくなっただけですけど。
私と千秋はそう思った。
「では、くじ引いてー」
明日香のお父さんの手には割り箸七本握っていた。
肝試しを周るためのチーム分けをするようだ。
チームは、靖郎と淳の男子チーム、きらりと明日香の女子チーム、そして私と千秋とふーの三年生チームに見事に分かれた。
初めに靖朗と淳、十分後にきらりと明日香、また十分後に私達のチームが出発した。
中庭から図書室が見えるが、そこではお母さん達が楽しそうにお茶をしていた。
ということは、脅かし役は川村先生と内藤先生、お父さん達だとその時気づいた。
次々と悲鳴が聞こえてくる。
それを聞いたふーが怯えていた。
「大丈夫だよ、ふー」
千秋はそう言って宥める。
「あんた達は見えるでしょ!? 余計なこと言わないでよね!」
今にもふーは泣きそうな顔をしていた。
「それはなっつに言ってくれ」
「え? なんでよ。しょうがないでしょ? 見分けつかないんだもん」
そう言っていると、私達のチームの出発の時間になった。
コースは、中庭からスタートし校門を出てすぐ左に行く道がある。
道なりに行くと、お墓があり、近くを通ると、中学校の校舎に出る草むらの坂がある。
その坂を登って中学校の中庭に戻ればゴールとなる。
「んじゃー、ちゃっちゃと行きますかー」
私が先頭で歩いていく。
ふーは千秋にガッチリとくっついて歩いていた。
校門を出て左に曲がると、人の気配がした。
というか、草を踏む音が聞こえた。
木に隠れている人がいる。
私が木に懐中電灯を向けると、そこには川村先生がいた。
「川村先生、みーっけ」
「なんで分かったんだよ!」
「さっき動きましたよね? バレバレですよ」
「もう少しさー、肝試しって感じで来てよー。かくれんぼじゃないんだから」
「す、すみません」
千秋とふーは、私と川村先生のやり取りを聞いて笑っていた。
「んじゃー、学校に戻ってるねー」
「お疲れ様でしたー」
川村先生と別れて、道なりに進んでいく。
お墓の前辺りまで行くと、ふーが明るい顔で言う。
「やっとゴールが見えてきた! 早く行こう!」
そう言って、私と千秋を焦らせる。
「そうだねー」
私がそう言って答えた途端。
「わぁー!!!」
突然、男の人の声が聞こえた。
聞こえたと思ったら、お墓がある方向から男の人が二人走ってきた。
それにはさすがに私達もビビった。
「なに!?」
思わず叫ぶと、その男の人達が、明日香と靖朗のお父さんであることに気づいた。
「どうしたんですか?」
ふーが怯えながら聞いた。
「ヒトダマが見えてさー!」
お墓の辺りに見えたということで、その方向を見るも何も見えない。
「何もないじゃないですかー。本当に見えたんですか?」
千秋が聞くと、明日香のお父さんが、
「本当だって! オレ達、先に戻ってるね!」
と話し、私達三人を置いてお父さん達は戻って行った。
「なんか三年生組だけ、夜の散歩になったな」
私が呆れて話すとふーが、
「別にそれでいいじゃん! これ以上求めてないもん!」
と言い張った。
その時、お墓の方から白い着物を着たお婆さんが歩いてきた。
「あ、こんばんわー。今日も暑いですねー」
私がそう言うと、ふーが
「だから! そういうのいいから早く戻ろうよ!」
と言ってきた。
千秋がまたかというような顔で、いつものように教えてくれた。
「なっつー。その人、人じゃないよー」
「あれ? また間違ったわ。えへへ」
私は笑いながらいうと、老婆が話しかけてきた。
しかし、ふーだけが見えなければ、全く聞こえていなかった。
「おめさん達が、この中学校の最後の卒業生だね」
「はい、そうです」
私は淡々と老婆と会話をした。
「私もここの中学校の卒業生だよ。寂しいもんだねぇ、学校がなくなるってのは。おめさん達。胸を張って卒業しなよ。姫乃森中学校を卒業できることを誇りに思いなさい。残りの学校生活楽しむんだよ」
そう老婆が言うと、すーっと消えてしまった。
ふーが恐る恐る私に話しかけてきた。
「誰? 何言われたの?」
「知らないばあちゃんが、胸を張って卒業しろ、この中学校を卒業できることに誇りを持てってさー。なんか、OGだったみたい」
