その一瞬の動きを鷹臣は見逃さない。

 刀身を高く掲げて妖に影を落とす。妖の悲鳴が響きわたる。それは先ほどとはくらべものにならないほどに大きい。
そして切っ先を横に薙ぐようにして止めを刺す。
どさっという音がして妖が倒れる。

 鷹臣の後ろに逃げていた文乃は「よかった…」と泣きそうな声で呟く。
妖が消えるのを見届けると、鷹臣は座り込む文乃に膝を折り目線を合わせる。

「怪我は?」
「ありません。ごめんなさい…危険なことに…巻き込んで、」
「それは俺のセリフだ。すまなかった、怖い思いをしただろう」

鷹臣は文乃の後頭部に手をやり、自分の胸元に引き寄せる。

「それにしても君の逞しさは昔から変わらない」
「…え、」
「あの場面であの行動が出来る女性がどれほどいるだろうか」
「いいえ、とても怖かったです。でもきっと鷹臣様が助けてくれると信じていたので」

 文乃は胸の中で鷹臣を見上げる。
絡み合う視線はお互い熱を帯びている。

「俺はあの時から君に惚れていた」
「ほれ、ていた?」
鷹臣は愛おしそうに文乃を見下ろし、ゆっくりと言葉を紡ぐ。文乃は鷹臣の言葉を咀嚼するように繰り返していた。

「そうだ。だから君が他の男を好きだということは今でも許せない。何故俺じゃないんだ、とこうももどかしい気持ちになったことはない」
「え、え…」
「どうしたんだ」

 顔を真っ赤にしてあわあわと口を開け、混乱して文乃。

「誤解です…。私が胸を高鳴らせ、眠るときも夢の中でさえも考えてしまう相手は…あなたです。鷹臣様です!」

 唐突な告白に今度は鷹臣が固まった。
文乃はあの手紙の意図を、真相を丁寧に話した。
話し終えると、鷹臣は長い長い溜息を吐いてギュッと強く文乃を抱きしめた。
その時間がとても尊いものに感じた。