1、春に始まり、春で終わる恋だった
✾踏み出せない君との恋
桜が散る公園のベンチに座り、
君と私、ふたりきりでピンクが風に流れているのを
ただ、眺めているのは、
ドキドキするけど楽しい。
だけど、お互いに
「きれいだね」としか言いあえてないから、
私は勇気を出して、
詰まり気味に、君の名前を初めて呼んでみると、
君が微笑んでくれたから、
私の心臓はさらに破裂しそうになった。
✾何度も散っても、君の優しさは散らない
時間が経っても、きっと君のことを忘れないよ。
あの日、一緒に見た桜は何度も咲いては散っているけど、
君の優しい言葉が今でも忘れられないよ。
その言葉のおかげで、
今も君との関係は続いているけど、
君はあの日のこと、覚えているかな。
✾嘘の自分が好きな周りへ
簡単な嘘で周りにあわせて、
作った自分は本質を見失うから、
今、周りに微笑む自分はきっとぎこちない。
小さい嘘が数え切れないほど、
心の底に降り積もって、
もう限界だと思ったから、
そっと、今ある関係から抜けようと思った。
✾もし、君との思い出を消す力があっても
愛を青で塗るように君との恋は一瞬だった。
もし、君との過去が消える装置があっても、
諦めの悪い私は、きっと赤いボタンを押さないと思う。
✾私が片思いしていることを君は知らない
片思いなんて、無意味なのかもしれない。
だけど、君が私にくれた優しい言葉が忘れられず、
もっと君のことが知りたくなったんだ。
だから、君との関係が終わってもいいから、
明日、君に伝えてみる決意をした。
✾季節が巡るたびに大人へ近づく
コーヒーを飲みながら、
窓から差し込む春の黄色い日差しを眺めている。
去年を引きずったまま、
冬は簡単に終わってしまった気がする。
もう、10代も数本指を折れば終わるけど、
まだ、コーヒーをブラックで飲めるようになったことくらいしか、
大人になれていないような気がする。
✾新しいイメージを手に入れたい
まだ空気に馴染めないまま、
春が深まっていく。
人見知りの私でも、
なんとか、心を開く努力をして、
新しいイメージを作る努力をしている。
だけど、このままこのイメージで、
自分を続けられるのか不安だけど、
行き詰まったら、
そのとき、また考えることにした。
✾テイクアウトしたい春
テイクアウトしたフラペチーノを飲みながら、
ふたりで桜のしたのベンチに座って、
暖かいなかにいるのは、
ただ単に幸せすぎるのは君のおかげだよね。
「おいしいね」って君が言ったから、
「おいしいね」って返すことができる今を、
今、膝の上に落ちてきた、
花びらと一緒に保存したくなった。
✾お互いに慣れすぎたのかもしれないね
わがままを言いあえるくらい、
君との仲はもしかしたら、
ありきたりになっていたのかもしれないね。
君との恋は楽しかったけど、
君を傷つけてしまったかもしれないね。
だから、最後くらい素直になるね。
「ごめんね」
✾君に頼まれたから
君に頼まれて、君のバッグと一緒に
放課後の誰もいない教室で君を待っている。
君に頼まれたのは、偶然だったけど、
君とふたりきりで話したかったから嬉しかったよ。
君が戻ってきて、
「一緒に帰ろう」って言われたから、
それが嬉しくて、
心臓が一気に爆発しそうになったけど、
冷静さを装って、静かに頷いた。
✾平日はひとりだけど
レモンキャンディを口に含みながら、
オレンジ色の住宅街をゆっくり歩いている。
クラスガチャを外して、
憂鬱な気持ちは晴れないから、
このまま、去年の春にタイムスリップしたいけど、
そんなことなんてできないから、
とにかく明日の土曜と日曜を仲間と一緒に楽しみたい。
✾当たり前がわからない
当たり前や普通がわからなくて、
いつも上手く立ち振る舞うことができない。
我慢も、とっさのやり取りも、
思わず口にした失言も、
すべてなくなってしまえばいいのに。
いつもそう思うから、
今日くらい、ずる休みをして、
明日からまたへこまず、
頑張れるように今はひとりになることにした。
✾春色ロマンス
桜並木の下で、
白いセーターを着て、
両手を広げて回る君はかわいい。
セミロングでピンクが混じった茶色の髪で弧を描いたあと、
ピンクの花びらが舞うなかで
君が微笑んだから、
僕はそっとシャッターボタンを押し、
君のその姿をiPhoneでデータ化した。
✾夜に鬱が現れ始めたから
いつも、夜更けに決まって、
勝手に出てくる悪い妄想は頭の中で広がり、
つらい黒さでおかしくなりそうだけど、
とりあえず、今は、
帰りにファミマで買った
コーヒーゼリーの苦みと甘さをしっかり味わおう。
✾別に頑張りたくなんてない
いつも頑張りたくなんてないのに、
まわりのことを気にしすぎて、
頑張りすぎる癖を
自分でもどうにかしたいって思っているよ。
だけど、頼まれたり、勝手に期待されたりするのは、
どうやって断ればいいのか、わからないんだ。
だから、今日の夜みたいに
頑張りたくない日は、
エキナカで買った期間限定の
桜色のシュークリームとか買って、
甘さで自分を満たすことにしている。
✾たまに弱い刺激のなかに沈みたい
電球色で落ち着いた色をしている夜のスタバで、
