*
「リモート授業!?」
「そう、迫河先生が掛け合ってくれて!」
放課後、みんながお見舞いついでに、今朝学校であったことの報告に来てくれた。
山本先生は、オレのスマートフォンを持って設定してくれている。
「まあ、教壇に向けてカメラを設置するだけだが……。このアプリを開けば簡単に繋がる。これで、出席日数の問題もクリアだ」
「先生、みんな……。ありがとう……」
柄にもなく、感動で目が潤んでしまう。
「あっ、 他のみんなにもお礼言っておいてな!?」
涙がこぼれないように、両手で目を隠しながら言う。
聞けば、クラスのみんなが校長室に乗り込んでくれたと言うし、本当に嬉しい。
「でも、リモートでも授業となると、制服がほしいな」
これ以上はわがままだろうか。
しかし、そんなオレの心を見透かしたように、るきあが紙袋を出した。
「そう思って──はい!」
中には、クリーニングに出された制服が入っていた。
倒れた時に汚れてしまったのだろう。
「るきあ、でかした!」
さっそく、シワにならないように備え付けのクローゼットにかけておいた。
「ねえ、ところでさ。なんで男子は病室に入れないの?」
一緒にお見舞いに来た神楽さんが、キョトンとしている。
今、この部屋にはオレとるきあ、山本先生、愛ちゃん、神楽さんがいて、神楽さんだけがオレの事情を知らない。病室の外では、晶と鳴沢が待っているらしい。
るきあと愛ちゃんも、説明ができずに焦っている。
「あー、説明が難しいな……。香西君は、ちょっと特殊な病気でね……」
山本先生が言葉を濁す。女性に事情がバレるのは、病状的には問題ない。しかし、神楽さんがうっかり誰かに話してしまう可能性がなくはない。事情を知る人間は少ない方がいいとの判断だろう。
「それはわかりますけど。要は、男子が近づけない何かがあるんですね?」
「まあ……そんなところだ」
神楽さんがそれ以上追求してこないことにホッとするが、彼女はなんとなく勘が鋭い気がする。
「香西くん」
「ん?」
「前に、言ったよね。チャンスがあったらって」
「え、あ、うん?」
神楽さんは、足元のベッドの枠に手を乗せて言ってきた。
たしか、体育館裏に呼び出されて告白された時……だったかな?
「退院したら、デートしよう!!」
またも唐突で真っ直ぐな告白に、開いた口が塞がらなかった。
みんなも、一斉に神楽さんの方を見て固まる。
「────え」
「ええええええええええっっっ!?」
その場にいた全員が叫んだ。
個室で良かったと思う。
「い、いや、唐突すぎる!」
「だって、香西くん、卒業したらドイツに行っちゃうんでしょ!?」
「そうだけど……!」
「だったら、もうチャンスは少ししかないじゃない! 香西くんとの思い出がほしい!」
待って、これ男子は女子に言われたら嬉しい言葉なの!?
「うーん、青春だねぇ」
山本先生は感心して見ているだけで助けてくれそうにない。
愛ちゃんは、口元を押さえて赤くなってるけど、なんだか楽しそうだ。
るきあにアイコンタクトを取ると、ハッとして間に入ってくれた。
「だ、ダメダメ!! ヒロは病気なんだから!」
「落合さんに聞いてない! 私は、香西くんに言ってるの!」
「むぐっ、正論……! でも、ヒロが心配なの!」
がんばれ、るきあ! と心の中で応援する。
「落合さん、あなた、好きな人いるんだよね?」
「どうしてそれを!?」
「新聞部の情報網、舐めるなー」
神楽さんは、ふふんとドヤ顔で笑いながら攻める。
「もし、落合さんの好きな人が遠くに行っちゃう予定で、今後二度と会えないかもしれないってなったら、どうする?」
「それは……」
ああ、きっと今、るきあはオレの兄貴の顔を思い浮かべているだろう。
そして、中学の時兄貴がドイツへ行くと決まった時……。
るきあは同じようなことを言っていたのだ。
「デートしたい、です……」
「ほらぁ♪」
神楽さんの勝利で、カンカンカン! と心のゴングが鳴ったような気がする。
「うう、ごめん、ヒロ……」
「いや、まあ……」
オレも、自分でなんとかしなきゃいけないのに、るきあに頼ってしまって申し訳ない。
「じゃあ香西くん、さっそく連絡先交換しましょ」
仕方なくスマートフォンを出して連絡先を交換すると、「よろしくね」と言っているキャラの、可愛らしいスタンプが送られてきた。