「へー……。わざわざそれを言いに来たの? ふしぎー」
「ばあちゃんも帰ったし、うちらも戻ろうか」
千秋がそう言い、私達は学校へと歩き始めた。
皆の所に戻ると、二年生が「おそーい」と口を揃えて言ってきた。
もう既に、花火の準備が出来ていた。
花火を見たふーが、一気にテンション上がり走り出した。
「花火!? やったー!」
打ち上げ花火やと持ち花火。
一気に周囲が明るくなった。
花火の後はテントで寝るだけだ。
田舎の夜空に魅了され、まだ寝くなかった私は星を眺めることにした。
一人で見ていると、千秋とふーがやってきた。
「二年生のみんなは疲れたみたいで寝ちゃったよ。なにしてんの?」
千秋が話しかけてきた。
「今夜は、星が凄い見えるなーって思って」
「わあー! ほんとだー!」
ふーが夜空を見上げて言った。
「あれがはくちょう座とわし座だから……夏の大三角形だね!」
ふーが興奮して言う。
「はぁ、夏休みも終わるなー」
千秋が溜め息とつきながら言う。
「そうだねー。進路、ちゃんと決めないとなー」
「ねー。進む道が別々だとしても、あたし達ずっと友達だよ!」
ふーが私と千秋の方を向いて言った。
「当たり前じゃん!」
夏の終わり。
そろそろ、進路を決定する時期だ。
お盆に入る前には、毎年親子レクの行事がある。
今年は閉校の年ということもあり、思い出づくりとして学校でキャンプをすることになった。
親世代もほとんどの母校が姫乃森中学校だから、思い出に浸れることであろう。
集合は夕方の四時、メインとなるのは夜の時間だ。
集合して早速、テントを張る作業だ。
校庭に割り当てられた場所に、親子で協力してテントを張った。
その後は、バーベキューの準備だ。
ほとんど、親達が準備をしてくれた。
私たちは、お皿の準備や、テーブル、椅子を並べるくらいであった。
親たちの手早い準備のお陰で、十八時前にはバーベキューを始めることが出来た。
お腹いっぱい食べた後は片付けをし、その後が本番であった。
「さぁー、片付けも終わったし、夏の定番やりますかー!」
明日香のお父さんが、みんなに呼びかけた。
娘のほうは、またかというような顔をしている。
「みんなー、集まってー」
中学校の中庭に椅子を並べて座った。
「これから肝試しをしまーす!」
張り切っている……。
それもそう。
明日香のお父さんは、ヨットハーバーの職員を長年やってきた人である。
古い建物なので、心霊現象がやたらと多いらしい。
その恐怖体験は、昔から何度も聞いてきた。
「えぇー!」
そういったのは、きらりとふーであった。
靖朗と淳は楽しそうにしていた。
明日香は何度も聞かされているせいか、他人事のような顔をしている。
私は霊感があるから、毎日が肝試しみたいなものだ。
そのせいか、人なのか霊なのか分からない時がある。
ちなみに千秋も少し霊感がある。
小さい頃から私と一緒にいるせいか、霊感が移ってしまったのかもしれない。
私が人なのか霊なのか分からない時は、いつも教えてくれる。
「まず、準備運動でオレの心霊体験話から……」
そういって、懐中電灯を消し、ろうそくに火を灯して地面に置いた。
一本のろうそくだけの灯りは、なかなか雰囲気が怖くなる。
「俺がヨットハーバーで勤務していた時の話をしよう」
そう言って、明日香のお父さんが語り始めた。
「一人で夜勤をやっていたんだけどね。見回りをしていたら、誰もいじっていない水道から、水の雫が落ちる音が聞こえたんだよ。しばらく使っていないのになんでかな? 水道壊れたのかな? って思って蛇口を締めて水を止めたんだ。その水道の前に鏡があるんだけど、水道止めた後にふとその鏡を見たら、髪の長い女の人が! 俺を見ていたんだよ!」
「ギャー!」
「もう、いいよー!」
たまらず、きらりとふーが叫んだ。
私と千秋がなだめていると、明日香のお父さんが私達の方を指差して、
「そこに人がッ!」
と、言ってまた驚かせてきた。
なだめているのに、更に恐怖を与えるの、やめてくれませんか?