一息つきながら、さっき本屋で買った文庫本を読み始めている。
抹茶ティーラテで甘さを補充して、
たまにひとりになりたい時間を今、充足している。
世界って思ったほど、悪くないんだと思うけど、
人間関係の刺激が強すぎて、
たまに疲れちゃうんだ。
✾このままの君でいて
君の左耳についているイエローゴールドが、
午後の柔らかい日差しで反射している。
君はピアスが似合うくらい、
華奢で、繊細で、優しいから、
このままの君でいてほしいなって、
勝手にいつも思っちゃうんだ。
✾ねぇ、なんでわかるの
今日、そして、今、カフェの中で、
君に話すつもりなんてなかった。
なのに、君は私の異変に気がついたんだね。
聞き上手すぎる君の所為で、
最近の黒いところ言っちゃったじゃん。
だけど、それすら肯定してくれる君は、
優しくて、最高だよ。
ありがとう。
✾春に始まり、春で終わる恋だった
君との恋は桜が散るときに始まり、
桜が咲いてすぐに終わったね。
この一年、すれ違いとか、多かったし、
君のことをしっかり理解できているつもりで、
理解できていなかったし、
お互いに妙にすれ違っていたんだね。
もっと、君との心の距離を近づければ、
簡単に別れることなんてしなかったのかもしれないね。
✾雨の日に桜を君と見る
今日も冷たい雨が降っていて、
せっかく咲いた桜も濡れたコンクリートに沈みそうだね。
「桜、見たいな」って君が言ったから、
雨の中、ビニール傘をさして、
ふたりで川沿いの桜を眺めながら、
ゆっくり歩いている。
「もっと早くいけなくてごめんね」 って君に言うと、
「いいよ、雨の桜って印象に残るから」と返して、
君は微笑んだから、少しだけ罪悪感が弱くなった。
2、恋愛は何色の言葉で表現すればいいの?
✾閃光アクティベート
そろそろ桜が咲くころになり始めても、
未だに眠いのは春の所為かな。
ゆっくり暖かくなった風を受けて、
揺れる木々にまたはが芽吹く季節になったね。
憂鬱を抱えたままのわたしと君たちに伝えたい、
木の葉と移ろう季節が時代を見守っていることを
大切にして生きてほしい。
目覚めの瞬間は今だから、
君の奥に囚われた鎖を開放しよう。
忘れた感触を思い出しながら。
黄金の空に舞う龍を眺めるように
大好きな世界を作り上げよう。
シリウスの果てまで手を伸ばすようにね。
✾すべて忘れてしまおう
手帳に書ききった黒くぎっちり詰めた思いを
ページを切り取って、ハサミで切り刻み、
それらをベランダからそっと春風に乗せたい。
当たり前だった充実感は消えて、
退屈が日々押し寄せてくる。
透明なコップにオレンジジュースを注いで、
溢れてもなお、
白いテーブルをオレンジの海にして、
しばらくの間、指で泳いで、気を紛らわそう。
抑えきれない感情の波は、
やられたことを忠実に再現してくる。
無視されたサイン、
粉々になったハートにクッキー、
すべて忘れて頑張ろう。
✾スプリングファンタジー
ゆっくりとヒレを動かして、
空を泳ぐクジラに君は子供のように
無邪気に手を振っていた。
僕はそれを黙って見守っていようとしたら、
「ノリが悪いね」と言われたから、
仕方なく小さく手を振ってみた。
弱い春風で制服のスカートの裾が揺れている。
もうすぐ、君の制服姿も見納めになるね。
春らしい薄ピンクが青にかかって、
空は最高に綺麗で、
このまま、ぼんやり春の陽気にやられて、
君との時間をゆっくり紡いで
大人になるのを辞めたくなった。
✾十分だよ
泣いてもいいよって、
言われると途端に泣けなくなるのは、
君に気心を許してないからじゃないよ。
雨の中で愛を誓うみたいに、
急に恥ずかしくなってるだけだから、
私のことなんか気にしないで。
大好きなレモンのキャンディを
口の中でコロコロさせても、
つらいことなんて消えないからさ。
だから、今、このまま、
一緒に過ごしてくれるだけで十分だよ。
✾憂鬱を飾りたい
スタバでぱっとしない将来のことを
考えると憂鬱が溜まっていく。
フラペチーノを飲んで、
気分を変えようと思ったけど、
急な無気力と漠然とした不安を
せき止めるにはまだ足りなさそうだ。
心を上手く開けないのは昔からだから、
大好きな歌を口ずさんで、
自分の世界を守ることを優先してきた。
臆病で嫌な気持ちは
ソーダ水で満たした水槽の底に沈めて、
ジェリーフィッシュっと一緒に眺めて、
LDEで淡く照らしてしまいたい。
✾終わったあとになって、傷がジクジクする
シャンディガフを飲みながら、
君が去ったことをずっと考えていた。
電球色の薄暗い店内。
窓ガラス越しには雨が打ちつけていた。
なにか直接的な原因があったわけではない。
ただ、砂時計がしっかりと時間を知らせたように
最初から期限付きの恋だったのかもしれない。
一口、含むと、苦みと甘さが一気に広がった。
雨滴の縦線が街の光をにじませる。
うっすらガラスに反射する
自分のアホ面を人差し指でそっと刺したけど、
今更、君を取り戻す方法は、
もう存在しないことをより自覚するだけだった。
✾千切りたい思いをページに詰めた
大嫌いでぐちゃぐちゃな気持ちを、
手帳にぎっちり書き終わり、
一息ついてコーヒーを手に取った。
