あまり関わってはいけない、と思いその場を立ち去ろうとしたのだが「待て」と呼びかけられる。
「…何でしょうか」
ここまで会話が出来て違和感もない。妖はやはり違和感がある時が多い。彼は人だ。
低く抑えた声が向けられるが、先ほどよりも警戒心がないように思う。むしろ、文乃を確認してから男が纏わっていた雰囲気が変わる。
「ちょうど少しばかり時間があるんだ。良かったら話し相手になってくれないか」
「私がですか」
文乃の方は未だに緊張感が抜けない。
男の方が先にその場に腰を下ろした。文乃にお前も、という目を向けてくる。
危害を加えそうではないことを確認してから文乃も座った。せっかく久しぶりにこの場に来たというのにすぐに帰宅するのもな、と思った。
(…この人、いったい何者なの…?)
チラッと横目で彼を確認すると目が合った。咄嗟に目を逸らしていた。
横顔もあまりにも綺麗だったから、直視できなかった。
(…でも、この人、どこかで…)
「ここへはたまに来るのか」
「はい、最近はあまり来られませんでしたが…今日は少し考え事をしておりまして…せっかくだからここで気分転換をしようと」
「考え事とは?」
もう二度と会うことはないだろうその男に文乃は何故かつらつらと喋り出していた。
二度と会うことがないから、名も知らぬ男に話し出したのかもしれない。それに男は冷徹な見た目とは裏腹に会話が始まると文乃の声に耳を傾け、時折その整った顔を文乃へ向ける。
その仕草は文乃自身に興味があるように思ってしまう。
文乃は視線を足元へ移して呟くように話す。
「…実は私数か月前に結婚したのですが、その相手とは一度も顔を合わせていないのです」
「……」
「どのようなお方なのかもわからない結婚だったので不安だったのですが…まさか結婚しても顔すら知らない何て…。もしかすると頬の傷のせいかもしれません。私の顔の傷がやっぱり嫌になったのかなと」
「頬の傷?あぁ、これか」
彼は文乃の右頬にある大きな傷に手を伸ばした。
思わず大きく肩を震わせ、固まっていた。誰が見ても“可哀そうに”と思うであろうこの傷をその男は当たり前のように触れ、そして大したことのないように言った。
「別に気にならない」
「そんなことありません!実際これまで“名家のご令嬢”にも関わらず何度か破談になっております。この傷は遺伝するのか?と聞いてきた人もおりました」
男はふぅん、と興味無さそうに相槌を打つ。
(私の傷を見て気味悪がったり可哀そうだと憐れんだりしないのかしら。不思議な人)
正面の遠くを見つめる男の横顔を見つめる。やはりこの世のものとは思えないほどに美しい。
見つめる時間が長ければ長いほどに惚けてしまいそうになる。
興味無さそうに返事をする割に、男は文乃の話を聞きたがった。
「…何でしょうか」
ここまで会話が出来て違和感もない。妖はやはり違和感がある時が多い。彼は人だ。
低く抑えた声が向けられるが、先ほどよりも警戒心がないように思う。むしろ、文乃を確認してから男が纏わっていた雰囲気が変わる。
「ちょうど少しばかり時間があるんだ。良かったら話し相手になってくれないか」
「私がですか」
文乃の方は未だに緊張感が抜けない。
男の方が先にその場に腰を下ろした。文乃にお前も、という目を向けてくる。
危害を加えそうではないことを確認してから文乃も座った。せっかく久しぶりにこの場に来たというのにすぐに帰宅するのもな、と思った。
(…この人、いったい何者なの…?)
チラッと横目で彼を確認すると目が合った。咄嗟に目を逸らしていた。
横顔もあまりにも綺麗だったから、直視できなかった。
(…でも、この人、どこかで…)
「ここへはたまに来るのか」
「はい、最近はあまり来られませんでしたが…今日は少し考え事をしておりまして…せっかくだからここで気分転換をしようと」
「考え事とは?」
もう二度と会うことはないだろうその男に文乃は何故かつらつらと喋り出していた。
二度と会うことがないから、名も知らぬ男に話し出したのかもしれない。それに男は冷徹な見た目とは裏腹に会話が始まると文乃の声に耳を傾け、時折その整った顔を文乃へ向ける。
その仕草は文乃自身に興味があるように思ってしまう。
文乃は視線を足元へ移して呟くように話す。
「…実は私数か月前に結婚したのですが、その相手とは一度も顔を合わせていないのです」
「……」
「どのようなお方なのかもわからない結婚だったので不安だったのですが…まさか結婚しても顔すら知らない何て…。もしかすると頬の傷のせいかもしれません。私の顔の傷がやっぱり嫌になったのかなと」
「頬の傷?あぁ、これか」
彼は文乃の右頬にある大きな傷に手を伸ばした。
思わず大きく肩を震わせ、固まっていた。誰が見ても“可哀そうに”と思うであろうこの傷をその男は当たり前のように触れ、そして大したことのないように言った。
「別に気にならない」
「そんなことありません!実際これまで“名家のご令嬢”にも関わらず何度か破談になっております。この傷は遺伝するのか?と聞いてきた人もおりました」
男はふぅん、と興味無さそうに相槌を打つ。
(私の傷を見て気味悪がったり可哀そうだと憐れんだりしないのかしら。不思議な人)
正面の遠くを見つめる男の横顔を見つめる。やはりこの世のものとは思えないほどに美しい。
見つめる時間が長ければ長いほどに惚けてしまいそうになる。
興味無さそうに返事をする割に、男は文乃の話を聞きたがった。