「リモート授業!?」
「そう、迫河先生が掛け合ってくれて!」
放課後、みんながお見舞いついでに、今朝学校であったことの報告に来てくれた。
山本先生は、オレのスマートフォンを持って設定してくれている。
「まあ、教壇に向けてカメラを設置するだけだが……。このアプリを開けば簡単に繋がる。これで、出席日数の問題もクリアだ」
「先生、みんな……。ありがとう……」
柄にもなく、感動で目が潤んでしまう。
「あっ、 他のみんなにもお礼言っておいてな!?」
涙がこぼれないように、両手で目を隠しながら言う。
聞けば、クラスのみんなが校長室に乗り込んでくれたと言うし、本当に嬉しい。
「でも、リモートでも授業となると、制服がほしいな」
これ以上はわがままだろうか。
しかし、そんなオレの心を見透かしたように、るきあが紙袋を出した。
「そう思って──はい!」
中には、クリーニングに出された制服が入っていた。
倒れた時に汚れてしまったのだろう。
「るきあ、でかした!」
さっそく、シワにならないように備え付けのクローゼットにかけておいた。
「ねえ、ところでさ。なんで男子は病室に入れないの?」
一緒にお見舞いに来た神楽さんが、キョトンとしている。
今、この部屋にはオレとるきあ、山本先生、愛ちゃん、神楽さんがいて、神楽さんだけがオレの事情を知らない。病室の外では、晶と鳴沢が待っているらしい。
るきあと愛ちゃんも、説明ができずに焦っている。
「あー、説明が難しいな……。香西君は、ちょっと特殊な病気でね……」
山本先生が言葉を濁す。女性に事情がバレるのは、病状的には問題ない。しかし、神楽さんがうっかり誰かに話してしまう可能性がなくはない。事情を知る人間は少ない方がいいとの判断だろう。
「それはわかりますけど。要は、男子が近づけない何かがあるんですね?」
「まあ……そんなところだ」
神楽さんがそれ以上追求してこないことにホッとするが、彼女はなんとなく勘が鋭い気がする。
「香西くん」
「ん?」
「前に、言ったよね。チャンスがあったらって」
「え、あ、うん?」
神楽さんは、足元のベッドの枠に手を乗せて言ってきた。
たしか、体育館裏に呼び出されて告白された時……だったかな?
「退院したら、デートしよう!!」
またも唐突で真っ直ぐな告白に、開いた口が塞がらなかった。
みんなも、一斉に神楽さんの方を見て固まる。
「────え」
「ええええええええええっっっ!?」
その場にいた全員が叫んだ。
個室で良かったと思う。
「い、いや、唐突すぎる!」
「だって、香西くん、卒業したらドイツに行っちゃうんでしょ!?」
「そうだけど……!」
「だったら、もうチャンスは少ししかないじゃない! 香西くんとの思い出がほしい!」
待って、これ男子は女子に言われたら嬉しい言葉なの!?
「うーん、青春だねぇ」
山本先生は感心して見ているだけで助けてくれそうにない。
愛ちゃんは、口元を押さえて赤くなってるけど、なんだか楽しそうだ。
るきあにアイコンタクトを取ると、ハッとして間に入ってくれた。
「だ、ダメダメ!! ヒロは病気なんだから!」
「落合さんに聞いてない! 私は、香西くんに言ってるの!」
「むぐっ、正論……! でも、ヒロが心配なの!」
がんばれ、るきあ! と心の中で応援する。
「落合さん、あなた、好きな人いるんだよね?」
「どうしてそれを!?」
「新聞部の情報網、舐めるなー」
神楽さんは、ふふんとドヤ顔で笑いながら攻める。
「もし、落合さんの好きな人が遠くに行っちゃう予定で、今後二度と会えないかもしれないってなったら、どうする?」
「それは……」
ああ、きっと今、るきあはオレの兄貴の顔を思い浮かべているだろう。
そして、中学の時兄貴がドイツへ行くと決まった時……。
るきあは同じようなことを言っていたのだ。
「デートしたい、です……」
「ほらぁ♪」
神楽さんの勝利で、カンカンカン! と心のゴングが鳴ったような気がする。
「うう、ごめん、ヒロ……」
「いや、まあ……」
オレも、自分でなんとかしなきゃいけないのに、るきあに頼ってしまって申し訳ない。
「じゃあ香西くん、さっそく連絡先交換しましょ」
仕方なくスマートフォンを出して連絡先を交換すると、「よろしくね」と言っているキャラの、可愛らしいスタンプが送られてきた。