灰色の街は傷ついた自分自身みたいだ。
気持ちは晴れない、苦みは身体中に染み渡る。
食べかけのシナモンロールは、
ご褒美のはずだったのに、機嫌はなおらないや。
ひとりきりで気楽に過ごしたいって、
現実逃避に憧れるけど、
現実は許してくれなさそうだ。
少しだけ冷たくなった手に
そっと息を吹きかけ湿られて、
カーテンを開け放つように
次のページを自分で褒めよう。
そんなことを考えていたら、
窓越しの世界は雨が降り始めていた。
✾一歩踏み出したい
海につながる大きな川辺をゆっくりと歩いている。
春の陽気につられて外に出たけど、
こんなところを歩くつもりなんてなかったのに。
風に揺れるワンピースと、
一緒に踊りながら、
また芽吹き始めた世界で感性を磨こう。
ひとりぼっちで過ごすことはもう慣れて、
悲しさすら簡単に乗り越えられるようになった。
だけど、たまに寂しいから、
誰かに話しを聞いてほしくなっちゃうのは本能だね。
理性では強がり、だけど、根は怖がりだから、
新しいことを踏み込むのに戸惑う。
だから、この春はしっかり自分を作りたい。
もっと、世界が違って見えるように踊ろう。
✾青い夜はイリュージョン
センチメンタルを袋詰して、
走り抜けよう青い夜の街を。
未来はきっと明るいだなんて、
誰かが呑気に言っていたのを思い出した。
立ち止まって、深呼吸して、
まだ冷たさが残る春の空気を吸い込み、
現実にトリップして、
叫びたい衝動をそっと抑える。
生きているだけで、
それで十分なんだって、
今更だけど、思い出して、
過去を断ち切る決意を今、そっと心に誓う。
✾それでも一瞬を楽しみたい
雨の中、ライトアップされている
桜は濡れていても綺麗で、
さしているビニール傘の上に落ちた花びらが
ワンポイントになって、
ちょっとだけ奇跡な気持ちになった。
濡れて落ちていくピンクで、
黒くなったアスファルトは染められ、
それを踏むのが少しだけ、嫌だな。
寒いけど、仕事帰りに寄ってよかったなって、
ふと思いながら、
今の面倒なことをすべて捨てたいなって、
すっと、ため息をひとつ吐いた。
✾きっと、ふとした時にまた、君のこと思い出しそう
君との恋愛はあっという間だった。
春になると、制服姿のあのときの君を思い出すよ。
透き通った青みたいな日々は、
時計の針に押されて、消えた。
叶わなかった願いは永遠になったね。
朝のカフェの中から、行き交う人の波を眺める。
もし、あの中に入ったら、
もう一度、君に会えるのかな。
あの日の約束は有効期限があったんだね。
それなら、最初から、
そう言ってくれていたら、
君のことなんて思い出さなくても
済んだのかもしれないのに。
✾ただ、君の隣にいたかった
やっぱりなって、すぐに感じた。
君への付きない思いは水槽の底を泳ぐ
エンゼルフィッシュを
ガラス越しでそっと触ってあげるように
実際には触れられない壁を感じた。
玄関のフローリングにバッグを
そっと置いたあと、
今日、ここにはかえってきたくはなかったなって、
思ったけど、別に、もういいよ。
私のこと、もてあそんだ、だけでしょ。
✾もっと、君を春色にしたい
ピンクの中で両手を広げて、
はしゃぐ君は最高に素敵だね。
回転と一緒に弧を描く茶色のボブの端は
春の白い光をしっかり反射して、
君の無邪気さがより引き立っているよ。
だから、一生忘れないようにiPhoneで撮ったよ。
春色のプリズムを
柔らかいフィルターで補正をかけて、
あとでもっと、かわいくしてあげる。
だから、あとでゆっくり、
スタバで限定フラペチーノを飲んで、
思い出をしっかり刻もう。
✾無敵になりたい
毎日を淡々とこなし、
季節は簡単に巡ってしまい、
一人きり、まるで取り残された気分になる。
咲き始めた桜の所為じゃないのはわかるけど、
勝手に恨んじゃう余裕がないよ。
いつも、都会の中で
不安に押しつぶされそうになりながら、
なんとか、毎日をこなしているよ。
こういうとき、過ごしの時間でも、
スタバに行って落ち着きに浸ればいいことは
わかっているんだけど、疲れてそれもしたくない。
だから、自分を力いっぱい最大出力する。
不安なんて幻想だよって、
無敵で若かった君に言われたのを思い出した。
✾もとに戻す魔法を唱えたい
公園のベンチにそっと缶を置いて、
桜で鮮やかになった世界をぼんやり眺める。
記憶とリンクする春の空気、
君が好きだったフレンチクルーラー、
トレーに落ちる砂糖、
クーラーで満たされた停滞する空気感。
今でも、きれいに再生できるよ。
風で弱く揺れる小枝にそっと囁きたい。
あのときはすべて本気だったんだよと。
いらない言葉ですべてを汚して、
黒い懐かしさをそっと水に馴染ませたい。
そして、すべてを元に戻したあと、
変わった自分で仲良しの魔法をかけて、
君を丁寧に扱いたい。
✾見ている世界はきっと良くなる
指先でそっと曇ったガラスをなぞり、
これから遠くへ行くバスから、
雨で濡れた街のファンタジーを眺める。
嫌な思い出をたくさん作った街は、
これで見納めなんだって思うと、
少しだけ傷が癒えたような気がした。
春は桃色のはずなのに色褪せるくらい
雨は降り続けている。
