あの日助けた君をもう一度好きになる


 
 放課後、オレはなぜかD組の神楽さんに体育館裏に呼び出されていた。
 体育館の中から、バスケ部のシューズが床に擦れる音が微かに聞こえる。
 
「話って何かな? 神楽さん」
「え? えぇっとー」

 呼び出したわりには、神楽さんは落ち着きがない。
 外ハネした無造作ボブの髪を、気まずそうにいじっている。
 向かい合っていながらも時間を気にしているような感じで、チラチラと来た方向を見ている。
 オレに話があるのではないのだろうか?

「あのー、話って?」
「あ、えぇっと……」

 言いづらい話なのだろうか?
 しかし、あまり時間もかけたくない。
 
「特に話がないなら、もう行っていいかな? るきあと待ち合わせしてるんだ」
「ま、待って!!」

 踵を返すと、焦って呼び止められて……
 
「香西くん、好きでーーーーす!!」
「…………」

 神楽さんのハキハキとした黄色い声が、辺りにこだまする。
 きっと、向こうのグラウンドの方まで届いているだろう。
 あまりの直球さに、オレは固まってしまった。
 神楽さんも、自分が言ったことなのに固まってる。
 
「って、何言っちゃってんの、私ーー!?」

 神楽さんは、頭を抱えて悶えている。

「ちょ、ちょっと待って! 今のナシ! ナシにして!」
「ナシ?」

 今の告白をなかったことに、ということだろうか?
 
「ああああええええとおおおお、 香西くんを好きじゃないとかじゃなくて好きなんだけど勢い余りすぎて気持ちが追いついてな」
「い、一旦、落ち着こうか」

 あまり話したことなかったけど、面白い子だな。
 喜怒哀楽が激しいというか……。
 そう思っていると、神楽さんはいきなり泣き出した。
 
「え、ええっ!? 大丈夫?」
「ち、違うの〜。自分の不甲斐なさに憤りを感じてるの〜! もっとロマンチックに告白したかったのに〜〜!」

 こ、こういう時どうすれば!?
 女の子に泣かれるなんて、るきあ以外では初めてだ。
 おたおたしていると、やがて神楽さんは泣き止んで、ニコッと笑った。
 
「ごめんね、もう大丈夫! 香西くんは、落合さんの事が好きだもんね!」
「いや、それは……」

 ああ、神楽さんも誤解しているのか。
 いや、ここはあえて勘違いさせておいた方が安全なのだろうか?
 
「でも、もし私にもチャンスがあるなら、またもう一度、今度はちゃんと告白してもいいかな?」
「……っ!」

 不覚にも、少しドキッとしてしまった。
 頬を染めてためらいがちに、上目でこちらを覗き見る神楽さん。
 恋する女の子は、こういう顔をするのか。
 
「じゃあ、またね」

 神楽さんは、笑顔で手を振って帰って行った。

「……うぅ〜ん、そうか……」

 反応に困って、頭を抱える。
 女の子に面と向かって告白されたのは初めてだけど──
 左胸に手を当てる。
 ドキッとしたのは一瞬で、それも発作のものではなかった。
 本当に、同性から(・・・・)は何も起きないんだな……。

 そういえば、最近やたらと視線を感じたのは、神楽さんだったのだろうか?