私が小説家になりたいと思ったきっかけは、友達とかにも言ったことがある。
――中学2年の秋頃にとある映画を観て、その映画が頭から数日ほど離れなくなったりと大きく心を動かされてしまった。だから、私もそんなものを誰かに与えたいと思ったから、
と。
たしかに、小説家を目指すきっかけとしては間違っていない。これは小説家を目指した大きなきっかけだ。でも、それは少し間違っているのだ。いや、言い直すと小説家になろうと思ったきっかけはこれだけではないということだ。これは少し怖いとかいう感情があったからなのか、そうではないのか分からないけれど誰にも言ったことがない、小説家になりたいと思ったもう1つの大きなきっかけの話だ。
私がちゃんと小説を書き始めたのは小説家になりたいと思い始めた中学2年生の秋頃からだろう。小学生の頃でも時々書いていたけど、本当に時々でありその頃は小説家を目指そうとかそんな気持ちはまだなかったはずだ。
そんな中学生時代、私は運動が特別好きというわけでもなかったし(中学生も今も運動は苦手だ)、特にこれといって入りたい部活もなかったし、人間関係を作るのも得意ではなかったため帰宅部を選んだ。だから、他の人よりも時間が取れるということもあって勉強をコツコツしていたので、塾に通ったことはなかったけれど、テストの結果も200人中1桁とかも取れていたり成績もそこそこだった。
ただ、中学2年生を過ぎたあたりから❝自分はずっとこのままでいいのだろうか❞❝こんな平坦な日々を過ごしていていいのだろうか❞と思うことが多くなった。この世界に退屈してきたとともにこの先の未来が怖いと感じたのだ。
中学生時代の私は今よりもだいぶ物静かな子(今でもそうかもしれないけれど今より何倍も)だったので、放課後とか休日、友達とどこかに食事に行く、遊びに行くとかそんなことはしていなかったのでほとんどの時間を家で過ごしていた。だから、こういう平坦な日々から抜け出したかったんだと思う。それに、その時は自分から発信することが苦手だった。お願いされたらどんなことでも基本的に断れなかった。でも、どこかで皆に自分のこと、自分の存在を認めてほしかった。だけど、そのきっかけがなかったのだ。
そういう私の中の考えとある映画の出会いが偶然重なったことで、私はこれなんだと思って小さい頃から物語を考えることが好きだったし、文章を書くのも得意だったので小説家を目指すようになった。
小説家になればしらずしらずのうちに皆、私の存在に気づいてくれるはずだし、小説を書くのに特別な能力も必要はない。そしてなんと言っても小説を書くことは他に誰もいなくても1人でできる。人間関係を作るのが得意ではない私にとって小説を書くことは適していたのだ。
そんなことだから当初、何の取り柄もない自分は小説に悔しいけど❝逃げたんだ❞と思っていた。誰もいなくてもいいとかいう理由に入り込んで小説という道に逃げたんだと思った。自分のことを逃げた弱い人だって。
高校に入ると、周りの環境も変わったということもあってか――いや、それよりも小説の世界を描くことでもっと自分に自信が持てたことで私はだんだん周りにも自分のことを発信するようになっていった。それに、行動範囲も増えていき中学校と比べればいい意味でも悪い意味でも少し別人になったのかもしれない。
そして高校1年生の終わり頃、夢だった小説(アンソロジー「5分後に世界が変わる」)を初めて出すことができ小説家になれた。そのことは私のクラスの人にももちろん伝えた。告知された日に真っ先に伝えた。今ではクラスメートから本名よりもペンネームで呼ばれることの方がもしかしたら多いかもしれないし(いや、半々ぐらいかな)、ちょこちょこと私のことをこれがきっかけで知ってくれる人も増えた。
私が小説を本格的に書き始めて約3年半、そして私が小説家になってから約1年。今思うことがあるとするならば、当時は小説に自分は逃げたんだと思っていた。
でも、今思えば小説に逃げたことなんか決してなく、むしろ自分は小説という特別な道を見つけられたんだと思っている。
だって、小説家になることで皆に自分自身のことをもっと知ってもらえたし、興味を持ってくれる人もいたりして話す話題もできた。
そして、小説家はあまり人と関わらないもだと自分の中で勝手に決めつけていたけれど、実際はそんなことはなく今さっき書いたようにこれがきっかけで友達と話すこともあるし、小説を書く同じ仲間だったり様々な人と関わることができた。もっと人との関わりが増えたのだ。特別な出会いが沢山あった。
つまり、いい意味で裏切られ、自分が変わるきっかけになったのだ。
人はどうしても悩んだり辛くなった時なにかに逃げたくなる事があるだろう。極端な例かもしれないけれど、例えば、テストでよくない点を取ってしまい、自分は勉強ができないんだと思って自分の趣味にだけ目を向けること。このようなことを世の中では『逃避』というらしい。
でも、私は経験から学んでそれは逃げているのではなくあくまで自分の道を作っているだけだと思う。そう思うようになった。人が本当に逃げることはないんだって。
私は小説に逃げてきた。
でも、今はそうじゃないんだと気付かされる。
小説を書くことは私の世界を特別なものにしてくれた。
出会わせてくれて、いや道の先にあったのが小説だったこと、本当にありがとう。
これからも小説を書き続けていきたい。
これからも友川創希として生き続けていきたい。
今日も、書くぞ。