iPhoneを眺めてもきっと、
いい情報は見つけられない気がするから、
このまま、見慣れた街を
なんとなく目に焼き付けて、
これから始まる遠くの街での暮らしが、
上手く行けばいいなって、
ぼんやりした憂鬱をボトルコーヒーを飲んで、
希望を浄化した。
✾きっと、いつか今日のことを思い出しそう
君といると不思議と時間が過ぎていくのは、
君が素敵な春のマジックにかかっているからだよ。
桜吹雪の中で笑顔でいる君は、
吹雪の中、微笑んでいた君と同じで、
真冬の世界を一気に暖かくしたように
明るい君といると嫌なことも忘れられるよ。
今、尽きない会話が、
もし、尽き始めたときは、
今日のことをしっかりと話題にだすよ。
✾嫌な傷をしっかり癒やしたい
フラスコ水に水色を足すように
一滴ずつ、思い出をそっと混ぜていく。
それを水瓶に移して、
大好きなロックの周波数をあてて、
踊る楽しさに増幅させたい。
アパートの窓越しの世界は、
今日も雨が降っていて、
冷たい春は暖まる気配はない。
フラッシュバックする嫌なことは、
コーヒーをのむことくらいじゃ、
消えなさそうだから、
大好きな曲をiPhoneで流して、
大嫌いな過去をしっかりと忘れる努力をしよう。
✾真夜中と明け方の間。
冷たい風が吹きつける埠頭でひとりきり、
起き出す前の青くて薄暗い街を眺めている。
寒いし、誰もいないから、
白いパーカーのフードを被って、
日が昇っていくのをまっている。
お気に入りの腕時計の秒針がしっかりと、
時間を進めていくのを数秒、見たあと、
もう一度、対岸を眺めなおす。
すっかり、都会の孤独にはなれてしまったけど、
たまに忙しさに疲れてしまい、
そっと逃げ出したくなる。
だけど、今の生活を抜け出すことなんて、
できないから、
夜明けを静かに待つよ。
✾君に触れる
カーブミラーに映る制服姿の僕たちは
奥に映る風に揺れる街路樹と電柱の間で、
湾曲して、突っ立っていた。
風で君のスカートの裾は揺れて、
整ったボブの先もきれいに揺れていた。
「ねえ、キスしよう」
そう言われて、君の積極性を責めるより、
僕の消極的な姿勢に、一瞬、自己嫌悪した。
だけど、すぐに切り替えて、
君の肩に手を回した。
そして、とりあえずそのまま抱きしめて、
路地裏で君の体温を奪うくらい、
しばらくそのままでいたあと、
そっと、君を離した。
「あとでね」とわざと焦らしたけど、
君がつま先立ちをした直後、唇が触れた。
✾君にエールなんてダサいから、そっと、君のこと肯定する
君と抜け出した夜は、
何もかも絶望的に思えて、実は希望的で、
薄暗い公園の角で手を繋いだまま、
無数の瞬く星をしっかりと眺めている。
「世界なんて終わればいいのにね」って
ポツリと君が言ったから、
それも悪くないかもなって思った。
だけど、君と一緒にいられなくなるのは嫌だなって、
ちょっとだけ、ほろ苦くなった。
もし、目の前に星が落ちてきたら、
素直にサヨナラを言ったあとに、
また来世でねって付け加えよう。
だけど、今はこんなに平穏なんだから、
明日から、また君が生きれるように
今は静かに励ますよ。
✾前に進めないや
コンプレックスのすべてを受け入れてくれる
君とはなぜか、上手くいかなかった。
冬は寒いまま過ぎていき、
春が始まっても寒いままで、
たまに怒るロマンスも君以上の人はいなくて、
どうしても君と比べてしまうよ。
もし、パラレルを選べるとしたら、
パステル色の中で冷静にドキドキしたい。
もし、夏までに前を向けなかったら、
すべて君の所為にしてもいいよね?
✾始まってしまった遠距離恋愛
ホームで電車を待ちながら、
昨日、中途半端にしてしまった
君とのメッセージの返信を考えている。
君はきっと、上手くいくと思うよ。
そう思えるくらい、
眩しくてうらやましい内容だから、
もう、別に返さなくてもいいんじゃないかと思ったけど、
離れても君とのつながりを失いたくないから、
しっかり、優しいメッセージを返してあげよう。
✾落ち込む君は美味しい
落ち込んだ君を愛せるのは多分、俺くらいだし、
とりあえず、まだ春は暖かくないから、
君の大好きなココアをいれたよ。
星屑をミキサーで崩して、
それをバニラフレーバーと一緒に
葉巻の中に包んで吸い込んでしまえば、
きっと、少しは気分が上向きになると思うよ。
そう言ったら、
「やっぱり馬鹿だね。こんなときにそう言うこと、言えるんだから」
と言って、硬かった頬を柔らかくしたから、
俺も少しだけ頬の筋肉を和らげ、
自分の分のココアを飲み、
久々のココアって甘いんだなって、
なんとなくどうでもいいことを感じた。
✾恋愛は何色の言葉で表現すればいいの?
君への思いが届かないかなって、
空想に浸りながら、スタバで思案して、
限定のフラペチーノを飲んで、
近いうちに一緒に飲めたらいいのにな――。
ピンで装飾された君の言葉は素敵で、
何度も脳内で再生しても飽きないや。
また偶然を装って、
君と離して距離を縮めよう。
少しずつ、気づいてくれたら、
それで十分だよ。
君のことが好きな気持ちは、
きっと、今は一方的かもしれない。
君を振り向かせるには何色の言葉を操ればいいの?