明日香のお父さん……。
私と千秋は心の中でツッコんだ。
「ごめんごめん」
明日香のお父さんは怯える二人に謝りながら、続きを語り始めた。
「オレもびっくりして逃げてさー。事務所に戻って気持ちを落ち着かせるためにテレビをつけたのね。そしたら……」
妙に溜めてきている。
そう思った瞬間。
「つけた番組で心霊写真コーナーやってたんだよーッ!!!」
「ギャーーー!!!」
きらりとふーに加えて、靖郎と淳、明日香も騒ぎ始めた。
私と千秋は冷静だった。
というか呆れていた。
なんだ、このオチは……。
「……という笑い話でしたー。ウォーミングアップできたかなー?」
ウォーミングアップというか、みんな血圧と脈の変動がおかしくなっただけですけど。
私と千秋はそう思った。
「では、くじ引いてー」
明日香のお父さんの手には割り箸七本握っていた。
肝試しを周るためのチーム分けをするようだ。
チームは、靖郎と淳の男子チーム、きらりと明日香の女子チーム、そして私と千秋とふーの三年生チームに見事に分かれた。
初めに靖朗と淳、十分後にきらりと明日香、また十分後に私達のチームが出発した。
中庭から図書室が見えるが、そこではお母さん達が楽しそうにお茶をしていた。
ということは、脅かし役は川村先生と内藤先生、お父さん達だとその時気づいた。
次々と悲鳴が聞こえてくる。
それを聞いたふーが怯えていた。
「大丈夫だよ、ふー」
千秋はそう言って宥める。
「あんた達は見えるでしょ!? 余計なこと言わないでよね!」
今にもふーは泣きそうな顔をしていた。
「それはなっつに言ってくれ」
「え? なんでよ。しょうがないでしょ? 見分けつかないんだもん」
そう言っていると、私達のチームの出発の時間になった。
コースは、中庭からスタートし校門を出てすぐ左に行く道がある。
道なりに行くと、お墓があり、近くを通ると、中学校の校舎に出る草むらの坂がある。
その坂を登って中学校の中庭に戻ればゴールとなる。
「んじゃー、ちゃっちゃと行きますかー」
私が先頭で歩いていく。
ふーは千秋にガッチリとくっついて歩いていた。
校門を出て左に曲がると、人の気配がした。
というか、草を踏む音が聞こえた。
木に隠れている人がいる。
私が木に懐中電灯を向けると、そこには川村先生がいた。
「川村先生、みーっけ」
「なんで分かったんだよ!」
「さっき動きましたよね? バレバレですよ」
「もう少しさー、肝試しって感じで来てよー。かくれんぼじゃないんだから」
「す、すみません」
千秋とふーは、私と川村先生のやり取りを聞いて笑っていた。
「んじゃー、学校に戻ってるねー」
「お疲れ様でしたー」
川村先生と別れて、道なりに進んでいく。
お墓の前辺りまで行くと、ふーが明るい顔で言う。
「やっとゴールが見えてきた! 早く行こう!」
そう言って、私と千秋を焦らせる。
「そうだねー」
私がそう言って答えた途端。
「わぁー!!!」
突然、男の人の声が聞こえた。
聞こえたと思ったら、お墓がある方向から男の人が二人走ってきた。
それにはさすがに私達もビビった。
「なに!?」
思わず叫ぶと、その男の人達が、明日香と靖朗のお父さんであることに気づいた。
「どうしたんですか?」
ふーが怯えながら聞いた。
「ヒトダマが見えてさー!」
お墓の辺りに見えたということで、その方向を見るも何も見えない。
「何もないじゃないですかー。本当に見えたんですか?」
千秋が聞くと、明日香のお父さんが、
「本当だって! オレ達、先に戻ってるね!」
と話し、私達三人を置いてお父さん達は戻って行った。
「なんか三年生組だけ、夜の散歩になったな」
私が呆れて話すとふーが、
「別にそれでいいじゃん! これ以上求めてないもん!」
と言い張った。
その時、お墓の方から白い着物を着たお婆さんが歩いてきた。
「あ、こんばんわー。今日も暑いですねー」
私がそう言うと、ふーが
「だから! そういうのいいから早く戻ろうよ!」
と言ってきた。
千秋がまたかというような顔で、いつものように教えてくれた。
「なっつー。その人、人じゃないよー」
「あれ? また間違ったわ。えへへ」
私は笑いながらいうと、老婆が話しかけてきた。
しかし、ふーだけが見えなければ、全く聞こえていなかった。
「おめさん達が、この中学校の最後の卒業生だね」
「はい、そうです」
私は淡々と老婆と会話をした。
「私もここの中学校の卒業生だよ。寂しいもんだねぇ、学校がなくなるってのは。おめさん達。胸を張って卒業しなよ。姫乃森中学校を卒業できることを誇りに思いなさい。残りの学校生活楽しむんだよ」
そう老婆が言うと、すーっと消えてしまった。
ふーが恐る恐る私に話しかけてきた。
「誰? 何言われたの?」
「知らないばあちゃんが、胸を張って卒業しろ、この中学校を卒業できることに誇りを持てってさー。なんか、OGだったみたい」
「へー……。わざわざそれを言いに来たの? ふしぎー」
「ばあちゃんも帰ったし、うちらも戻ろうか」
千秋がそう言い、私達は学校へと歩き始めた。
皆の所に戻ると、二年生が「おそーい」と口を揃えて言ってきた。
もう既に、花火の準備が出来ていた。
花火を見たふーが、一気にテンション上がり走り出した。
「花火!? やったー!」
打ち上げ花火やと持ち花火。
一気に周囲が明るくなった。
花火の後はテントで寝るだけだ。
田舎の夜空に魅了され、まだ寝くなかった私は星を眺めることにした。
一人で見ていると、千秋とふーがやってきた。
「二年生のみんなは疲れたみたいで寝ちゃったよ。なにしてんの?」
千秋が話しかけてきた。
「今夜は、星が凄い見えるなーって思って」
「わあー! ほんとだー!」
ふーが夜空を見上げて言った。
「あれがはくちょう座とわし座だから……夏の大三角形だね!」
ふーが興奮して言う。
「はぁ、夏休みも終わるなー」
千秋が溜め息とつきながら言う。
「そうだねー。進路、ちゃんと決めないとなー」
「ねー。進む道が別々だとしても、あたし達ずっと友達だよ!」
ふーが私と千秋の方を向いて言った。
「当たり前じゃん!」
夏の終わり。
そろそろ、進路を決定する時期だ。