【初出】
1章
完全書き下ろし
2章
蜃気羊X(@shinkiyoh)
https://twitter.com/shinkiyoh
2023.3.5~4.10
✾踏み出せない君との恋
桜が散る公園のベンチに座り、
君と私、ふたりきりでピンクが風に流れているのを
ただ、眺めているのは、
ドキドキするけど楽しい。
だけど、お互いに
「きれいだね」としか言いあえてないから、
私は勇気を出して、
詰まり気味に、君の名前を初めて呼んでみると、
君が微笑んでくれたから、
私の心臓はさらに破裂しそうになった。
✾何度も散っても、君の優しさは散らない
時間が経っても、きっと君のことを忘れないよ。
あの日、一緒に見た桜は何度も咲いては散っているけど、
君の優しい言葉が今でも忘れられないよ。
その言葉のおかげで、
今も君との関係は続いているけど、
君はあの日のこと、覚えているかな。
✾嘘の自分が好きな周りへ
簡単な嘘で周りにあわせて、
作った自分は本質を見失うから、
今、周りに微笑む自分はきっとぎこちない。
小さい嘘が数え切れないほど、
心の底に降り積もって、
もう限界だと思ったから、
そっと、今ある関係から抜けようと思った。
✾もし、君との思い出を消す力があっても
愛を青で塗るように君との恋は一瞬だった。
もし、君との過去が消える装置があっても、
諦めの悪い私は、きっと赤いボタンを押さないと思う。
✾私が片思いしていることを君は知らない
片思いなんて、無意味なのかもしれない。
だけど、君が私にくれた優しい言葉が忘れられず、
もっと君のことが知りたくなったんだ。
だから、君との関係が終わってもいいから、
明日、君に伝えてみる決意をした。
✾季節が巡るたびに大人へ近づく
コーヒーを飲みながら、
窓から差し込む春の黄色い日差しを眺めている。
去年を引きずったまま、
冬は簡単に終わってしまった気がする。
もう、10代も数本指を折れば終わるけど、
まだ、コーヒーをブラックで飲めるようになったことくらいしか、
大人になれていないような気がする。
✾新しいイメージを手に入れたい
まだ空気に馴染めないまま、
春が深まっていく。
人見知りの私でも、
なんとか、心を開く努力をして、
新しいイメージを作る努力をしている。
だけど、このままこのイメージで、
自分を続けられるのか不安だけど、
行き詰まったら、
そのとき、また考えることにした。
✾テイクアウトしたい春
テイクアウトしたフラペチーノを飲みながら、
ふたりで桜のしたのベンチに座って、
暖かいなかにいるのは、
ただ単に幸せすぎるのは君のおかげだよね。
「おいしいね」って君が言ったから、
「おいしいね」って返すことができる今を、
今、膝の上に落ちてきた、
花びらと一緒に保存したくなった。
✾お互いに慣れすぎたのかもしれないね
わがままを言いあえるくらい、
君との仲はもしかしたら、
ありきたりになっていたのかもしれないね。
君との恋は楽しかったけど、
君を傷つけてしまったかもしれないね。
だから、最後くらい素直になるね。
「ごめんね」
✾君に頼まれたから
君に頼まれて、君のバッグと一緒に
放課後の誰もいない教室で君を待っている。
君に頼まれたのは、偶然だったけど、
君とふたりきりで話したかったから嬉しかったよ。
君が戻ってきて、
「一緒に帰ろう」って言われたから、
それが嬉しくて、
心臓が一気に爆発しそうになったけど、
冷静さを装って、静かに頷いた。
✾平日はひとりだけど
レモンキャンディを口に含みながら、
オレンジ色の住宅街をゆっくり歩いている。
クラスガチャを外して、
憂鬱な気持ちは晴れないから、
このまま、去年の春にタイムスリップしたいけど、
そんなことなんてできないから、
とにかく明日の土曜と日曜を仲間と一緒に楽しみたい。
✾当たり前がわからない
当たり前や普通がわからなくて、
いつも上手く立ち振る舞うことができない。
我慢も、とっさのやり取りも、
思わず口にした失言も、
すべてなくなってしまえばいいのに。
いつもそう思うから、
今日くらい、ずる休みをして、
明日からまたへこまず、
頑張れるように今はひとりになることにした。
✾春色ロマンス
桜並木の下で、
白いセーターを着て、
両手を広げて回る君はかわいい。
セミロングでピンクが混じった茶色の髪で弧を描いたあと、
ピンクの花びらが舞うなかで
君が微笑んだから、
僕はそっとシャッターボタンを押し、
君のその姿をiPhoneでデータ化した。
✾夜に鬱が現れ始めたから
いつも、夜更けに決まって、
勝手に出てくる悪い妄想は頭の中で広がり、
つらい黒さでおかしくなりそうだけど、
とりあえず、今は、
帰りにファミマで買った
コーヒーゼリーの苦みと甘さをしっかり味わおう。
✾別に頑張りたくなんてない
いつも頑張りたくなんてないのに、
まわりのことを気にしすぎて、
頑張りすぎる癖を
自分でもどうにかしたいって思っているよ。
だけど、頼まれたり、勝手に期待されたりするのは、
どうやって断ればいいのか、わからないんだ。
だから、今日の夜みたいに
頑張りたくない日は、
エキナカで買った期間限定の
桜色のシュークリームとか買って、
甘さで自分を満たすことにしている。
✾たまに弱い刺激のなかに沈みたい
電球色で落ち着いた色をしている夜のスタバで、
一息つきながら、さっき本屋で買った文庫本を読み始めている。
抹茶ティーラテで甘さを補充して、
たまにひとりになりたい時間を今、充足している。
世界って思ったほど、悪くないんだと思うけど、
人間関係の刺激が強すぎて、
たまに疲れちゃうんだ。
✾このままの君でいて
君の左耳についているイエローゴールドが、
午後の柔らかい日差しで反射している。
君はピアスが似合うくらい、
華奢で、繊細で、優しいから、
このままの君でいてほしいなって、
勝手にいつも思っちゃうんだ。
✾ねぇ、なんでわかるの
今日、そして、今、カフェの中で、
君に話すつもりなんてなかった。
なのに、君は私の異変に気がついたんだね。
聞き上手すぎる君の所為で、
最近の黒いところ言っちゃったじゃん。
だけど、それすら肯定してくれる君は、
優しくて、最高だよ。
ありがとう。
✾春に始まり、春で終わる恋だった
君との恋は桜が散るときに始まり、
桜が咲いてすぐに終わったね。
この一年、すれ違いとか、多かったし、
君のことをしっかり理解できているつもりで、
理解できていなかったし、
お互いに妙にすれ違っていたんだね。
もっと、君との心の距離を近づければ、
簡単に別れることなんてしなかったのかもしれないね。
✾雨の日に桜を君と見る
今日も冷たい雨が降っていて、
せっかく咲いた桜も濡れたコンクリートに沈みそうだね。
「桜、見たいな」って君が言ったから、
雨の中、ビニール傘をさして、
ふたりで川沿いの桜を眺めながら、
ゆっくり歩いている。
「もっと早くいけなくてごめんね」 って君に言うと、
「いいよ、雨の桜って印象に残るから」と返して、
君は微笑んだから、少しだけ罪悪感が弱くなった。
2、恋愛は何色の言葉で表現すればいいの?
✾閃光アクティベート
そろそろ桜が咲くころになり始めても、
未だに眠いのは春の所為かな。
ゆっくり暖かくなった風を受けて、
揺れる木々にまたはが芽吹く季節になったね。
憂鬱を抱えたままのわたしと君たちに伝えたい、
木の葉と移ろう季節が時代を見守っていることを
大切にして生きてほしい。
目覚めの瞬間は今だから、
君の奥に囚われた鎖を開放しよう。
忘れた感触を思い出しながら。
黄金の空に舞う龍を眺めるように
大好きな世界を作り上げよう。
シリウスの果てまで手を伸ばすようにね。
✾すべて忘れてしまおう
手帳に書ききった黒くぎっちり詰めた思いを
ページを切り取って、ハサミで切り刻み、
それらをベランダからそっと春風に乗せたい。
当たり前だった充実感は消えて、
退屈が日々押し寄せてくる。
透明なコップにオレンジジュースを注いで、
溢れてもなお、
白いテーブルをオレンジの海にして、
しばらくの間、指で泳いで、気を紛らわそう。
抑えきれない感情の波は、
やられたことを忠実に再現してくる。
無視されたサイン、
粉々になったハートにクッキー、
すべて忘れて頑張ろう。
✾スプリングファンタジー
ゆっくりとヒレを動かして、
空を泳ぐクジラに君は子供のように
無邪気に手を振っていた。
僕はそれを黙って見守っていようとしたら、
「ノリが悪いね」と言われたから、
仕方なく小さく手を振ってみた。
弱い春風で制服のスカートの裾が揺れている。
もうすぐ、君の制服姿も見納めになるね。
春らしい薄ピンクが青にかかって、
空は最高に綺麗で、
このまま、ぼんやり春の陽気にやられて、
君との時間をゆっくり紡いで
大人になるのを辞めたくなった。
✾十分だよ
泣いてもいいよって、
言われると途端に泣けなくなるのは、
君に気心を許してないからじゃないよ。
雨の中で愛を誓うみたいに、
急に恥ずかしくなってるだけだから、
私のことなんか気にしないで。
大好きなレモンのキャンディを
口の中でコロコロさせても、
つらいことなんて消えないからさ。
だから、今、このまま、
一緒に過ごしてくれるだけで十分だよ。
✾憂鬱を飾りたい
スタバでぱっとしない将来のことを
考えると憂鬱が溜まっていく。
フラペチーノを飲んで、
気分を変えようと思ったけど、
急な無気力と漠然とした不安を
せき止めるにはまだ足りなさそうだ。
心を上手く開けないのは昔からだから、
大好きな歌を口ずさんで、
自分の世界を守ることを優先してきた。
臆病で嫌な気持ちは
ソーダ水で満たした水槽の底に沈めて、
ジェリーフィッシュっと一緒に眺めて、
LDEで淡く照らしてしまいたい。
✾終わったあとになって、傷がジクジクする
シャンディガフを飲みながら、
君が去ったことをずっと考えていた。
電球色の薄暗い店内。
窓ガラス越しには雨が打ちつけていた。
なにか直接的な原因があったわけではない。
ただ、砂時計がしっかりと時間を知らせたように
最初から期限付きの恋だったのかもしれない。
一口、含むと、苦みと甘さが一気に広がった。
雨滴の縦線が街の光をにじませる。
うっすらガラスに反射する
自分のアホ面を人差し指でそっと刺したけど、
今更、君を取り戻す方法は、
もう存在しないことをより自覚するだけだった。
✾千切りたい思いをページに詰めた
大嫌いでぐちゃぐちゃな気持ちを、
手帳にぎっちり書き終わり、
一息ついてコーヒーを手に取った。
灰色の街は傷ついた自分自身みたいだ。
気持ちは晴れない、苦みは身体中に染み渡る。
食べかけのシナモンロールは、
ご褒美のはずだったのに、機嫌はなおらないや。
ひとりきりで気楽に過ごしたいって、
現実逃避に憧れるけど、
現実は許してくれなさそうだ。
少しだけ冷たくなった手に
そっと息を吹きかけ湿られて、
カーテンを開け放つように
次のページを自分で褒めよう。
そんなことを考えていたら、
窓越しの世界は雨が降り始めていた。
✾一歩踏み出したい
海につながる大きな川辺をゆっくりと歩いている。
春の陽気につられて外に出たけど、
こんなところを歩くつもりなんてなかったのに。
風に揺れるワンピースと、
一緒に踊りながら、
また芽吹き始めた世界で感性を磨こう。
ひとりぼっちで過ごすことはもう慣れて、
悲しさすら簡単に乗り越えられるようになった。
だけど、たまに寂しいから、
誰かに話しを聞いてほしくなっちゃうのは本能だね。
理性では強がり、だけど、根は怖がりだから、
新しいことを踏み込むのに戸惑う。
だから、この春はしっかり自分を作りたい。
もっと、世界が違って見えるように踊ろう。
✾青い夜はイリュージョン
センチメンタルを袋詰して、
走り抜けよう青い夜の街を。
未来はきっと明るいだなんて、
誰かが呑気に言っていたのを思い出した。
立ち止まって、深呼吸して、
まだ冷たさが残る春の空気を吸い込み、
現実にトリップして、
叫びたい衝動をそっと抑える。
生きているだけで、
それで十分なんだって、
今更だけど、思い出して、
過去を断ち切る決意を今、そっと心に誓う。
✾それでも一瞬を楽しみたい
雨の中、ライトアップされている
桜は濡れていても綺麗で、
さしているビニール傘の上に落ちた花びらが
ワンポイントになって、
ちょっとだけ奇跡な気持ちになった。
濡れて落ちていくピンクで、
黒くなったアスファルトは染められ、
それを踏むのが少しだけ、嫌だな。
寒いけど、仕事帰りに寄ってよかったなって、
ふと思いながら、
今の面倒なことをすべて捨てたいなって、
すっと、ため息をひとつ吐いた。
✾きっと、ふとした時にまた、君のこと思い出しそう
君との恋愛はあっという間だった。
春になると、制服姿のあのときの君を思い出すよ。
透き通った青みたいな日々は、
時計の針に押されて、消えた。
叶わなかった願いは永遠になったね。
朝のカフェの中から、行き交う人の波を眺める。
もし、あの中に入ったら、
もう一度、君に会えるのかな。
あの日の約束は有効期限があったんだね。
それなら、最初から、
そう言ってくれていたら、
君のことなんて思い出さなくても
済んだのかもしれないのに。
✾ただ、君の隣にいたかった
やっぱりなって、すぐに感じた。
君への付きない思いは水槽の底を泳ぐ
エンゼルフィッシュを
ガラス越しでそっと触ってあげるように
実際には触れられない壁を感じた。
玄関のフローリングにバッグを
そっと置いたあと、
今日、ここにはかえってきたくはなかったなって、
思ったけど、別に、もういいよ。
私のこと、もてあそんだ、だけでしょ。
✾もっと、君を春色にしたい
ピンクの中で両手を広げて、
はしゃぐ君は最高に素敵だね。
回転と一緒に弧を描く茶色のボブの端は
春の白い光をしっかり反射して、
君の無邪気さがより引き立っているよ。
だから、一生忘れないようにiPhoneで撮ったよ。
春色のプリズムを
柔らかいフィルターで補正をかけて、
あとでもっと、かわいくしてあげる。
だから、あとでゆっくり、
スタバで限定フラペチーノを飲んで、
思い出をしっかり刻もう。
✾無敵になりたい
毎日を淡々とこなし、
季節は簡単に巡ってしまい、
一人きり、まるで取り残された気分になる。
咲き始めた桜の所為じゃないのはわかるけど、
勝手に恨んじゃう余裕がないよ。
いつも、都会の中で
不安に押しつぶされそうになりながら、
なんとか、毎日をこなしているよ。
こういうとき、過ごしの時間でも、
スタバに行って落ち着きに浸ればいいことは
わかっているんだけど、疲れてそれもしたくない。
だから、自分を力いっぱい最大出力する。
不安なんて幻想だよって、
無敵で若かった君に言われたのを思い出した。
✾もとに戻す魔法を唱えたい
公園のベンチにそっと缶を置いて、
桜で鮮やかになった世界をぼんやり眺める。
記憶とリンクする春の空気、
君が好きだったフレンチクルーラー、
トレーに落ちる砂糖、
クーラーで満たされた停滞する空気感。
今でも、きれいに再生できるよ。
風で弱く揺れる小枝にそっと囁きたい。
あのときはすべて本気だったんだよと。
いらない言葉ですべてを汚して、
黒い懐かしさをそっと水に馴染ませたい。
そして、すべてを元に戻したあと、
変わった自分で仲良しの魔法をかけて、
君を丁寧に扱いたい。
✾見ている世界はきっと良くなる
指先でそっと曇ったガラスをなぞり、
これから遠くへ行くバスから、
雨で濡れた街のファンタジーを眺める。
嫌な思い出をたくさん作った街は、
これで見納めなんだって思うと、
少しだけ傷が癒えたような気がした。
春は桃色のはずなのに色褪せるくらい
雨は降り続けている。
iPhoneを眺めてもきっと、
いい情報は見つけられない気がするから、
このまま、見慣れた街を
なんとなく目に焼き付けて、
これから始まる遠くの街での暮らしが、
上手く行けばいいなって、
ぼんやりした憂鬱をボトルコーヒーを飲んで、
希望を浄化した。
✾きっと、いつか今日のことを思い出しそう
君といると不思議と時間が過ぎていくのは、
君が素敵な春のマジックにかかっているからだよ。
桜吹雪の中で笑顔でいる君は、
吹雪の中、微笑んでいた君と同じで、
真冬の世界を一気に暖かくしたように
明るい君といると嫌なことも忘れられるよ。
今、尽きない会話が、
もし、尽き始めたときは、
今日のことをしっかりと話題にだすよ。
✾嫌な傷をしっかり癒やしたい
フラスコ水に水色を足すように
一滴ずつ、思い出をそっと混ぜていく。
それを水瓶に移して、
大好きなロックの周波数をあてて、
踊る楽しさに増幅させたい。
アパートの窓越しの世界は、
今日も雨が降っていて、
冷たい春は暖まる気配はない。
フラッシュバックする嫌なことは、
コーヒーをのむことくらいじゃ、
消えなさそうだから、
大好きな曲をiPhoneで流して、
大嫌いな過去をしっかりと忘れる努力をしよう。
✾真夜中と明け方の間。
冷たい風が吹きつける埠頭でひとりきり、
起き出す前の青くて薄暗い街を眺めている。
寒いし、誰もいないから、
白いパーカーのフードを被って、
日が昇っていくのをまっている。
お気に入りの腕時計の秒針がしっかりと、
時間を進めていくのを数秒、見たあと、
もう一度、対岸を眺めなおす。
すっかり、都会の孤独にはなれてしまったけど、
たまに忙しさに疲れてしまい、
そっと逃げ出したくなる。
だけど、今の生活を抜け出すことなんて、
できないから、
夜明けを静かに待つよ。
✾君に触れる
カーブミラーに映る制服姿の僕たちは
奥に映る風に揺れる街路樹と電柱の間で、
湾曲して、突っ立っていた。
風で君のスカートの裾は揺れて、
整ったボブの先もきれいに揺れていた。
「ねえ、キスしよう」
そう言われて、君の積極性を責めるより、
僕の消極的な姿勢に、一瞬、自己嫌悪した。
だけど、すぐに切り替えて、
君の肩に手を回した。
そして、とりあえずそのまま抱きしめて、
路地裏で君の体温を奪うくらい、
しばらくそのままでいたあと、
そっと、君を離した。
「あとでね」とわざと焦らしたけど、
君がつま先立ちをした直後、唇が触れた。
✾君にエールなんてダサいから、そっと、君のこと肯定する
君と抜け出した夜は、
何もかも絶望的に思えて、実は希望的で、
薄暗い公園の角で手を繋いだまま、
無数の瞬く星をしっかりと眺めている。
「世界なんて終わればいいのにね」って
ポツリと君が言ったから、
それも悪くないかもなって思った。
だけど、君と一緒にいられなくなるのは嫌だなって、
ちょっとだけ、ほろ苦くなった。
もし、目の前に星が落ちてきたら、
素直にサヨナラを言ったあとに、
また来世でねって付け加えよう。
だけど、今はこんなに平穏なんだから、
明日から、また君が生きれるように
今は静かに励ますよ。
✾前に進めないや
コンプレックスのすべてを受け入れてくれる
君とはなぜか、上手くいかなかった。
冬は寒いまま過ぎていき、
春が始まっても寒いままで、
たまに怒るロマンスも君以上の人はいなくて、
どうしても君と比べてしまうよ。
もし、パラレルを選べるとしたら、
パステル色の中で冷静にドキドキしたい。
もし、夏までに前を向けなかったら、
すべて君の所為にしてもいいよね?
✾始まってしまった遠距離恋愛
ホームで電車を待ちながら、
昨日、中途半端にしてしまった
君とのメッセージの返信を考えている。
君はきっと、上手くいくと思うよ。
そう思えるくらい、
眩しくてうらやましい内容だから、
もう、別に返さなくてもいいんじゃないかと思ったけど、
離れても君とのつながりを失いたくないから、
しっかり、優しいメッセージを返してあげよう。
✾落ち込む君は美味しい
落ち込んだ君を愛せるのは多分、俺くらいだし、
とりあえず、まだ春は暖かくないから、
君の大好きなココアをいれたよ。
星屑をミキサーで崩して、
それをバニラフレーバーと一緒に
葉巻の中に包んで吸い込んでしまえば、
きっと、少しは気分が上向きになると思うよ。
そう言ったら、
「やっぱり馬鹿だね。こんなときにそう言うこと、言えるんだから」
と言って、硬かった頬を柔らかくしたから、
俺も少しだけ頬の筋肉を和らげ、
自分の分のココアを飲み、
久々のココアって甘いんだなって、
なんとなくどうでもいいことを感じた。
✾恋愛は何色の言葉で表現すればいいの?
君への思いが届かないかなって、
空想に浸りながら、スタバで思案して、
限定のフラペチーノを飲んで、
近いうちに一緒に飲めたらいいのにな――。
ピンで装飾された君の言葉は素敵で、
何度も脳内で再生しても飽きないや。
また偶然を装って、
君と離して距離を縮めよう。
少しずつ、気づいてくれたら、
それで十分だよ。
君のことが好きな気持ちは、
きっと、今は一方的かもしれない。
君を振り向かせるには何色の言葉を操ればいいの?
【初出】
1章
完全書き下ろし
2章
蜃気羊X(@shinkiyoh)
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2023.3.5~4.10